長~い昼食
え~,長い昼食をとっております。もとい,「長いお別れ」と「さらば愛しき女よ」(Farewell My Lovely)をやっと入手しました。ロバートミッチャムとシャーロット・ランプリング,いいねえ,泣けてくる。探偵とターゲットの鏡だ。だもんで,もう少し昼休みを,お願い。
コンドル(6)
いつものハンバーガー・スナックで「博士」というあだ名を持つターナーが冗談をとばしながら機嫌よく昼食から帰る頃には雨は上がっていた。
そしてまたいつものように監視カメラに向かってピース・サインを送る。ドア・ロックの解除を知らせるブザーは鳴らない。しかし,ドアを見るともう少し開いている。不手際を冗談の種にしようとしてターナーはドアを開けながら言った。
「警備システムの故障か?」
惨劇が起こった。いや,起こりつつあった。警備員が死んでいる。階段では博士が死んでいる。振り返れば女性受付係も死んでいる。この瞬間,ターナー自身が優秀なCIA要員に変貌した。2階からは読み取り機の音が聞こえている。そして用心深く階段を上ってまず発見したのは,虫の息の恋人だった。彼女を抱き上げた時,その温かみから,まだ敵がいる可能性を想定に入れた。他のメンバーは全員死亡していた。しかし,抱き上げた瞬間彼女は何もいえないまま息を引き取った。トイレのドアの弾痕,女の背中に残る弾痕,そして階段の弾痕が映される。つまり,これらの縦弾が氷かどうかをターナーが確認した,ということであり,観客は自分で判断してください,ということである。動き続けている読み取り機から打ち出されつつある文字が何であるかは通常の観客には読めないだろう。ワタシも皆さんに教えるつもりはない。ワタシは整体治療師の回し者ではないからだ。
敵はまだ近くにいる。監視カメラの映像では外は異常が無い。連絡を取ろうして受付係の電話に手を伸ばすが止める。盗聴を恐れているのだ。受付係だった女の胸には喫いさしの煙草がまだ燻っているのである。ターナーは引き出しの中からコルトを取り出し自分の身に着けた。それから用心深く外へ通じるドアを開ける…
ここからがターナーと「敵」だけでなく,映画の作者と観客,そして当探偵と読者との間の枕較べ,じゃなかった読み較べになる。
CIA側に犯人がいることはもう分かっている。ターナーの情報分析からいって(ターナー自身は知っているわけだから),いわゆる「アラブ側」がターナーたちの暗殺を計画する理由がないことは明白だ。しかし,うかつに連絡してもいいものかどうか。本当の「敵」は誰なのか,どのレベルなのかは分からない。1人1人の一挙一投足,1つ1つの言葉がすべて「暗号」なのだ。ここからは背景の画面と台詞だけを繋げて行こう(もうちょっと待ってね,昼食の時間になったので。また後でね)。
コンドル(5)
ほんの小さな計算違いが起こった。12時8分前だというのにターナーが規則違反の裏口から雨の中を昼食に出かけてしまった。
それを知らずに「敵」は12時きっかりを待つ。これがぴったりでなければならない理由は誰にでも分かるだろう。オフィスの前の人通りは少ない。雨はまだ降っていた。
指揮者のマックス・フォン・シドーが待つ中,あちらの街角から1人,そして反対側の街角からもう一人,不気味な黒合羽姿の男がオフィスの方にやって来る。オフィスからはまだ誰も出てきていない。そして3人揃ってからオフィスのブザーを鳴らした。
タイプライターを打っていた銜え煙草の受付係が郵便配達人の姿を監視カメラで見て,そのままロックを外す。ドアのガラス越しに黒い人影が見えたが,受付係はその方を見ずに,手紙は奥の警備係に渡すよう告げる…ほんのひと呼吸…いきなりサイレンサー付きの自動小銃が発射され,受付係はもんどり打って後ろに倒れる。郵便物を受け取りにおっとり刀でやってきた警備係,「ターナーが規則破りをした」と言いながら二階から降りてきた博士が次々と疑念を抱く暇もなく殺される。螺旋階段の壁には弾痕が斜めに走るように残った。ほんの一瞬の出来事であった。
警備係が倒れる際に半分壊したアンティーク風のスタンドを見て,マックス・フォン・シドーは何かを見破る。秘密電話だ。難なく引きちぎってしまう。
二階からは読み取り機の音が聞こえている。サイレンサーとはいえ音はする。雨の日でなければならない理由の1つであった。しかし二階では異変に気づいていないようだ。音が止まった。手分けして各部屋をチェックした殺し屋達は,トイレのドア越しに1人,デスクのそばで又1人,見つけ次第すぐ射殺した。一番奥の部屋にいたターナーの彼女が止めたはずの読み取り機が動き出した音に気づき入り口を振り返ったとき,そこにはマックス・フォン・シドーを先頭に三人の殺し屋がいた。
「わたし,叫んだりしないわ」
「窓から離れたまえ」
女が逃げ場を求めてかすかに動いた。殺し屋が角度を変える。同時に自動小銃が火を噴く。冷静で無慈悲な行動のみがそこにあった(続く)。