映画探偵室 -1981ページ目

コンドル(11)

買い物を終えて店先に停めてあった車に乗ろうとする女に,さも知り合いのように「キャシー」と呼びかけると,女が抗議する間もなく,ターナーはコルトをすぐ間近から突きつけた,「静かにしろ,おとなしく車に乗れ」
「乱暴しないで」
「家は」
「ブルックリン・ハイツよ」
「1人か」
「友達と同居よ」
ターナーに嘘は通じない。
「1人だな,行こう」

場面は変わり,ヘリコプターでワシントンに着き,黒塗りの高級車で案内されたヒギンズがどこかの地下室から上の階に上がり,「五大陸貿易株式会社」というプレートの掛かった部屋に入る。緊急作戦会議が開かれるのだ。作戦本部長(正式には「工作本部長」)を筆頭とするこのメンバーの中に「敵」がいるはずだ。一方,夜のワシントン国際空港にあの殺し屋が到着し,タクシーに乗りこんでどこかへ行く…

そしてここからは,場面を交互に入れ替えてその台詞をターナーのいる場面に(スーパーで)被せることにより,突然こんな形で現れた男に対する女の疑念をうまく代弁していく。見所は,飛び込んできた男に女がどこで気を許したか,そして男がこの女を女として見たのはどの時点なのかを突き止めることだろう。探偵流に言えば愛の謎解きが始まったのだ。

部屋に入るとターナーはすぐに,自分の身分とおかれた立場を女に必死で説明するが,拳銃を前にした女はひたすら怯えるばかりで,もちろん信用はしない。先ほどの作戦会議での会話がスーパーで出る:
「謎の男だ。どれほどの能力があるのか?」
(探偵注:この「謎」という言葉は原語では「sexual」となっている。「悩ましい」とでもいう所か。女の目から見た男の様子を言い表しているようでジツに妙である。)

部屋全体には同棲中の女のような雰囲気はない。女もなんとか必死で取り繕ろおうとしているのだ。自分が孤独な女であることを。撮影機材が置かれた部屋の壁に飾られた多くの写真。ターナーはじっとその写真を眺めている。淋しい写真,どれも冬木立,枯れ木の写真ばかり。恐らくこの女はなにか引け目のようなものを抱えていて,いつも引っ込み思案であり,積極的に生きられないのであろう。それがために男運も薄い。そして,往々にしてこのような女の方が悪い男に引っかかりやすいのだ。もう若くはない。分かってはいるがあとに引けない。あとが無いからますます不幸を呼び寄せる(探偵の推理)。

ターナーは必死で女に自分を説明しようとする。そして同時に謎を解こうと苦闘する。以下は2人の会話。
「ワタシはCIAの職員だ」
「まさか,女を誘拐するのが任務?」
クローゼットから男物のシャツを取り出したターナーに女が言う。
「言ったはずでしょ。友達(ボーイフレンド)のよ。サイズは15.5だわ。あなたはどのサイズが好き?」
「ふざけるな」
「怖いのよ」
「ワタシもだ」
「銃を持ってるのに?」
スチームのガタっという音にびくっとするターナー。
「心細い」
そして必死で説明を続ける。
「きけ,私はいわゆるスパイじゃない。本を読む仕事だ。世界中の出版物を読んでトリックや暗号を拾い,コンピュータに入れてCIAの作戦と照合する。参考資料のためだ。対象は冒険談や小説や雑誌記事だ」
ターナーは自分でも自分の仕事を考えてみる。
「奇妙な仕事だろう。」
女は少しは安心したようだが,まだまだ信用はしていない。
「たのむから聞いてくれ。俺は狙われている」
「なぜ?」
「知らないが訳けはある。理由があるんだ。だから助けが必要だ。」
女の心が少し同情に傾きかけた。
「ここね?」
「ここだ。」
どんな理由にせよ,自分が本当に求められていることを女は知った(大事な場面だから細かく続く)。


コンドル(10)

ニューヨーク市警のパトカーのサイレンが聞こえている中,ターナーは逃げる。一転してかれは「逃亡者」になってしまった。敵がCIA内部にいることは分かった。しかし,この経緯から,明らかに今日の事件すべてをターナーの仕業にでっち上げようとしていることも分かった。そして,唯一の味方,友人のサムを失った。サイレンが聞こえる中でニューヨークの街中を走ることは危険だ。自分が「逃亡者」であることを皆に知らせるようなものだから。
彼は手近な洋品店に入り込み,冬物で埋め尽くされた店内に一時身を潜める。その洋品店のカウンター前には1人の淋しい女がいた…
女は買い物のついでにスキー場に行く飛行機をここから予約したようで,店員と会話している。
ターナーはその言葉の中から,女の名前と現在の状況をすばやく読み取った(探偵と違い,それがいい女かどうかなど,この際詮索している暇はないのだ)。もちろん,この筋書き上,いい女が出てこなければ観客はブーイングだろう。シドニー・ポラックとてここに詰まらん女を出すわけがない。フェイ・ダナウェイだあー!ロバート・レッドフォードはフェイ・ダナウェイをどうするつもりなんだあ!!(叫びながら次に続く)。


コンドル(9)

