映画探偵室 -1978ページ目

コンドル(19)

キャシーがシャワーを浴びている間も,ターナーはまだ推理を進めている。少し開けられたカーテンの向こうでは雨は止んでいるようだ。再びメモに集中するターナーが「ピン・ポーン」の音に入り口の方に目をやると,
窓から郵便配達夫が顔をのぞかせた!!!
(昔の映画館でなら観客達はここで必ず叫ぶ,いや叫ばずにはいられない-以下(  )内は良心的な観客の心の声である - (ターナー危ない,あいつはオフィスの全員を射殺した殺し屋だぞ。早く気づけ,絶対油断するな。ターナーああああ!!!)
郵便配達夫が叫んでいる:「ヘイルさんに荷物」 (嘘だ,嘘だ荷物は爆弾だ。)
ターナーは座ったまま言う:「そこへ置いてってくれ」 (だめだよ,だめだめ~~~)
殺し屋:「サインが必要なんですよ」 (戸を開けさせようとしているぞ)
ターナーはシャワー室の方を振り返って言う:「今,いないんだ」(キャシーがいることを気付かせちゃダメ!!!)
殺し屋:「代理で結構です」(チクショウ,ひるまないぞコイツ)
ターナーは分かったというそぶりをしてドアの所に行き,戸を開ける。
殺し屋:「2人の名前を」(え?何のために?)
ターナーは殺し屋から受け取ったボールペンでサインしようとするが書けない。「出ない」
殺し屋は胸のポケットを探るしぐさをする:「困ったな,これしかないもんで」(また嘘を言う。初めからの計画だろ!!!)
探そうと言って部屋の奥に入ったターナーを追って殺し屋はすばやく部屋の中に入り込む。(だから言わんこっちゃない!!!,ターナー気をつけろ!!!!)
入り込んで来た郵便配達夫のバックスキンの靴が濡れているのを見て,ターナーがそれと察知したと同時に殺し屋が懐からサイレンサーを取り出した。ターナーはコーヒーポットをつかむと殺し屋めがけてぶちまける。すさまじい武器の取り合いになった。ターナーは隙をみて暖炉の火掻き棒を手にする。殺し屋は拳法の構えをする。殺し屋のサイレンサーはソファーベッドの上,ターナーのコルトは暖炉の上に置いたままだ。それぞれが武器の在り処を目で確認する…行き詰る間合い….(この殺し屋の顔の不気味
で憎憎しいこと。ターナーの美男ぶりを妬んでいるんでしょうかね,ひたむきな殺意が感じられます。怖いですね~(故淀川長冶さん調)
攻守相交代する格闘のさなか,殺し屋が先にサイレンサーを手にし,部屋の境を背にして発砲しようとする矢先,ターナーは火掻き棒で襲い掛かる。弾が逸れて破壊されるキャシーの部屋。それに怒ったのか(そんな悠長な話じゃない,この馬鹿探偵!!!),キャシーが背中を見せていた殺し屋の頭を何かで突然殴りつけた。ひるむ殺し屋。ターナーがコルトを手にする一瞬のチャンスだ。すかさず殺し屋に的確な銃弾をお見舞いする。殺し屋は即死した。危機はとりあえず回避された…(息を整えるまで休憩,そして次へ続く)


コンドル(18)

音楽がエンディングに差し掛かり,最後の写真からカメラがゆっくりパンすると,台所で何かターナーがメモを取りながら推理を進めている早朝のシーンになる。コンロの上に「夜明けのコーヒー」が準備されているところが憎いったらありゃしない。時折ベッドルームのキャシーを見やるがまだ眠っている。

