腰折り探偵再々登場
1.決して整体治療師の廻し者ではありませんが,ここで無駄知識をすこし。最初に登場した「自動読み取り機」は実は架空の存在です。1975年当時OCR(光学的文字読み取り機)は開発されていませんでした。それどころか,映画中で全員がタイプライターを使っているように,ワープロさえまだ普及していませんでした。パソコンなど持っている人は皆無で,その概念さえ生まれていませんでした。これはそういう意味でも画期的な映画なのです。唯一可能な場所はMITかベル研究所(有名なIBMの母体),(ここで先にバラしますが,ターナーはそこの出身ということになっています),そしてベル研究所のライバルにあたるパロアルト研究所などです。ワタシは何故かこの「自動読み取り機」が強く脳裏に残っていて,それから十数年経ってワンボード・パソコンを自作した際に,真っ先にチャレンジしたのがワープロ兼自動翻訳機(お粗末なもの)でした。その時,そして今の職業を通じて知ったのですが,この文字読み取り,解析の研究が最も盛んだった場所はサンフランシスコのパロアルト研究所でした。こここは有名なシリコン・バレーの一画で,ロッキード社,ヒューレット・パッカード(HP)の本社などもある有名な軍産複合体の本拠地であり,パロアルト研究所はそれからまもなくXerox社となる一方,同一地区で空軍用に分散ネットワーク・システムを開発していたのがランド・コーポレーション(アメリカの代表的な軍事複合企業)であり,それを引き継ぐ形でAdvanced Research Projects Agency (ARPA)という1958年設立の学術研究施設が現在のインターネットを作り上げたのです(最初は「ARPAネット」と呼ばれた)。この物語の背景にはこれらの,いわゆる「情報システム」が生まれつつある時代が反映されていると思われます。
2.9.11で逮捕された「犯人グループ」の1人は,「CIAビルに激突する計画があった」と語ったそうです。
コンドル(8)
監督と観客,読者と探偵との間の駆け引きに加え,戦いが誰と誰(どのレベル)の間で進行しているのかが,新たな謎として浮かび上がる。そして,1975年と2007年という二つの時間の間に横たわる謎についても。おそらく,映画制作上のフィクションだとしても,あるいは単純な事実に基づいていたかも知れない(もはや存在していないのだ!)にしても,次の場面でも何度もツイン・タワービルが現れるのは単なる偶然ではないだろう。当時,ツイン・タワービルが初代の摩天楼に続く第二の摩天楼と呼ばれてことを私は記憶していたのだ。摩天楼は英語ではSky Scraperという。事実中国系の女の説明にもskyという言葉は使われていた。文字通り天を引っ掻くもの,天に挑戦するものである。
(ここでお呼びじゃない探偵の蛇足:先に銃の口径のことと入弾痕(正確には入射痕という)の話をしたが,探偵はその時,すぐさま「ザプルーダー・フィルム」を思い浮かべたのである。あの時<ケネディ暗殺>の時のCIA長官は誰だったか?そして歴代長官の中にはどんな名前があるか)
ツインタワー・ビルを背景に処理班の報告が流れる:
「ニューヨーク支部へ」
「オー・ジー・ワンどうぞ」
スーパー:「そちらは?」
ニューヨークの景色が窓越しに見える,かなり上のレベルの個人執務室:「ヒギンズ副支部長だ。どうぞ」
処理班の車のそばから報告:「被害確認,報告どおり,死亡6名」
ヒギンズ副支部長の執務室:「仕事ぶり(クオリティ)は?」
処理班の報告者:「最高級です」
ヒギンズ:「6名?」
処理班の車のそば,まずスーパーが出る:「7名のはずだ」
報告者:「名前をあげます。ラップ,チョン,ラッセル,ジェニングス,マーチン,ミッチェル」
ヒギンズ:「7人目を捜せ」
そして彼はすぐに秘書官らしき男から資料をうけとり,デスクで検討を始める。
「コンドル,読書分析係,マンガを好む」
セントラルパークのターナー。揚げたてドーナッツをほお張りながら思考している。パトカーのサイレンが聞こえる。
何かに気がついて近くの別のアパートに向かう。ハイデッガー博士の研究室だ。うまく住人の1人をだまして中に入ると,案のじょうハイデッガー博士も殺されていた。時間をおかずに捜査班の男と思われる2人がアパートに駆けつけた。ターナーは間一髪,姿を見られずにその場を立ち去ることができた。騙された住民が叫んでいる:「おい誰だよ?どうしたんだ?」
ワシントン記念塔が見えるオフィスの窓:
スーパー:「7人目を発見」
その建物が川越しに見えるフリーウェイの景色
スーパー:「ハイデッガー自宅で死亡」
「了解。処理班を送る」,声:「Yes, sir]
「ラングリーの本部を」,声:「Yes, sir]
