伊富岐神社 (不破郡垂井町岩手)


美濃国不破郡
岐阜県不破郡垂井町岩手字伊吹1484-1
(境内前に駐車スペース有り)

■延喜式神名帳
伊富岐神社の比定社

■旧社格
県社

■祭神
多多美彦命


「伊吹山」の東麓に鎮座する社。美濃国二ノ宮。「伊吹山」の麓には近江国から美濃国にかけて同名社、あるいは類似社名社が数多く鎮座。その社名から伊福部氏(伊福氏とも)が奉斎した社であることが察せられます。
◎伊福部氏は大和国はもとより美濃国や出雲国・因幡国を中心に、石見国、但馬国など陸奥国から薩摩国まで各地に広がっていた一族。製銅・製鉄氏族であり、鉱床を求めて各地に広がり、また転々としていたものかと思われます。いくつかの系統があった可能性もありますが、同系統になっています。
◎伊福部氏が製銅・製鉄を担う氏族であったとするのは一説に過ぎないものの、谷川健一氏らによる各地の綿密な調査研究の成果により、既に疑う余地の無い事実かと思います。弥生時代の製銅に始まり、やがて鉄の流入伝播によりその技術は製鉄へと受け継がれたようです。
「伊福」は「息吹」のことであり、鑪(たたら)製鉄(製銅)に必要な鞴(ふいご)に風を送り込むものかと。他に「伊福部」を「火吹部」由来と見る向きもありますが、こちらも鑪製鉄(製銅)に関するものかと思われます。
◎「新撰姓氏録」には数多く掲載されています。「左京神別」に「伊福部宿禰」・「伊福部連」、「大和国神別」に「伊福部宿禰氏」・「伊福部連」、「山城国神別」に「伊福部氏」、「河内国神別」に「五百木部連氏」など。「左京神別」では「尾張連同祖 火明命之後也」とあり、他にも「火明命之後也」または「火明命子天香山命之後也」とあります。
◎「鑪(たたら)」を行うのには暴風が必用不可欠で、当地には「伊吹おろし」というものがあるようです。上記の通り「伊吹山」麓には同名・類似社名社がすぐ南には「南宮山」があり、これまた鍛冶神を祀る南宮大社が鎮座。東方には銅が産出された「金生山」があり、かつて赤坂鉱山があったようです。金生神社と金山彦神社(未参拝)とこちらも鍛冶神を祀る社が鎮座します。
◎創建時期については不詳。「日本文徳天皇実録」(六国史の第五)には、「仁壽二年(852年)十二月美濃國伊冨岐神を以て官社に列す」とあるとのこと。既にその時には創建がなされていたことが窺えます。
「伊吹山」麓に数多く鎮座する「イブキ」神社の中で、当社が式内社となり得たのは、壬申の乱にて功績があったからではないかと考えます。当社から南方1km足らずのところに「天武天皇 野上行宮跡」(未見学)という史跡があります。これは壬申の乱の際に在地豪族の邸宅を借り受けたもの。想像を逞しくするなら、ここで戦に必要な大量の武器を仕入れたのではないかと。正史を見る限りこの時点ではかなり形勢不利な状況であったにも関わらず、近江進軍から一気に形勢逆転しています。
「伊吹山」については日本武尊の神話が有名。東国平定後に疲れを癒す間もなく「伊吹山」の悪神退治に向かいます。なぜか草薙剣を持たずに素手で向かったと。ここで悪神に迎撃され、この痛手が原因で能褒野で亡くなりました。
◎当社ご祭神は多多美彦神。14世紀後半に編纂された「帝王編年記」では「伊吹山」の神霊とされています。「霜速比古命之男 多多美彦命 是曰謂夷服岳神也」と。ご本殿の配置からして「伊吹山」を御神体としているのは明白。また周辺の「イブキ」社においても多多美彦神をご祭神とする社が見られます(久々美雄彦神社など)。気吹雄命、夷服岳神、伊吹雄命などとも表記される神。「鑪(たたら)」に必要な強風を神格化したものと解するべきでしょうか。
◎日本武尊神話では、「伊吹山」の神霊は牛ほどの大きさもある大猪であると記されます。一方、紀では蛇神であると。
◎氏姓研究の宝賀寿男氏は、多多美彦命を阿蘇大神である健磐龍命(健男霜凝日子神)と同神であると見ています。また息長氏の祖神でもあると。これは龍蛇体でもあることから言えるとしています。
◎他にも当社ご祭神を伊福部氏の祖である火明命とする説も。察するに、当地辺りまで勢力を広げていた尾張氏の傘下に伊福部氏が入ったのではないかと。上述の壬申の乱の際、天武天皇に在地豪族が…というのは尾張氏の裔。
◎さらに「伊福部神社縁起」等いくつかの書では八俣大蛇であるとされています。これは紀の蛇神とある記述を受けて民話が形成されたことによるものと思います。近江国側では(「伊吹山」は近江国と美濃国に跨がる)、伊吹弥三郎(伊吹童子)の民話が伝わっており、前身は八俣大蛇の大蛇であるとされています。「平家物語」においても伊吹大明神は八俣大蛇のことであると。
「神名帳考証」において伴信友が鸕鷀草葺不合尊としているのは不可解。
◎「不破郡史」においては、ご本殿は伊吹大明神、両脇に鎮座する境内社には天火明命の子孫(尾張氏)が祀られているとのこと。一御子 天香語山命、二御子 天村雲命、三御子 天忍人命、四御子 天斗目命、五御子 建斗目命、六御子 建田背命、七御子 建諸隅命、ハ御子 倭得玉彦命、九御子 若都保命。


*写真は2016年4月と2022年5月撮影のものとが混在しています。




桜の時期にも参拝しました。







巨大鏡が掲げられています。

写真左手に境内社がうっすらと見えます。

少々気になる境内社。祓戸社なのかもしれません。或いは厳島神社か。

その境内社をUPにて。



享保元年銘の手水鉢。