ツインタワー・ビルのヘリポートに白いヘリコプターが到着する。機体番号さえ書かれていない。
ブリックリン橋が見える窓辺にいるヒギンズ。そこへ公園の公衆電話からターナーが電話をかけてくる。
オペレータ室の少佐が対応する。
「こちら少佐。ニューヨーク支部につなぐ」
そして電話器は逆探知用のドック上にセットされる。
「コンドルです」
ヒギンズの部屋。窓から離れてヒギンズがデスクで電話を取る。
「ハロー,コンドル」
ターナーの声(スーパー):「お前は誰だ」
「副支部長(福祉部長ではない,あ,お呼びじゃなかったか。失礼しました。探偵)のヒギンズだ。今どこにいる」
公衆電話ボックスのターナー:「俺は暗号名なのに,お前はなぜ暗号名を使わない」
ギクッとするヒギンズ。すぐさま何かを推測する,そして平成(じゃない)平静を装って言う。
「いまどこにいる」
電話ボックスのターナーも推理する。
「ここだ」
ヒギンズ:「気分はどうだ」
ターナー:「みんな殺されたんだぞ」
ヒギンズ:「落ち着け。すぐ保護してやる」
そこへグロバーを連れたウィクスが入って来る。
ヒギンズ:「アンソニア・ホテルを知ってるか」
ターナーの声:「ブロードウェイ71丁目だ」
ヒギンズ:「73丁目だ。裏に路地がある」(注:同ホテルの裏側の通りということである。)
グロバーとウィクスもターナーの声を聞きながら資料を見ている。
ヒギンズ:「1時間後の15時30分に73丁目側から入りたまえ」
電話ボックスのターナー:「だれが来る」
ウィクスが自分を指差してヒギンズに指示。
ヒギンズ:「本部から着た君の課長が迎えに行く」
電話ボックスのターナー:「顔を知らない」
スーパー:「今君の写真を見ている」
電話ボックスのターナー:「……」何かを必死に考える。
ヒギンズ:「ターナー,ターナー」
電話ボックスのターナー:「あんたも知らない」
ヒギンズのデスク脇でウィクスが資料を検討中。
ヒギンズ:「心配ない。課長は経済新聞(ウォール・ストリート・ジャーナル)を持ってる」
電話ボックスのターナー。スーパーでヒギンズの声:「左手にな」
ターナー:「家に2人組が来た」
ヒギンズ:「なぜ家に帰った。行くなといったろう」
ターナー:「疲れたからさ。何者だ」
ヒギンズ:「仲間さ」
ターナー:「何しに行った」
なにか手立てを考えようとするヒギンズ達。
電話ボックスのターナー:「ホテル裏へは行かない。チェっ,何が経済新聞だ」
ヒギンズ:「君は今日,ひどい目にあって」
ターナー:「その通りさ」
ウィクスが資料の中の何かを指差す。
ヒギンズ:「分かった。君の友達を連れて行こう」
ターナー:「誰だ(正確には「誰が残っているのか」(探偵注)」
ヒギンズの声(スーパー):「統計係のサム・バーバー」
ターナー,何で知っているのかという顔をする:「さすがだな」
ターナー:「よし,サムならな」
ヒギンズ,指でOKの合図をウイクスに知らせ,時計を確認。
「あと60分で保護してやる。安心しろ」
ターナー:「質問してもいいか。何があった?」
ヒギンズ:「60分後に話す」
そして独り言を言う。「あと55分しかない。」

地下の装備室では連れて来られたサムに防弾チョッキが渡される。背景は射撃訓練をする別の要員。
ウイクスが万事手馴れた手順でサムに武器を渡す。45口径だ。サムは「大げさな」という。
ウィクスは自分用の拳銃を聞かれて「要らん」(イランではありませんよ,念のため:探偵注)という。
サムの身支度を手伝いながらウイクスが「コンドルとは友達だったのか」と訊く。
「大学の同級生でした。家内も一緒に」と答えるサムの表情にウイクスの声が被る「コンドルの彼女だったのか」
唖然とするサム。何かを疑い出す。
「話してください。今朝の殺しのことを」
ウイクス:「何のことだ」

ホテル裏の半地下の階段に潜んでいるターナー。
路地の真ん中に立っているサム。
ウィクスが手持ち無沙汰で煙草を吸っているサムに対する親切心に見せかけて,ゴミ用の開き缶を縦に重ねる。明らかに何かの都合に使うためだ。ウィクス自身は建物側に身を隠している。
時間通りにターナーが路地の入り口から姿を見せて呼ぶ。
「サム」
「ジョー」,サムがこちらに歩いてくる。
ターナー:「1人か?」
サムが「いや,もう1人」と言おうとしたとたん,ウイクスが缶を蹴飛ばすと同時にターナーを狙ってサイレンサーを発射する。
サム:「何してんだ,相手はジョーだぜ」
ターナーが身をかがめて弾を避けながら反撃した。ウイクスの太ももに当たる。何がおきたか分からないでパニック状態のサムにウイクスはじっと狙いを着けた。ウイクスの撃った弾は驚くサムの喉元に的中した。サムが死んだ。思いがけない展開に,ターナーはとにかく現場から一刻も早く逃げるしかなかった。