映画探偵室 -1980ページ目

コンドル(14)

寄り添って,というか密着して寝ている二人。ターナーが目をさますと,女は眠ってはいなかった。
「何時だ。」
「6時よ」
「ニュースの時間だ」
ターナーは起き上がってTVをつける。観光業者のCMのような画面が出て中南米風バカンス気分の音楽が流れている。ニュースが始まるまで音楽とは裏腹な感じのする壁の写真を1つずつじっと見ていくターナー。
女はちょっとオヤと思う。私の写真になど興味があるのかしら?
冬の公園の空のベンチ,誰もいないホッケー場のゴール,林の中の人気のない小道,トラックと乗用車が並んで走っているだけの人間味のない図柄…ターナーが言う。
「淋しい写真だ」
女は肩をすくめて言う。
「そう?」
ターナーが言う。
おかしな女だ。どの写真も人けのない街や枯れ木だ。」
女が言う。
「冬よ」
ターナー(ロバート・レッドフォード)が写真をもう一度じっと見て言う。
「すこし違う。そうだな…11月だ。秋と冬の間」。そして女の顔を見る。
女は怪訝な顔をする。
「いい写真だ。」
その答えに驚いたように,女はちょっと微笑んだ。
「どうも。」

(これで二人の運命が決まったわけではないが,この映画で一番の場面だと探偵は思う。皆さんにも堪能していただきたいので,マタマタ休憩)


コンドル(13)

探偵としてはお二人にできるだけ時間をあげたい気持ちなので,この間を利用して野暮な話を片付けてしまいたい。
実は先ほどの工作会議で,勘のいい観客には,「敵」そのものを除き,今後の展開がほぼ推理できるようになっている(ただし原作とは異なる)。
ターナーの経歴や事件の経過を説明するヒギンズが報告者の位置に,そして本部長を真ん中にお歴々がずらりと並んで検討が開始される。この本部長は「第一次大戦時から諜報に従事している」という男で,老人にしては血色も良く,悠々,堂々としている。報告を受けながら時折り挟み込むコメントから,視野が広く,思考が柔軟であることが伺える。「悩ましい男だ」と言ったのはこの本部長だった。途中で電話が一本入る。全く顔色を変えることなく,「ターナーの経歴に銃の腕が書いてないことは信じられない」という意見に対し「報告書が改竄されていたのかも知れない。何か対策はあるのかね,副本部長?」であった。これで決まった。副本部長がどう答えるかに関わりなく…
そして,

次の,つまりターナーとキャシーの場面の次の場面は,この作戦副本部長があの殺し屋と並んで歩く夜のワシントンの街となる。
「まずいことになった」
殺し屋(マックス・フォン・シドー)が答える。
「彼は素人だ。緊張もしている。それだからこそ常識に当てはまらない動きをする。ウィクスとは違う」
「ウィクスをオトリに使って呼び出そうか」
「無理だろう。あの男には通用しない」
「時にターナーに殺された男は何者だ?」(この発言に注意:探偵)
そばをアベックが通ると,突然二人の会話がフランス語になる(それを補うように英語のスーパーが出る)。
「サム・バーバー,彼の親友だ。ただの会計係だ。何で興味がある?」
「みんなまとめて始末するためだ。ウィクスで失敗したからその埋め合わせに」
「それは困る」
「大丈夫,無料にする。」

ここで観客は気づかなければならない。あの本部長への電話は何と言っていたのか。そう,本部長からマックス・フォン・シドーに直接連絡が取れた,という報告である(探偵の推理)。とすれば,本部としての本当の標的が誰になったのか。マックス・フォン・シドーは夜の闇に再び消えた。ターナーの最大の敵がこの男であることは疑えないが(野暮な話が終わって次に続く)。

コンドル(12)

でも簡単に受け入れるわけにはいかない。
小声で言う。「かってだわ」(“Unfair”)
ターナーにもそれは分かっている。短い時間で説得できるような問題ではない。
ターナーは改めて部屋の中を見渡し,今度は女に質問した。
「あのシャツの持ち主はどこだ」
「スキー場よ。グリーン・マウンテンの。クロスカントリーをする予定よ。すべてを忘れて約2週間。」
ターナーは男がスキー場に先に行っていることを確認すると共に,彼女にとっての,おそらく最後のチャンスを奪いつつあることを感じた。信頼し切れていはいない男ではあるが,やっとその話に乗ってみようかと決心した矢先。その約束を破れば,もうこの女に幸せは巡ってこないだろう…

「出発は40分後か。6時のニュースまで休みたい。」
ターナーはソファー・ベッドの方に女を連れて行くと壁に背を向けて横になるよう,命じた。
「お願い,やめて」
怯える女の横にターナーは身を寄せ,拳銃突きつけながら言う。
「いいな,よく聞け。私は疲れた。すこし眠りたい。頭を休めたいんだ。動いたり,ベッドから離れようとすると感じで分かるから,君を撃つぞ。」
「向こうの部屋に行かせて」
「だめだ」
「あなたの話を信じる」
「無理だ。自分でも疑っている」
こんな形ではあるが,ターナーは女にぴったり身を寄せてしばらく眠った…(40分後にまたお会いしましょう。探偵)