メモに書かれているのは:
A.L.H.S. HIT
① Something in BLDG.?
② No! -> HEIDEGGER HIT at home
③ INFORMATION?
WHO?
WHY?
そしてホテル裏での事件の見取り図だ。弾丸がどこから発射されたか検討されている。
サムの呼ぶ声が回想場面として挿入される。
「ジョー」
分からない。もう一度メモを見るターナー。
「情報部内?誰が,なぜ?」
「路地で課長が? ハイデッガーは自宅で。」
「なぜ課長が?ヒギンズは言った」
電話ボックスでの回想場面
ヒギンズの声:「本部から来た君の課長が迎えに行く」 そしてターナー:「彼には会ったことがない」
課長はワシントンの人間だ。朝のオフィスの回想が出る。博士が言っていた。
「君のセオリーを裏付ける動きはないと上層部は言っている」(この「動き」がintelligenceという言葉であることは注目に値する:探偵)
「名前は何だ?」
ターナーはあの時博士からメモを渡されたことを思い出す。無造作に後ろのポケットに突っ込んだままだった。取り出してみると,「コンドルのレポートが作戦と一致するので,NY支部はCIA本部にコピーを送付した。CC:ウイクス。(「CC:」はご存知のように転送先を表す:探偵注)
ターナー:「ウイクスか」

物音に気づいてキャシーが起きてきた。赤い薄手のセーター姿である。少し疲れが見える。目線が合ったターナーの方はヒゲがうっすらと浮いて見える。お互い,昨夜のバトルを振り返ってかバツが悪い。
カウンターを越えてコーヒーのポットの方に回りこんだキャシーは言う。
「随分早起きね」
ターナーも返す。
「君もだ。」
「あなたの方が早いわ」
「考え事をしていた。計画を立てた。ちょっと大変なんだが。君の助けが必要だ」
キャシーはいかにも不満そうに見せた言い方をする。
「人使いが荒いわね」。もちろん,気を許した者への皮肉である。
「何もないときならあなたは優しい人でしょうね。昨日寝言を言ったわ」
ターナー:「なんて言った?」
キャシー:「ジャニスって誰?あたしのように拾った女?」
ターナー:「彼女は友達だった…彼女は死んだ。」
余計なことを聞いてしまって悪いことをしたと思ったキャシーは言う。
「シャワーを浴びてきていい?」
ターナーはこれを先ほどの頼みへの回答だと解釈した。
「助けはもういらない。」
しかしキャシーは少しおどけて言う。
「手伝うわ。もうスパイの女だもの」。
「そうか」。ターナーはちょっとムッとしている。ふさけていられる場合ではないのだ。すぐやりすぎたと察知したキャシーは誤った。「悪かったわ。ごめんなさい。冗談のつもりで。手伝いたいの。」
二人の気持ちは1つになった。そしてキャシーはシャワーを浴びに行った(ここから急展開するので,いったん停止。続く)。


コンドル(17)

ピストルを構えながらキャシーの部屋に戻ってみると電話が鳴っている。部屋は静かだ。そうだ彼女を縛ったままだったのだ。又電話が鳴り続ける。ターナーはすぐにトイレに行ってもがいているキャシーの猿轡を外した。
「電話に出てくれ」
怒って反抗的なキャシーは「出るもんか」と言う。仕方なく「出ろ」と命令的に言って拳銃を突きつけ,電話口まで引きずってきた。
「落ちついて話せ」
電話はスキー場に先に行っている男からだった。
「ベン」
キャシーは電話口にへたりこんだ。もう殆ど泣きだしそうだ。
電話の声(スーパー):「何してる。なぜ来ない」
キャシー:「ごめんなさい。用事ができて」
電話の声:「用事?そんな。どうした,来たくないのか?」
ターナーが用心してピストルを突きつける。下手なことは言うなという合図だ。
キャシー:「いきたいわ。ほんとよ。」
電話の声:「うそだ。いつも口実を作って逃げるくせに
キャシー:「今度は違うわ」
ターナーが口の動きで言い訳を指示する。
キャシー:「車よ。故障なの」
電話の声:「どこが?」
キャシーはターナーに指示を仰ぐ。
キャシー:「ジェ,ジェネレータよ」
電話の声:「それじゃ修理に時間がかかる。すぐには直らない。諦めて明日の朝バスで来ないか」
キャシー:「なんとか」
電話の声:「なんとか?変だな。何かあったのか。大丈夫か」
キャシー:「ええ大丈夫よ。なんでもないわ」
電話の声:「おかしいぞ。」
キャシー:「わかって」
電話の声:「わかるさ。でもガッカリしちまったんだ。ほんとだ。君に来てほしかった。今夜は寂しいぜ,わかるだろう?」
キャシー:「ええ。でもすぐに会えるわ」
電話の声:「ああ,明日1番のバスでな。いいね」
キャシー:「いいわ。おやすみなさい」
電話からの返事は無かった。

