映画探偵室 -1954ページ目

映画「美しき諍い女」物語編(10)

何曜だい 「何曜だい?」

「月曜。」

「完全に忘れていた。」



「こちら,マリアンヌ。」

「すまなかった。」

「こっちがニコラだ。」

「ああ,ひどい記憶力だ。]

「恥ずかしいわ。」

「許せんな。しかし暑いね。」

忘れてた マリアンヌよ

ニコラだ 暑いね










愚痴をこぼすのは 来た理由は











「愚痴をこぼすのは終わりよ。」
「来た理由は分かっている。さあ,行こう。」
立ち上がる ヘンなことが起こりそう








「何か妙よ。きっと変なことが起きるわ。」
どこへ2 どこへ1











階段を上り始めたころ,教会の鐘が鳴り出した...
手をつなぐ それにしても二人は仲が良い。


「いつか展望台をつくる。望遠鏡つきだ。」(フレンホーフェル)

「1回使うと10フランでしょ。」(マリアンヌ)

「すばらしい景色が見られるわ。」(リズ) 注1)


「景色は後回しだな。」(バルタザール)

「行こう,早くみたいだろ。あっちだ。」(フレンホーフェル)
南仏1 景色は後回し










そこだ









「そこだ。」

そこだそこだ2












そこは 閉ざしたままになっていたアトリエの内部は...


「教会みたい。」
「元々は納屋で,下は馬小屋だ。」





アトリエ1 ここがアトリエか










怠け者2 君なら











「君ならここで,どんな絵を描く?」


「私はずっと来ていない。」

「怠け者になったわ。」

「約束を忘れたのは... 怖れていたからだ。君たちのことをね。しかし,誤解しないでくれ。リズと私は二人きりで完全に安定した生活を送っている。幸せといえる。」
二人きりで 不幸を運ぶ








「君たちが不幸を運ぶんだ。」

「どうかしてるわ。」 「非難してるわけじゃない。非難じゃない もう君もあとには引けん。」

「ルーセルのところで飲んだのね?」

「この家に混乱を招くが,君らも不幸になるぞ。」

「邪魔する気はなかったが,あなたが招待した。」



「その通り。絵を見て学びたいか?私の絵に興味があるんだね?」「そうです。」
その通りそうです










君には無い
「最近は?」

「君にはない。」


「ニコラ,来たまえ,一番古い絵だ。乱雑だろ。」


ふと気がつくと,リズは何かの絵を熱心に見ていた...





一番古い絵だ リズが見ているのは











上のほうが 二階へ












「上のほうがもっときれいよ。」
二階の二人ポーズするリズ










置かれた絵 先史時代だ







これは

「これは?」

「先史時代の作品だ。12歳だった。」
「あれは?」 

「悪くはないが平凡だ。」





「おっと,これは自画像だ。ノーコメント。」
自画像だ 不安げに見下ろす








階下では


「これはどうだい?」

「すばらしい。」

「悪くはないが,ダメだ。血の気がない。」

これはどうだい すばらしい










血の気が出る 「仕上げれば血の気が出るんだが。」

「望みすぎでは?」

「まさか。」









血が通ってる 「”美しき諍い女”は血が通ってる。」








「”美しき諍い女”とは?」

「5年ぶりだぞ。」

「忘れていたんだ。」

「これも気に入っている。どうだ?」

諍い女! これも気に入っている











「その絵が見たい。」

「存在しない。構想半ばで断念した。」
あるわ
「あるわ。ここにあるでしょ。」





「なぜその題を?」

「別に,17世紀にいた娼婦の商売名だ。」





それを言うな 娼婦の











カトリーヌ・レスコー 「カトリーヌ・レスコー,突飛な生涯を送った。

本を読んで急に画きたくなった。」(注2)






「朝の3時なのに全然眠れなかった。」

「あたしを思って?」


俺は見た 朝の3時











君のせいだ 私を思って













諍い女とは 「君のせいだよ。」

「あたしの?」
「そうだ,君こそが”諍い女”だ。」





「”諍い女”とは?」
知ってるわ 「知ってるわ。4年いたケベックではよく皆が使っていたわ。」
けんかッ早い 「知ってるのか?そうだ,”けんかっ早い女”とか...」


そして二階を見上げて付け加えた。

「うるさい女のこと。」







「その絵がある。」  「ないと言ったろ!」

その絵がある無いと言ったろ











ぼうぜん 強く言い過ぎた










「いい加減で食事にしましょ。もうできてるころよ。」
食事にしない できてるころよ










振り返るもしかしたら











あの女こそ シルエット










もしかしたら,あの女が諍い女ではないのか?