(探偵注:CIAの本部がラングレイにあることは有名である)
どこかの都市の郊外にあるらしい基地らしきものの景色。
スーパー:「ニューヨーク支部のヒギンズだ。17課を」
スーパー:「グロバーだ」
続いて地下施設内を歩く男が一室に入って報告する:
「君の部下が襲われた。17課だ」
書類を受け取りながら男が訊く:「どこかな?」
報告を受けた男:「ニューヨークだ。なぜかな」
そしてデスクに着きながら書類を見る。
報告を受けた男:「本の虫ばっかりだ」
報告者の後ろ姿にスーパー:「8人のうち7人が殺された」
報告を受けた男:「生き残ったのは」
報告者の後ろ姿にスーパー:「コンドル,知ってるか」
報告を受けた男は早速どこかへ電話する。
「知らんな。しゃべれるのか?」
報告した男:「外出していたから無傷だ」
報告を受けた男:「詳しい事情を?」
報告した男:「電話の後姿を消した」
報告を受けた男:「知らせてきたのは?ヒギンズか?」
報告した男:「飛行機の手配をした」
報告を受けた男:「ニューヨークへ飛びたい。すぐにヘリを用意しろ。こちらウィクスだ。」
公園のターナー。思案の後何かに気づいて歩き出す。向かったのは自宅のようだ。
自宅アパート前にいた管理人のおばさんから「お友達が2人来たので鍵を渡した」と言われて,すぐさま事情を察知し,立ち去るターナー。
そして又ツインタワー・ビル全景。
(まだまだ続く。早く女を出せ,という声も聞こえているが,焦ってはならない)。コンドル(7)
用心深く外に出ると,まず入り口に止めておいたバイクが細工されていないかチェックする。OK。
ふと向こうを見ると濃いサングラスをかけた中年の女がベビー・カーかワゴンのようなものを押してこちらに来る。そして中を覗き込むように身をかがめた。危ない!思わず上着の下のコルトに手をかける。
「バカ野郎,昼間からねぼけるな」
通りかかったイエローキャブからの罵声であった。
走って,できるだけ近くの公衆電話ボックスに入る。3回ダイヤルを回す。
どこかのオペレータ室で緊急電話の赤いランプが点く:
「少佐だ。」
外部から見える公衆電話の中:「ジョー・ターナーです」
オペレータ室:「身分は?」
公衆電話の中:「え?」
オペレータ室の少佐:「身分を」
公衆電話の中:「ターナーです。あんたに雇われた…」
オペレータ室:「身分を証明してください。暗号は」
公衆電話の中:「あ,コンドル。所属してる第9部第17課が襲われた。」
オペレータ室:「程度は(どのレベル)?」
公衆電話の中:「程度(レベル)?」
オペレータ室:「損害のだ」
公衆電話の中:「全員です。博士もジャニスもレイもハロルドも…」
スーパー:「オフィスの電話か?」
ターナー:「ちがうちがう,少し離れた公衆電話です」
オペレータ室。背景には色分けした地図が見えている:「規則に違反した連絡方法だぞ」
公衆電話の中:「しかたないだろう。何をいってる,馬鹿やろう。買い物にでた間に全員殺されたんだ。」
スーパー:「部外者(探偵注:音声は「カンパニーの外」である)に事件を知られたか」
ターナー:「多分知られていない」
「君も負傷を?」
ターナー:「負傷?いいや」
オペレータ室:「武器を持っているか」
公衆電話の中:「しかたなしに暗号名“ナイチンゲール”の拳銃を。彼女が護身用に持ってた銃です」
オペレータ室:「どんな」
公衆電話の中:「45口径。保護してください。私の専門は読書だ」
オペレータ室:「その場所を離れろ」
公衆電話の中:「いまから本部へ行ってもいいですか」
スーパー:「安全な場所をみつけろ」
ターナー:「どこへ」
オペレータ室。現在通話中の緊急電話の赤ランプが点灯する:「知られていない場所だ。自宅はまずい。」
オペレータ室:「2時間後に少佐に電話しろ。」
少佐の背中越しにみたオペレータ室。色分けした世界地図が見えている。
「2時30分だが,時計は?」
公衆電話の中:「合ってる。2時30分ね」
公衆電話の中,少佐の声:「受話器をかけずに離れろ」
質問しようとするターナーを無視するように,ここで電話は切られた。
「17課が襲撃された」
オペレータ室からは行動指令が出され,緊急処理班が動き出す。と同時にワシントンに連絡が飛ぶ。
その経過と,一人残されたターナーが思考を開始して行動に移していくシーンがカット・バックする(交互に現れる)。
オフィスに向かう処理班。
セントラル・パークの中を走るターナー。
処理班の車には「ビル清掃会社」の文字が見える。清掃員の服装をした作業員がオフィスに入っていく。
MoMA(ニューヨーク市立近代美術館)の中をうろつくターナー。さかんに思考している。
偽装清掃員の1人が車に帰ってきて報告する。報告の第一声「ニューヨーク支部を」がスーパーで出る中,現れた画面は―
