Man is what he reads. -13ページ目

教養が問われる時

「イルカを獲って何が悪いのか?」
フォトジャーナリズム誌「DAYS JAPAN8月号」の特集記事である。
映画「ザ・コーヴ」の影響か、最近この問題に関する情報を目にすることが多い。
先日も池上彰氏のニュース解説バラエティ番組にて、そもそものところから解説されていた。

我々日本人がこの問題について語るとき、感情的にならずにいることは難しい。
「食文化に口を出されたくない」「絶滅の危機にある訳ではないのだから」とどうしても言いたい。何しろ、クジラの肉は美味しいし、イルカ漁で生計を立てている人もいる。

しかし、反対論者からみれば、到底理解できないことであるのは、犬を食べる習慣について我々の多くが抱く感情を想像すればよくわかる。

思うに、これは我々日本人の教養が問われている問題なのだろう。
ここでいう教養とは、博識と同義のいわゆる一般教養のことではない。
明治大学商学部教授 清水真木氏の「これが教養だ」(新潮新書)によると、教養とは、「公的なものと私的なもののあいだで巧みに折り合いをつける能力」(P19)と定義されている。
ネットの百科事典によると「人間の精神を豊かにし、高等円満な人格を養い育てていく努力、およびその成果をさす。」と定義されており、このような豊かな精神を持った人間がとるであろう行動を想像すると、なるほど清水氏の定義には説得力がある。

この定義に従って考えをめぐらすならば、今はこの問題について、「伝統的食文化と少数職人集団の雇用を守る」姿勢と「貴重な生態と賢さを有する動物を保護する」姿勢のいずれが公になるかの議論がなされている段階なのであろう。同じ倫理上の文脈に沿って議論が行われているのではないから、どちらにも善悪いずれのレッテルを貼ることは不可能だ。
ただ、広く世界の国々を見渡せば、どちらの立場により共感を覚える人間が沢山いるかは明白であるように思う。どのくらい先なのかは分からないが、我々日本人にとっては苦い合意がなされる可能性はある。我々は国際社会に生きており、その合意を無視することはできない。一度事が決したならば、紳士的に従うのみである。
だからと言って卑屈になる必要も、敗北感を味わう必要もない。それは我々の教養を証明するものであるからだ。
我々は、シーシェパードのような野蛮人では無い。

ざっくりわかるファイナンス

ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)/石野 雄一
¥756
Amazon.co.jp


“ファイナンス”、日本語では“財務”である。

前者がカタカナ英語として定着したのは、2000年代を迎えてからだろうか。

新聞、雑誌記事、そして書籍のタイトルにおいても、財務よりはファイナンスを使用しているものが目立つ。


ファイナンスがまだ、“財務”であった頃、同系列に扱われることの多い“経理”より遥かに遠い存在だったように思う。
財務より身近に感じるのは私だけであろうか。
その役割が想像しやすくなったような気がするのである。

私は、“ファイナンス”という言葉から“借金”を連想する。
なぜなら、世の中には“ファイナンス”という単語を社名に用いている金融業者が沢山存在するからだ。
こう言うと、「ファイナンスの役割とは、金を借りることか、もしくは融資することか」と思われるかもしれないが、間違いではない。
そこに、「ある組織の価値を最大化する為に」という副詞が付けば。

企業の、と付けば、コーポレートファイナンスである。

つまり“ファイナンス”とは、この目的を果たす為に、資金調達、投資、配当を行ってゆくことを指すのであり、借金も融資も、その主体客体は入れ替わるとは言え、ファイナンスの一部だ。

こういった”富の増幅装置”としての役割を、ある組織は、ファイナンスを活用して果たすことが求められているのである。

当然、このある組織は、価値を最大化する過程で社会に貢献する。

雇用、革新的なサービスなどなど。

だからこそ、ファイナンスは単なる金儲けとは異なる。


本書は、ファイナンスの基本的な部分について分かりやすく概説している。
入門書としてお勧めしたい。

コーポレートファイナンスがテーマであり、読者対象はビジネスマンだ。

おそらく、営業や販売に関わっている方であれば、よりスムーズに内容を掴めるだろう。

加えて、読後は、会社全体、ビジネス動向全体を見る視点が生まれているはずだ。

日々目にするM&Aのニュースやあなたの会社が取り組んでいる新規事業、これらが身近になる。

身近になるとは、その背後にある企画・試算段階での担当者の苦悩や思惑が想像できるようになるということである。


しかしながら、 我々ビジネスマンとしては、1点注意しなければならないことがある。

それは、我々がたくさんの変数に囲まれた、極めて流動的な舞台に立っているということである。
ファイナンスには確立された理論と公式があり、あくまで予測とは言え、この流動的なものを数値化することが可能である。

だが、企業がお金を動かす時に、下心と無縁ではいられない。

あなた自身が試算する場合でも、他者が行う場合でも。

また、試算はあくまで試算である。

想定外は必ず起こる。


努めて客観的に、そして柔軟であろうとしなければ、道を誤るだろう。

マッキンゼープライシング

マッキンゼー プライシング (The McKinsey anthology)/山梨 広一
¥2,100
Amazon.co.jp


製品やサービスの価格設定についてのアドバイスをまとめた本。
既存品の値引きと新製品の売り出し価格の決定を含む。

「値付けは経営」
とは、先ごろJAL再建の旗手となった稲盛昭夫氏の言葉である。

本書では、価格設定時に考慮すべきことが、数例の事例とともに紹介されている。

本書によると、顧客は、同カテゴリーの製品、サービスについて、その価格と便益によって、
自分にとっての良し悪し、合う合わないを認知している。
電化製品における Made in Japanと他国製の物に対する一般的なイメージもその一例であろう。

供給側にとって難しいのは、価格設定による需要の変化と競合の対応を読みきることだ。
これらを為すには、広くその業界についてのデータを持っていることが前提となるだろう。

そのデータには、顧客と競合の心理的側面も含まれるべきである。

行動経済学がブームとなって久しいが、我々人間の行動は時に不合理である。

しかしながら、その不合理の元を探ることは難しい。


コンジョイント分析のようなツールはあるが、この点を考慮すれば、多くの業界で、

最後は洞察力がものを言うのではないだろうか。