注1:ここは南仏のプロヴァンスである。有名な丘陵地帯でぶどう酒の有力な産地である。ゴッホの愛した地域はここよりまだ南東にあたる。

注2:バルザックの短編を指している。

映画「美しき諍い女」制作過程編(6)

微笑み合う2人 しかし,彼女は2日目もやってきた。2人の間には共同で何かを掴もうとする意志が芽生えている...

ここで,画家のつけるポーズ(注文)から,画家が何を見ようとしているのか,モデルは何を表現しようと(自分はどうなろうと)しているのかを探ってみよう。






「初心者の気分だ。

向うを向いて,手を腰に。しゃんとして。」
しゃんとして初心者の気分











手を腰に 髪はまとめて,背筋を ポーズ2











「髪はまとめて,背筋を伸ばして,
上から吊られてると思え。」









「痛いわ。」  「それでいい。」 痛いわ

まず第一に,背骨を浮き立たせようとしていることが分かる。肉体の中にある骨格を重視しているのだ。

吊られている,ということは確かに,ある意味不自然である。それは,骨格を露にするという意味のほかに,もう一つの意図がある。

現代人は,実はコンクリートやアスファルトの上に靴というものを履いて(つまり,吊られて)立つという不自然な生活をしている。足が地に(土に)着いていないのだ。その奇形性がこれで露になると画家は考えている(のだろう。注1)。

それに抗おうとする女の原肉体をこそ,画家は見たいのである。戦いを見たいのである。


そして描き始めたのは腰の線だ。腰の線

上記の戦いは,明らかに体重を支える腰に現れる。そして,それは女の腰でなければ意味が無い。女の腰は子宮という宇宙を内包するものだからだ(注2)。
背中2












同様の試みが別の角度から繰り返される。

ポーズ3の2 ポーズ3












何を考えて
「苦しいわ。手足がつる。」

「我慢するんだ。昔は手足を縛って姿勢を固定したもんだ。」



「今,何を考えてる?ニコラのことか?」

「違うわ,私のことよ。」







足の位置が違う!
足の位置が違う デッサン2












デッサン3 一段落











一応ここまで。

パンを食らう女

腹が減ってパンを食らう女。

どの画家や彫刻家,映画監督も,モデルや女優の食べ方に注目するものである。特に顎の造りと動き。

しっかりした食べ方ができない女には興味がわかないものだ。








無理やりポーズその3


無理ポーズ 紙をたくさん用意









注1:このことを私に気づかせてくれたのは,かつての同僚であるカメラマンだった。彼の言葉「現代人は敷石やアスファルトの上に立つオイディプスだ。皆,足萎えにすぎない。」

注2:子宮は天宮にも通じている。位相幾何学的な冗談でこういうのがある。「人間を裏返しにしたら,内側に来るのは何か?」

映画「美しき諍い女」物語編(9)

「庭に出ていましょう。」 

「いい庭だ。」 「私が造ったの。前はジャングルのようだったのよ。何だっけ,キョウチ...」  「キョウチクトウ。」

「そう,キョウチクトウで一杯だった。彼に任せていたら今でもそのままよ。」(注1)   

よい庭だ キョウチクトウ











全員座る マガリを借りる











「マガリ,借りてもいい?」 「ダンスの稽古です。」 「残念ね。」

「主人,見なかった?」 「いいえ,アトリエでは?」 「まさか。」
主人みてない 集中すると











「忘れたんでは?」 「ありえるわ。」
「めったにないけど,ひとつに集中するとほかを忘れる性質なのよ。」
つかまえた

「まずい時に来た?」 「そんなことない。」    

「やっと捕まえたわね。」
ねえバルタザール

「ねえ,バルタザール,ひとからヒ素の石ケンを貰っちゃったの。

害虫用だけど,手で触って平気?」

「前は何を?」

「DDTと石鹸の混合液。」

「それでいい。砒素のは捨てろ。」

「でも,昔の...



砒素のせっけん もらった











前はDDT前にはナニを











砒素はすてろ なぜ











何の話か いったい,何の話をしてるのかしら?




黒い舌 うそよ









「君が黒い舌で倒れているのを見たくない。」

「なぜ?」

「指を舐める癖さ。」

「うそよ。」
My job なにしてるの












気づいた 「彼からは私の仕事の....」


「あら,何してるの?」



森番か庭男か,ドラキュラか? いやこの城の主人である老画家がやっと登場。

手には狩の成果と見られるウサギをぶら下げている。


注1:夾竹桃は有名な毒草である。