電話が終わるともう完全に意気消沈しているキャシーを丁寧にベッドの上に座らせ,自分は立ち上がって何かを決心しようとする。これ以上この女に迷惑はかけられない。おそらくこれがこの女の最後のチャンスだろうから。

ターナー:「出て行くよ。明日の朝」
ベッドに座っているキャシー:「どこへ?」
キャシーには背を向けているターナーは首を振る。決まったところはないのだ。
キャシー:「安全なの?」
ターナーが振り返る:「何が?」
キャシー:「外はどこでも危険なんでしょう?」
ターナー:「わからない」
キャシー:「困ったわ。もっとあなたのこと知ってれば。例えば昨日は何を?」
ターナー:「昨日はおぼえていない…今日は雨が降った…」
キャシーにもターナーの窮状は痛いほどわかる。
「なぜわたしを縛ったの?」
ターナーが意外なことを訊くな,と思って振り返る。
「警察に知らせるから?知らせないわ」
ターナー:「なぜ?」
キャシー:「ときどき私は写真を撮るの。知られたくないような写真をね。でも事実は事実よ。秘密の作品よ。みんな隠してあるわ」
ターナー:「見てみたいな」
キャシー:「それほど親しくはないわ」
ターナーはキャシーの膝元に腰を落として言う。
「親しくなれるかも」
キャシー:「そんな時間はなさそうだわ。」
そして同情するように言った。
「あなたは長生きできないもの」
ターナー:「そうとも限らないさ。君はウソをついている。」
キャシー:「なぜ」
ターナー:「君の好みははかないもの,命の短いものだ。」
キャシーにはターナーの言葉が染み入ってきた。
ターナーは「写真でわかる」といいながらキャシーの前に膝まづいてじっと顔をみる。
「きれいだが,人気のない町や,葉のおちた木ばかり…みんな君の影だ。]
ターナーの言葉がキャシーの深いところにタッチした。
「あなたの望みは?」
ターナー:「わたしはすべてを忘れたい。」
キャシーは泣いている。
ターナー:「たとえほんの2,3時間でも。いや朝まで。そして出て行く」

外は雨だ。女はフェイ・ダナウェイである。「俺達に明日はない」でウォーレン・ビーティと一緒に拳銃強盗行脚をやってのけ,最後に無数の銃弾を受けて死んだような女だ。一方レッド・フォードは「明日に向かって撃て」のサンダンス・キッドだ。このままでは終わらない。探偵は「立て,サンダンス・キッド,立つんだ,明日に向かって撃て!」と叫ばざるをえないのである。どなたかのブログではこの時期のフェイ・ダナウェイが最も色気がある,と書いている(前年にアカデミー賞主演女優賞を得ている)。探偵も全く賛成である。それまではどちらかというと色気がない女優だと思っていた。しかし,この後に続く二人の愛の場面はとても美しい。その深まり,昂まりに連れて壁の写真が1枚,一枚とカットバックされ,デーブ・グルーシンのサックスが流れる。先ほど紹介されたこれらの写真が,愛の深まりと共にその中の「光」に焦点が当てられて行くことに観客の方々は気付かれたであろうか(翌朝まで二人をこのままにしておきましょう。探偵も野暮は嫌い。)