◆ 火吹く人たちの神 ~5






「土蜘蛛」の「温羅(ウラ)」伝説もガシガシ進めたいところですが…

こちらもガシガシと進めていきます。

ともにやり遂げた頃には、
自身のレベルも数ランクUPしていることと思います。それを信じて。


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■過去記事
~1 … 序
~2 … 耳と目の結婚(1)
~3 … 耳と目の結婚(2)
~4 … 耳と目の結婚(3)

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■ 耳族の出自と鍛冶技術との関わり

先住の南方系の海人族にどうして「ミ」「ミミ」という名がつけられていたのか?
その答えを谷川健一氏は突き詰めています。「黒潮の民俗学」という書にあるようですが、こちらではごく簡単にだけ触れています。




◎「儋耳朱崖」の習俗

南方種族(先住の南方系の海人族)というのは、「揚子江沿岸から海南島にいたる中国南部に住む海人族」としています(上部地図参照)。
彼らが大きな耳輪をさげる風習を持ち、日本列島に渡来してからもなお持ち続けたので、「ミ」「ミミ」の名をもって呼ばれたとしています。

「魏志 倭人伝」に、倭の習俗が「儋耳(たんじ)朱崖(しゅがい)」のものと似ているとあります。

*「儋耳朱崖」
紀元前110年に前漢が南越国を滅ぼし設置した郡のこと。海南島に比定され、儋耳郡と珠崖郡が置かれていました。紀元前82年に儋耳郡は珠崖郡に編入されるも、隋の時代に再び儋耳郡が置かれています。

再び本題に戻りまして…

金関丈夫氏は「儋耳」の「儋」は「擔(担)」と同じ意味で、「耳を担ぐこと」としているようです。海南島には非常に大きな耳輪をさげる民族があり、仕事や寝る時に邪魔になるので頭に「担」いでいるとのこと。これが「儋耳」であると。

「漢書 地理志」には、「儋耳」というのは大きな耳の種族がいるからで、肩三寸まで下っているとも。

なるほど…。

この習俗と倭の習俗が似ていると「魏志 倭人伝」にはあるのです。

大隅半島の南端近く、肝属郡(きもつきぐん)大根占町(おおねじめちょう)で発見された「岩偶」。両耳が外側へ突出、小孔有り。弥生時代のものと推定。おそらく耳飾りを嵌めたものであろうとされます。

谷川健一氏は「耳輪は、南方渡来の種族の標識として、ミおよびミミの名のつく人間たちの命名の起源となった」としています。

「ミ」「ミミ」の名のつく人(神)が九州に多く見られるのも事実(ただし第二部では出雲を中心に山陰地方にもみられるとしている)。
*投馬国の長官 → ミミ
*投馬国の副官 → ミミナリ
*五島列島の酋長 → 大耳・垂耳(→ 「土蜘蛛」二十三顧)
*アメノオシホミミ等

他にも「土蜘蛛」の耳垂(豊前国上毛郡・下毛郡)(→ 「土蜘蛛」九顧)など。

そして西九州や薩摩半島と南中国から海南島にいたる「東シナ海民俗文化圏」という呼び名を設けています。

この「大耳」について少々私見を。中国やインド辺りの古代東アジア情勢などはまったくの無知であり、門外漢が口を挟むな…なのかもしれませんが。

ヒンドゥー教の名だたるシヴァという神がいますが、巷に溢れるほとんどの画像で耳が長いのです。谷川健一氏が言うところの「東シナ海民俗文化圏」とは、形状が異なるのかもしれませんが、とにかく耳は長いのです。

ヒンドゥー教はインドやネパールなどで奉じられた宗教。南インドやネパールなどにも広がっていたとか(後に仏教を奉じるクメール人が支配)。シヴァという神がいつの頃から崇められるようになったのかは知りませんが、ヒンドゥー教は紀元前13世紀頃より始まった…などとWikiには記されています。

谷川健一氏は「耳族」の源流を「揚子江沿岸から海南島にいたる中国南部に住む海人族」と定義付けしています。「揚子江(長江)」の源流は「チベット高原」の中国側。
そして「チベット高原」の南側はインドやネパールなのです。「揚子江沿岸から海南島に…」とする「耳族」の源流がヒンドゥー教にあるのでは?などと思ったりもするのですが。

