◆ 玉鋼(けら)の杜 
~金屋子縁起と炎の伝承~ 15





前回の記事からまた新しいお題に。
「金屋子神」の呼称についての諸説(前編)をお届けしました。

間を空けずに(中編)をUPします。


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■過去記事
1 … 金屋子神社の概況(金屋子神祭文雲州非田伝)
2 … 金屋子神の信仰圏
3 … 「金屋子神」八幡神説(前編)
4 … 「金屋子神」八幡神説(中編 1)
5 … 「金屋子神」八幡神説(中編 2)
6 … 「金屋子神」八幡神説(後編)
7 … 「金屋子神」天日槍神説(前編)
8 … 「金屋子神」天日槍神説(中編)
9 … 「金屋子神」天日槍神説(後編)
10 … 「金屋子神」卓素系神説
11 … 「金屋子神」素盞鳴尊・韓国伊太氐神説
12 … 「金屋子神」金山彦命
13 … 「金屋子神」その他諸々説
14 … 「金屋子神」の呼称(前編)

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■ 「金屋子神」についての諸説 (中編)

◎タタラ神の別名「金鋳護神」

*「カナイゴ」
柳田国男氏の「地名の研究」に以下のように示しています。
━━「東作誌」を見ると、今の美作苫田郡加茂村大字黒木字樫原に、金屋護神と言う祠がある。銕山(かなやま)の守護神だと言う。同郡上加茂大字物見にも金鑄護宮(かないごのみや)と言う祠が三つ、此地往古銕山ありしとある。又、同じ村大字青柳字宝尾の寺山にある三宝大明神は、祭神は大国主命・事代主命・宇賀魂の三座で、祭日は九月九日であって「相伝う此神はタタラ師の持来りし神なりと、故に金鑄護の神とも言う。又、山の神とも言う」とある。カナイゴと言う地名は中国地方に広く分布している。石見那賀郡雲城村大字七条若林谷には、金屋子とかいてカナイゴという小字もある。察するに、カナイゴは本来タタラ師の別名であって、其カナイゴの守護神なるが故に、金鑄護神などの名を用いたものではなかろうか━━

「東作」とは美作国(みまさかのくに)東部のこと。美作国は現在の岡山県北部で鳥取県とを境とする山間部。津山市や美作市を中心とした地域。

「石見那賀郡」とは石見国那賀郡のこと。現在の島根県西部、浜田市を中心とした地域。

これが答えだ!と言わんばかりの説。これを裏付けるかの如く以下を。

*単なる鉄山の守護神
「鉄山の信仰とその変遷」(窪田蔵郎)において以下のように記しています。
━━金屋子神は、現在の宗教形式とは全く異なり、神職そのものを現人神(あらひとがみ、生神)として把握し、霊的な神は神道の概念からは若干外れた、漠然とした唯単なる鉄山の守護神とのみ理解されていたのではなかろうか。中国地方において金屋子神が、かなやこ神としてよりも、むしろ金銕護神をもって当てられ、かないご神と呼ばれている所にも、その一端がうかがえる━━

ともに「カナイゴ=タタラ師」であると。つまり「金屋子神=タタラ師」であると。

付け加えるのなら谷川健一氏は、長年のたたら製鉄作業により片目を失明してしまうと、その師は神へとみなされたのではないか。また鞴(ふいご)の足踏み作業で足を痛めてしまうと、そちらもまた神へとみなされたのではないか(足痛し→穴師)という説を上げています。



◎御子誕生説

*母子信仰
「日本民俗学体系 8」の中で堀一郎氏は、「金屋子縁起抄」に主神(金屋子神)の母神が金山彦命と結婚しやがて金屋子神を生んだとあるが、これは記紀との妥協をはかろうとしたとしています。つまり母子信仰があったが記紀に妥協させるために金山彦命と結婚させたのではないかと。

*若宮の誕生
「鑪と鍛冶」において石塚氏は、神が天降る際に必ず巫女がいたに違いないとし、やがて若宮が誕生するとしています。その例として
・天目一箇神と道日女の間に御子
・大物主神と勢夜陀多良比売との間に比売多多良伊須気余理比売
・火雷神と玉依日売との間に加茂別雷神
以上を挙げ、金屋子神の「子」にその残映を見出せるのではないかとしています。

*「神のまつり」は「神の子を生むこと」
「日本の神々」において平野仁啓氏は、「加茂別雷神社の縁起の中心は、神を祀る巫女が、神の子を生むという話になっているが、実は、神の子を生むことが神のまつりであった」と記しています。



金山彦命の転訛説

「芸藩通誌」(文政十二年・1829年、安芸国広島藩の通誌)に以下のようにあります。
━━金屋子神社、加計村吉永ニアリ、金屋子ハ金山彦ノ転訛ナルベシ、鉄山ノ守護神ニテ、鉄業ノモノ皆コレヲ祭ル━━
この神社は不明であるとのこと。




━━「金屋子神」についての諸説━━を3回に分け、今回は(中編)をお届けしました。次回(後編)はなるべく早めに上げるようにします。


(若狭国 阿奈志神社)


*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。