人間には五感があります。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚です。人間は、その五感により個人的に、うれしい、つらい、好き、嫌い、きれい、汚い等を感じます。

毛皮は、触覚により感じられる美であります。勿論、見てきれいな物も多いのですが、触覚で理解できる美は毛皮しかありません。宝石は石ですし、金は金属です。絵画は触れて分かる美ではありません。当然、音楽も聴覚で感じる物です。

私は、子供の頃から神経質と言われ、音や臭いに過敏に反応していました。今から考えれば

これは感覚過敏とわかるのですが、音にも臭いにも、好き嫌いがはっきりしておりました。

学生時代には、映画と音楽にハマり、ろくに勉強しませんでした。就職も、まともに考えていなかったので、就活はせず、ひょんなきっかけから毛皮を扱う会社に籍を置くこととなりました。

当初は、動物の死骸から獲れる毛皮に違和感を覚えていましたが、毛皮原料の倉庫番になり、様々な毛皮原料に触れているうちに、ある数種類の毛皮では、触れているのに触れていないような、いわば透明感を感じる物がある事に気付きました。(ずっと後になり、数種類の毛皮の内の、品質の良い物のみがその透明感を持つ事が分かったのですが。)私は、毎日仕事で倉庫番をしているので、少しでも時間があると、それらの透明感のある毛皮に触れるのですが、その感触により、気分が高揚し、本当にうれしくなっている自分がいたのです。触れて気持ちが良いのは、人と人のふれあいですが、それは美ではなく、心によるもので、毛皮に触れた時の至福感は他にはありません。

その会社で8年半修行をし、その後、毛皮原料の目利きとして、オークションブローカー業を始め、今に至っております。初めて毛皮の美の感触を知ってから既に46年経ちました。

私は、良い仕事に巡り合ったと心から思います。

私は、少しでも毛皮の美しさを分かって頂ける方がいてくれればと思い、本当の毛皮の事をお話ししようと思います。