今回より「耳と目の結婚」の本題へと進みます。
ようやくというべきか…。
この企画物テーマ記事、
終わりが見えない(笑)
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■過去記事
~1 … 序
~2 … 耳と目の結婚(1)
~3 … 耳と目の結婚(2)
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■序説 耳と目の結婚(3)
◎金属神から農耕神へ━━二つの文化の逆接構造
ここまでの多くの例から、鍛冶神から稲の神への変貌が行われたのが、記紀編纂の時代までであったと分かります。これは天孫降臨神話からも推し図られると谷川健一氏はしています。
天孫降臨神話は紀の本文と異伝(一書)、さらに記とでは記述が異なります。要点は最初はタカミムスビ神が降臨の司令塔であったものが、後にアマテラスに移っているということ。三品彰英氏の研究を基に谷川健一氏が私見を加えています。
*紀 本文
[司令塔] タカミムスビ
[降臨神] ホノニニギ
[降臨神の容姿] 真床追衾に包まれた嬰児
[降臨地] 日向襲高千穂峯
[随伴する神々]
[神器の授与]
[統治の神勅]
*紀 第六ノ一書
[司令塔] タカミムスビ
[降臨神] ホノニニギ
[降臨神の容姿] 真床覆衾に包まれた嬰児
[降臨地] 日向襲高千穂峯
[随伴する神々]
[神器の授与]
[統治の神勅]
*紀 第四ノ一書
[司令塔] タカミムスビ
[降臨神] ホノニニギ
*紀 第二ノ一書
[司令塔] タカミムスビ・アマテラス
[降臨神] アメノオシホミミ(後にホノニニギに代わる)
*記
[司令塔] タカミムスビ・アマテラス
[降臨神] アメノオシホミミ(後にホノニニギに代わる)
[降臨神の容姿] 降臨間際に出誕(容姿記載無し)
[降臨地] 日向高千穂久志布流多気
[神器の授与] 三種神器の授与
[統治の神勅] 瑞穂国統治の神勅
*紀 第一ノ一書
[司令塔] アマテラス
[降臨神] アメノオシホミミ(後にホノニニギに代わる)
当書では表になっていて分かりやすいのですが…ご了承下さいませ。
最も古い形態は紀の本文と第六ノ一書であり、
(1)司令神がタカミムスビのみ
(2)降臨神はニニギであり、オシホミミは関与しない
(3)ニニギがマドコオウブスマに覆われて天降りをする
(4)神勅や神器の授受がない
(5)随伴する神もない
ところが以下のように変化します。
(1)司令神にアマテラスが加わり、さらにアマテラスのみ
(2)降臨神にオシホミミが挿入される
(3)容姿には触れられなくなる
(4)神勅や神器が加えられる
(5)随伴神に五伴緒(五部神)等が加えられる
つまり農業神であるアマテラスが前面に出てくるようになったのは、後になってからであるということが分かります。
紀の顕宗天皇三年、春二月の条に、タカミムスビこそが皇祖であるかのような記述がみえます。
━━任那へ派遣された阿閇事代に、月神から「我が祖であるタカミムスビが、天地鎔造の功を預けた。民地を我が月神に奉るように。若し我の献上を請うことに応えれば、福慶があるだろう」と神託があった…(以下略)━━(大意、詳細は →【書記抄録】日神と月神、対馬&壱岐と十市郡&葛野郡)
タカミムスビの「天地鎔造の功」と記されます。これを谷川健一氏は、
━━おそらく、タカミムスビが金属を鎔融し、それでもって天地を堅固に作ったという伝承が、かつてあった。それは日本に金属器が流入したときには、多くの人たちの支持を得た考えであった。…(中略)…しかし、金属器の流入や製作がめずらしくなくなっていった時代には、むしろ農業の生産力が誇示される。かくして、アマテラスを日神としてあがめ、農業神としてまつる信仰が前面に出現した━━と。
高皇産霊神を祀る大和国葛上郡 高天彦神社
*天皇族と農耕民の婚姻と混血
「天皇族」とはタカミムスビ神を奉戴した種族。アマテラス神話を固有する先住の米作農耕民を征服した進入民族であり、王朝の基礎を開いた種族。
この征服民族は北方の朝鮮半島から渡来した種族で、「北方系の文化」を持つと。一方で先住異族は南中国の苗族や東南アジアの少数民族で、「南方系の文化」を持つと表現しています。
岡正雄氏の説から引用し、
━━北方から日本列島に進入した天皇族はタカミムスビ神を奉斎していたのだが、先住の農耕民族と婚姻し混血した結果、先住の農耕民の母権母系母処婚の生活を受け入れた。そしてその奉斎する神であるアマテラスを天皇家の祖先神としてあおぐようになった━━としています。
(注) アマテラスを奉斎したのは、「南方系の米作農耕民である先住異族」としていますが、実は後で鍛冶技術との関わりを記しています。
*「ミ」と「ミミ」の母系制
「ミ」も「ミミ」も同じであるとするのは本居宣長。「古事記伝」のなかで、「ミ」と書いて「ミミ」を意味するとしています。
アマテラスの子にアメノオシホミミがいて、タカミムスビの子にタクハタチヂヒメがいて(紀の一書は孫とする)、この両神が婚姻した結果、天孫のニニギノミコトが生まれました。
ここに「南方と北方の両文化の結合がなされた」と谷川健一氏は示しています。
アマテラスの子のアメノオシホミミという「ミミ」の名のつく直系男子。一旦は天孫降臨の主人公となるはずだった神。結局は断念し、さらにその子のオシホミミを降ろすことになりました。
本居宣長は「古事記伝」のなかで、
━━オシホミミのオシは大を意味する。ホもまた大であるからアメノオシホミミは天大大耳にほかならぬ━━と記します。
ニニギノミコトは南九州「吾田」のコノハナサクヤヒメと結婚しヒコホホデミを生みます。ヒコホホデミは海神の娘のトヨタマヒメを娶りヒコナギサタケウガヤフキアエズを生み、そのウガヤフキアエズはトヨタマヒメの妹のタマヨリヒメを娶りカムヤマトイワレヒコホホデミ(神武帝)を生みます。
また海神族にはオオヤマツミ(大山祇神)やワタツミなど「ミ」の付く名前があります。
さらにカムヤマトイワレヒコホホデミは海神族のアヒラツヒメを娶り、タギシミミやキスミミを生んでいます。三島のミゾクイミミの娘のヒメタタライスズヒメ娶り、カムヤイミミとカムヌナカワミミ(第2代綏靖帝)を生んでいます。
カムヌナカワミミの子のシキツタマデミ(第3代安寧帝)。
以上のように海神族系(南方系種族)たちと婚姻する度に、「ミ」「ミミ」の名が付く子が生まれています。明らかに母系制であることが分かります。
━━皇室の系図をみると、タカミムスビ神話をもった北方的な征服氏族が、婚姻を通して、歩一歩一代ごとに南方的な文化をもつ集団の方に引き寄せられていく過程が手にとるように分かる。それはタカミムスビにたいするアマテラスの優位が確立されていく過程でもある━━
谷川健一氏はこのように記しています。金属神から農耕神への転移があったと。
今回はここまで。
次回はこれまで述べられたことと真逆のことに、話を展開していきます。
*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。