コンドル(17) | 映画探偵室

コンドル(17)

ピストルを構えながらキャシーの部屋に戻ってみると電話が鳴っている。部屋は静かだ。そうだ彼女を縛ったままだったのだ。又電話が鳴り続ける。ターナーはすぐにトイレに行ってもがいているキャシーの猿轡を外した。
「電話に出てくれ」
怒って反抗的なキャシーは「出るもんか」と言う。仕方なく「出ろ」と命令的に言って拳銃を突きつけ,電話口まで引きずってきた。
「落ちついて話せ」
電話はスキー場に先に行っている男からだった。
「ベン」
キャシーは電話口にへたりこんだ。もう殆ど泣きだしそうだ。
電話の声(スーパー):「何してる。なぜ来ない」
キャシー:「ごめんなさい。用事ができて」
電話の声:「用事?そんな。どうした,来たくないのか?」
ターナーが用心してピストルを突きつける。下手なことは言うなという合図だ。
キャシー:「いきたいわ。ほんとよ。」
電話の声:「うそだ。いつも口実を作って逃げるくせに
キャシー:「今度は違うわ」
ターナーが口の動きで言い訳を指示する。
キャシー:「車よ。故障なの」
電話の声:「どこが?」
キャシーはターナーに指示を仰ぐ。
キャシー:「ジェ,ジェネレータよ」
電話の声:「それじゃ修理に時間がかかる。すぐには直らない。諦めて明日の朝バスで来ないか」
キャシー:「なんとか」
電話の声:「なんとか?変だな。何かあったのか。大丈夫か」
キャシー:「ええ大丈夫よ。なんでもないわ」
電話の声:「おかしいぞ。」
キャシー:「わかって」
電話の声:「わかるさ。でもガッカリしちまったんだ。ほんとだ。君に来てほしかった。今夜は寂しいぜ,わかるだろう?」
キャシー:「ええ。でもすぐに会えるわ」
電話の声:「ああ,明日1番のバスでな。いいね」
キャシー:「いいわ。おやすみなさい」
電話からの返事は無かった。

電話が終わるともう完全に意気消沈しているキャシーを丁寧にベッドの上に座らせ,自分は立ち上がって何かを決心しようとする。これ以上この女に迷惑はかけられない。おそらくこれがこの女の最後のチャンスだろうから。

ターナー:「出て行くよ。明日の朝」
ベッドに座っているキャシー:「どこへ?」
キャシーには背を向けているターナーは首を振る。決まったところはないのだ。
キャシー:「安全なの?」
ターナーが振り返る:「何が?」
キャシー:「外はどこでも危険なんでしょう?」
ターナー:「わからない」
キャシー:「困ったわ。もっとあなたのこと知ってれば。例えば昨日は何を?」
ターナー:「昨日はおぼえていない…今日は雨が降った…」
キャシーにもターナーの窮状は痛いほどわかる。
「なぜわたしを縛ったの?」
ターナーが意外なことを訊くな,と思って振り返る。
「警察に知らせるから?知らせないわ」
ターナー:「なぜ?」
キャシー:「ときどき私は写真を撮るの。知られたくないような写真をね。でも事実は事実よ。秘密の作品よ。みんな隠してあるわ」
ターナー:「見てみたいな」
キャシー:「それほど親しくはないわ」
ターナーはキャシーの膝元に腰を落として言う。
「親しくなれるかも」
キャシー:「そんな時間はなさそうだわ。」
そして同情するように言った。
「あなたは長生きできないもの」
ターナー:「そうとも限らないさ。君はウソをついている。」
キャシー:「なぜ」
ターナー:「君の好みははかないもの,命の短いものだ。」
キャシーにはターナーの言葉が染み入ってきた。
ターナーは「写真でわかる」といいながらキャシーの前に膝まづいてじっと顔をみる。
「きれいだが,人気のない町や,葉のおちた木ばかり…みんな君の影だ。]
ターナーの言葉がキャシーの深いところにタッチした。
「あなたの望みは?」
ターナー:「わたしはすべてを忘れたい。」
キャシーは泣いている。
ターナー:「たとえほんの2,3時間でも。いや朝まで。そして出て行く」

外は雨だ。女はフェイ・ダナウェイである。「俺達に明日はない」でウォーレン・ビーティと一緒に拳銃強盗行脚をやってのけ,最後に無数の銃弾を受けて死んだような女だ。一方レッド・フォードは「明日に向かって撃て」のサンダンス・キッドだ。このままでは終わらない。探偵は「立て,サンダンス・キッド,立つんだ,明日に向かって撃て!」と叫ばざるをえないのである。どなたかのブログではこの時期のフェイ・ダナウェイが最も色気がある,と書いている(前年にアカデミー賞主演女優賞を得ている)。探偵も全く賛成である。それまではどちらかというと色気がない女優だと思っていた。しかし,この後に続く二人の愛の場面はとても美しい。その深まり,昂まりに連れて壁の写真が1枚,一枚とカットバックされ,デーブ・グルーシンのサックスが流れる。先ほど紹介されたこれらの写真が,愛の深まりと共にその中の「光」に焦点が当てられて行くことに観客の方々は気付かれたであろうか(翌朝まで二人をこのままにしておきましょう。探偵も野暮は嫌い。)