コンドル(11) | 映画探偵室

コンドル(11)

買い物を終えて店先に停めてあった車に乗ろうとする女に,さも知り合いのように「キャシー」と呼びかけると,女が抗議する間もなく,ターナーはコルトをすぐ間近から突きつけた,「静かにしろ,おとなしく車に乗れ」
「乱暴しないで」
「家は」
「ブルックリン・ハイツよ」
「1人か」
「友達と同居よ」
ターナーに嘘は通じない。
「1人だな,行こう」

場面は変わり,ヘリコプターでワシントンに着き,黒塗りの高級車で案内されたヒギンズがどこかの地下室から上の階に上がり,「五大陸貿易株式会社」というプレートの掛かった部屋に入る。緊急作戦会議が開かれるのだ。作戦本部長(正式には「工作本部長」)を筆頭とするこのメンバーの中に「敵」がいるはずだ。一方,夜のワシントン国際空港にあの殺し屋が到着し,タクシーに乗りこんでどこかへ行く…

そしてここからは,場面を交互に入れ替えてその台詞をターナーのいる場面に(スーパーで)被せることにより,突然こんな形で現れた男に対する女の疑念をうまく代弁していく。見所は,飛び込んできた男に女がどこで気を許したか,そして男がこの女を女として見たのはどの時点なのかを突き止めることだろう。探偵流に言えば愛の謎解きが始まったのだ。

部屋に入るとターナーはすぐに,自分の身分とおかれた立場を女に必死で説明するが,拳銃を前にした女はひたすら怯えるばかりで,もちろん信用はしない。先ほどの作戦会議での会話がスーパーで出る:
「謎の男だ。どれほどの能力があるのか?」
(探偵注:この「謎」という言葉は原語では「sexual」となっている。「悩ましい」とでもいう所か。女の目から見た男の様子を言い表しているようでジツに妙である。)

部屋全体には同棲中の女のような雰囲気はない。女もなんとか必死で取り繕ろおうとしているのだ。自分が孤独な女であることを。撮影機材が置かれた部屋の壁に飾られた多くの写真。ターナーはじっとその写真を眺めている。淋しい写真,どれも冬木立,枯れ木の写真ばかり。恐らくこの女はなにか引け目のようなものを抱えていて,いつも引っ込み思案であり,積極的に生きられないのであろう。それがために男運も薄い。そして,往々にしてこのような女の方が悪い男に引っかかりやすいのだ。もう若くはない。分かってはいるがあとに引けない。あとが無いからますます不幸を呼び寄せる(探偵の推理)。

ターナーは必死で女に自分を説明しようとする。そして同時に謎を解こうと苦闘する。以下は2人の会話。
「ワタシはCIAの職員だ」
「まさか,女を誘拐するのが任務?」
クローゼットから男物のシャツを取り出したターナーに女が言う。
「言ったはずでしょ。友達(ボーイフレンド)のよ。サイズは15.5だわ。あなたはどのサイズが好き?」
「ふざけるな」
「怖いのよ」
「ワタシもだ」
「銃を持ってるのに?」
スチームのガタっという音にびくっとするターナー。
「心細い」
そして必死で説明を続ける。
「きけ,私はいわゆるスパイじゃない。本を読む仕事だ。世界中の出版物を読んでトリックや暗号を拾い,コンピュータに入れてCIAの作戦と照合する。参考資料のためだ。対象は冒険談や小説や雑誌記事だ」
ターナーは自分でも自分の仕事を考えてみる。
「奇妙な仕事だろう。」
女は少しは安心したようだが,まだまだ信用はしていない。
「たのむから聞いてくれ。俺は狙われている」
「なぜ?」
「知らないが訳けはある。理由があるんだ。だから助けが必要だ。」
女の心が少し同情に傾きかけた。
「ここね?」
「ここだ。」
どんな理由にせよ,自分が本当に求められていることを女は知った(大事な場面だから細かく続く)。