「長江(揚子江)」 *画像はWikiより

「サダシヴァ」5つの頭を持つシヴァ(カンボジア)
*画像はWikiより


*「盤古神話」「伏羲神話」
「東シナ海民俗文化圏」の人々は、
━━自分たちが人間の女と犬との間に生まれたという犬祖伝説をもっていた。その痕跡は今日でも、与那国島、小浜島、宮古島、加計呂麻島(かけろまとう)などの南島の始祖伝承にみとめられる。それが薩摩半島にもおよび、やがてはヒコホホデミとホスセリの海幸、山幸の神話にとり入れられ、また宮中の「隼人の犬吠え」の儀式ともなったと推定される。(中略)…犬祖伝説をたずさえてきた連中は、また大きなひょうたんからその犬が生まれたという「盤古(ばんこ)神話」や、大洪水がおそって大きなひょうたんにかくれた兄妹だけが生きのこり結婚して人類の先祖になったという「伏羲(ふつき)神話」も、もってきたにちがいない━━

このへんのことはまったくの無知なので、引用させて頂きました。「隼人の犬吠え」などはぜひとも学んでおきたいところなのですが。また…いずれ…そのうち…機会があれば…。

「盤古」は古代中国の神で、天地開闢の創世神。
*画像はWikiより



*金属技術と縁由をもつ海人族
「耳族」が九州西南沿岸部に住みついたあとに、北方から九州へ上陸してきたのがタカミムスビの神話をもつ支配種族。南方系種族と婚姻関係を結んだというのは既に記したこと。そしてその子に「ミミ」という名がつけられたことも。

神武帝は九州から東征、摂津三島のミゾクイミミの孫娘と縁組をむすび、カムヤイミミとカムヌナカワミミの二皇子が生まれています。
ミゾクイミミの名には「農耕のための鉄器の使用のあとがほの見える」としています。また摂津三島からは銅鐸の熔范が多量に出土。

「吾田隼人」の本拠とされる鹿児島県日置郡金峰町の高橋から、弥生前期の棒状鉄器が二個出土しています。
「吾田隼人」と言えば神武帝の夫人、アイラツヒメが居た所。ちなみに生まれた子はタギシミミとキスミミ。

谷川健一氏はここに、海人族が金属器とも関連をもっていたと推測します。

*鉄銅の神と「耳族」
タカミムスビの神話をもつ皇室の系譜以外にも、鉄銅の神が「耳族」と婚姻関係をもっています。

・スサノオ
出雲の須狭之八耳(須賀之八耳)の娘
但馬の太耳(前津耳)の娘

また海人族(南方系種族)が金属技術と縁由をもつことの例も示しています。

・大田田根子(神名から「タタラ」が連想される)
陶津耳(スエツミミ)の孫
・紀豊耳(キノトヨミミ)
紀伊国造家。日前神宮が銅鏡鋳造の説話有り、足跡のある国東半島が砂鉄に恵まれる。
・安曇(アズミ)
銅鉄器の運搬だけでなく、製作や使用に従事。また祖神は穂高見(ホダカミ)。
・吉備臣
祖神は御鉏友耳建日子。「耳」「鉏(すき)」が含まれる。

神武天皇の曾孫である第4代懿徳天皇の名は「オオヤマトヒコスキトモミミ」。「鉏(すき)」も「耳」も含まれます。また神武天皇の皇后も姫蹈鞴五十鈴姫命、「タタラ」が含まれます。

*鍛冶技術を携えた南方系海人族
以上のように「耳」の付く人物(神)は、南方系種族をあらわし、それと同時に鍛冶技術をもっていたことが推定されるとしています。
つまり鍛冶技術を携えた種族が、南中国から日本列島に渡来したことを意味すると。

この種族は稲作の盛行期に日本列島に渡来した水田耕作民であり、他方狩猟(漁撈)にも長じていたと。さらに鍛冶技術をも日本にもたらしたとしています。

*南方系種族と銅
銅鐸の型は古朝鮮の「馬鐸」とされます。その中に描かれる文様には高床式家屋があり、南方系匂いが濃いもの。関連が想定されるとしています(「高床式家屋」の現在の正式名称は「高床住居」)。

現在は中国南部にあった越国の貴族墓から、銅鐸に似た原始的な磁器の鐸が出土。中国南部から直接日本に伝わったのではないかとする説もあります(Wikiより)。





今回はここまで。

「序説」にもかかわらず内容はあまりに濃厚。
そりゃ何度読んでも隅々まで把握できてるわけがなかったな…とあらためて。


*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。