吹き荒れるマッカーシー旋風:進歩党を貶める「従北派」という幻 | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

前の記事をアップしてしばらく記事を書けませんでした。体調が相変わらず優れないのと、なぜか右手の中指から小指までが動かすと痛みが走り、キーボードを打つのが煩わしくなっています。この間お知らせすべき事柄が多かったのですが、こういうわけで記事をアップすることができませんでした。しかしそれでもお知らせするべき事はお知らせすべきだと思い記事を書くことにしたわけです。


今日お知らせすのは中世の「魔女狩り」、1950年頃からアメリカを席巻した「マッカーシー旋風」が現在の韓国を吹きすさんでいるという話です。


かいつまんでお知らせしたいと思います。前回の総選挙で統合進歩党が独自に行った比例代表候補選出選挙(比例代表候補の順位を決めるための選挙)で不正が行われたといううわさがどこからともなくでたのが発端でした。朝中東右翼3紙はこぞってこの問題を針小棒大に扱い、その不正が同党の主流派によって行われたのであり、その主流派はいわゆる「従北派」に牛耳られていると騒いだのです。


統合進歩党はチョ・ジュノ共同代表を責任者とした「真相調査委員会(委員全員が非主流派)」を構成し、調査を始めたのですが、なぜかチョ・ジュノは、上部機関の了承を得ないまま勝手に調査結果をマスコミに公表したのです。ところがその調査結果は「総体的な不正が行われた」と言うショッキングなものでした。この結果は右翼3紙ばかりか進歩を標榜する多のメデイアにも受け入れられ、「従北派が統合進歩党を牛耳るために組織的に仕組んだ不正」だということになってしまったのです。


ここで見逃せないのは「従北派」という呼称です。「従北」とは北に従属していることを表していますが、それは良く考えれば北の主張だけでは無く、南の運動勢力が南の実情に見合った運動をすべきだという意味にうけとれますが、悪くすれば、6.15,10.4北南共同宣言の否定にも繋がるものです。両宣言は民族統一に向けて南北が共に一つの道筋を通るべきだと言うことを宣言したものです。共同の道筋に従って北は北のすべきことを,南は南のすべき事を,そして米軍の韓国撤退など、南北が共同ですべきことをするのみです。ここには従属も「独自路線」もなにもありません。


事実、韓国では「反北」=「反共」が統一、民主、民生を訴え街頭に進出する人々を弾圧するのに使われてきました。韓国では解放後一貫して反米自主、民主、統一を唱える勢力はもれなく「北の第5列」とされ、国家保安法によって厳しく弾圧されてきました。韓国では「反共」=「反北」、反民主,反統一とされたのです。韓国の現代史がそれをよく示しています。そしてそうした意識、認識は金大中、盧武鉉両政権下でも解消されないままでした。そして今日に至っては「従北」という言葉がそれに加わっているというわけです。


と言うことから李明博政権が統合進歩党ないで生じた事態を黙ってみているわけはありません。朝中東をはじめとする「反共」マスメディアはこぞって「従北」を叫び、統合進歩党から「従北派」を追放すべきだと大書特筆しています。セヌリ党は「踏み絵を踏ませるべき」だとまさに「魔女狩り」を彷彿させる言動さえも公然と吹きでています。


見逃せないの事がもう一点あります。なぜ統合進歩党がターゲットにされたのかということです。統合進歩党は野党第1党の民主統合党とは比べようもないごく少数党にすぎません。しかし権力側の操縦(懐柔)のしやすさや新自由主義への親近感や親米度、親財閥性向などと比べると妥協のしようが無い勢力を成しています。しかも民主民衆勢力,特に最も闘争力の強い勢力との結びつきは多の政治勢力とは比べようも無く強く、大衆の信頼度も抜群に高い政党です。いわば権力にとって最も警戒すべき政治勢力であり、最初に打倒すべき政党なのです。


4月の総選挙では与野逆転を実現できませんでしたが、統合進歩党は躍進しました。大統領選挙を目指して野党連合を強く主張し、少数野党の統合民主党が巨大野党の民主統合党をリードしている状態です。その実力は李明博政権を震え上がらせた2008年のろうそくデモでも遺憾なく発揮しました。李明博政権、セヌリ党としては無視することの出来ない脅威なのです。李明博政権が今回の統合進歩党の混乱を見逃す手はないでしょう。


こうしていま、統合進歩党は解党の危機に直面しています。歴史が全斗煥政権時代にまで後退しようとしています。まさに歴史的反動の時代が来ようとしているのです。


最後にもう一点だけ指摘したいと思います。統合進歩党の今回の事態は内部に宗派(分派)が生まれていることを教えてくれます。統合進歩党が今回の事態を収拾するための内部闘争は徹底してこうした分派を解散させることを伴うべきでしょう。それこそが今回の危機を最終的に克服することになるのではないでしょうか。


それにしても日本のマスコミがこれを報じないのはなぜでしょう。報じることによって「骨の髄まで親米、親日」である李明博政権に箍を填めたくはないからでしょう。たとえば2008年のろうそくデモ当時、読売新聞はこのろうそくデモの「過激化」を非難し、つぎのように報じました。「過激行動に走るのは国家保安法撤廃、在韓米軍撤退など北朝鮮当局と同じ主張を掲げる親北団体のメンバーらとみられる」(6月30日読売朝刊)。


読売新聞も李明博政権よろしくこのデモを「北」と結びつけているのです。ここから推し量るに朝中東とまったく同じスタンスでこの問題を見ており、この「従北派」というレッテルを好んでいることを示しているのではないのでしょうか。このようなマスコミに事の本質をつかむことを願うのはまさに「木に寄りて魚を求むがごとし」ではないでしょうか。