コンドル(5)
ほんの小さな計算違いが起こった。12時8分前だというのにターナーが規則違反の裏口から雨の中を昼食に出かけてしまった。
それを知らずに「敵」は12時きっかりを待つ。これがぴったりでなければならない理由は誰にでも分かるだろう。オフィスの前の人通りは少ない。雨はまだ降っていた。
指揮者のマックス・フォン・シドーが待つ中,あちらの街角から1人,そして反対側の街角からもう一人,不気味な黒合羽姿の男がオフィスの方にやって来る。オフィスからはまだ誰も出てきていない。そして3人揃ってからオフィスのブザーを鳴らした。
タイプライターを打っていた銜え煙草の受付係が郵便配達人の姿を監視カメラで見て,そのままロックを外す。ドアのガラス越しに黒い人影が見えたが,受付係はその方を見ずに,手紙は奥の警備係に渡すよう告げる…ほんのひと呼吸…いきなりサイレンサー付きの自動小銃が発射され,受付係はもんどり打って後ろに倒れる。郵便物を受け取りにおっとり刀でやってきた警備係,「ターナーが規則破りをした」と言いながら二階から降りてきた博士が次々と疑念を抱く暇もなく殺される。螺旋階段の壁には弾痕が斜めに走るように残った。ほんの一瞬の出来事であった。
警備係が倒れる際に半分壊したアンティーク風のスタンドを見て,マックス・フォン・シドーは何かを見破る。秘密電話だ。難なく引きちぎってしまう。
二階からは読み取り機の音が聞こえている。サイレンサーとはいえ音はする。雨の日でなければならない理由の1つであった。しかし二階では異変に気づいていないようだ。音が止まった。手分けして各部屋をチェックした殺し屋達は,トイレのドア越しに1人,デスクのそばで又1人,見つけ次第すぐ射殺した。一番奥の部屋にいたターナーの彼女が止めたはずの読み取り機が動き出した音に気づき入り口を振り返ったとき,そこにはマックス・フォン・シドーを先頭に三人の殺し屋がいた。
「わたし,叫んだりしないわ」
「窓から離れたまえ」
女が逃げ場を求めてかすかに動いた。殺し屋が角度を変える。同時に自動小銃が火を噴く。冷静で無慈悲な行動のみがそこにあった(続く)。