矢田神社 (京丹後市峰山町矢田)


丹後国丹波郡
京都府京丹後市峰山町矢田322
(P無し、道路向かいの空地のようなスペースに停め置きしました、他に近隣で停められそうな所は無し)

■延喜式神名帳
矢田神社の比定社

■旧社格
村社

■祭神
伊賀加色許命


「竹野川」中流域、西側の丘陵地、小さな「矢田」集落内に鎮座する社。往古は社前辺りまで、日本海からの「潟湖(せきこ)」が広がっていたと思われます。
◎社記録等が存在しないため、限られた古文献と古老口碑に依拠されるものの、まったく異なる2系統の創建由緒が伝わっています。
◎多数派は天酒大明神(豊宇賀能売命)ゆかりの社であり、本来のご祭神であろうとするもの。
「丹哥府志」はご祭神を姫宮大明神としており、これは豊宇賀能売命(豊受大神)のこと。羽衣天女ゆかりの社としています(詳細は → 「京丹後の二つの羽衣伝説」記事にて)。また明治二年の「峯山旧記」という書には「天酒大明神」とされています。こちらも豊宇賀能売命のこと。
◎宝暦三年(1753年)の「峯山明細記」という書には、「姫宮二尺社 若宮相殿」とあるようです。当時は姫宮、若宮が並んで一つの上屋の中にあったとのこと。また享保十五年(1730年)の棟札に「若宮大明神 姫宮大明神」が列記。
◎また「丹後舊事記」には以下のように。
━━「矢田」とは、「屋退(やた)」という意味で、養父である和奈佐翁の家を退去された比治山の天女豊宇賀能売命をまつったもので、「あまの原ふりさけ見ればかすみたち、家路まどいて行衛しらずも」の歌を御神体と仰いだと伝えた。
…九座一神、すなわち五穀成就の神豊宇気持、豊宇賀能売両社を氏神とすることは、谿羽道主命(丹波道主命)が、自分の娘をして、この神をまつらせたそのおかげで、四人の娘が垂仁天皇の后や次妃となったその神徳をあがめた━━
歌が御神体であるという、これまた何とも麗しい話に。四人の娘というのは日葉酢媛(皇后)・眞砥野比賣(妃)・弟比賣・八乙女。

これを引用した「峰山郷土志」は、以下のように指摘しています。
━━しかし、この「屋退(やた)」の説に対しては、異論が多く、また豊宇気持命と豊宇賀売命の両社を氏神としたというのは、姫宮、若宮を意昧するのであろうか。いささか了解しにくい点がある━━
豊受大神に子女がいたとする文献は知り得る限りは存在せず、峰山町「鱒留」地区に伝わる「天女の羽衣」伝説に3人娘があったとされる程度。豊受大神が降臨した(比治の真名井で水浴みした)という「磯砂山(いさなごやま)」の麓に鎮座する乙女神社には祀られているとも。結局のところ「若宮」は不明。
◎「古神社調査御届」という書には、━━醍醐天皇の延長六年(928年)、勅命により諸国から「風土記」を奏上した時、この「屋退(やたい)」の理由を詳しく申し上げたが、すでに元明天皇和銅六年(713年)五月の勅語で、畿内七道諸国、郡、郷の名は好字を用いるよう命じられていたので「屋退」は不吉だというので「矢田」を用いたのだという━━とあります。
つまり延長六年に「風土記」に記載される「屋退」の理由を問われたが、既に和銅六年に勅語により「矢田」に変更されていたというもの。「風土記」が現存しないため詳細は不明であるものの、延長五年の「延喜式神名帳」では既に「矢田神社」の社名であり、また「風土記」編纂開始が同じく和銅六年、既に「矢田」の好字に変えられていたであろうから、この内容は矛盾したものとなります。
◎ところが上記の「峯山旧記」と同年の明治二年に、丹波の天酒大明神の神主(多久神社と思われる)が神祇官役所に提出した書類には、
━━矢田神社 祭神 武諸隅命、右殿 若宮 祭神 伊賀加色許売 建内宿禰、左殿 祭神 下影日売命━━としています。
武諸隅命は初代「丹後国王」の由碁理と見られており、娘の竹野媛が開化天皇皇后となっています。若宮のご祭神としてあげている伊賀加色許売はおそらく、「賀」と「加」が逆となる誤植とされます。下影日売命は不明ながら、建内宿禰の母である山下影日売命のことかと。
◎いずれの神も祀られる由緒は不明。察するに與謝郡に鎮座する矢田部神社に倣ったものかと。そちらは矢田部氏が奉斎したと思われる社。矢田部氏については、「新撰姓氏録」に「左京神別 矢田部連 伊香我色乎命之後也」とある氏族。伊香我色乎命は饒速日命六世孫。一方「先代旧事本紀」には、饒速日命八世孫の武諸隅命の孫の大別連公が、仁徳天皇の御代に矢田部連姓を賜ったとあります。いずれにしても物部氏。当地周辺に物部氏は痕跡は見出だせませんが。
◎以上のようにご祭神については確定が困難な状況。現在のご祭神は伊賀加色許命。ところが氏子たちは天酒大明神(豊宇賀能売命)として奉斎しているようで、また例祭も天酒大明神を対象としています。



車はこのように停め置きました。



境内社。古文献にはいくつかの境内社が示されているも一社のみ。




*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。