映画「美しき諍い女」物語編(12)
首筋を氷で冷やす。
しかし,床に倒れこんでしまった。
それに覆いかぶさるようにして,バルタザールを抱き上げようとする。
(やりすぎじゃないのか? 探偵)
「乾杯!」 やはりボケている。
や,眼鏡がない。
男性陣は闇に消えていく。何か策謀のにおいがする。
(探偵は関与しておりません。)
結局後片付けは女の役目。
しごとを片付けながら女同士の会話が弾む。
「彼,どうしたの?」
「何でもないの。たまに起こるのよ,発作みたいに。」
女達は別の部屋に移動した。 「後はフランソワーズに任せるわ」(注1)
「聞いていい? 彼と会う前は何を?」
「建築家志望だった。
「なぜ?」
「だって,彼と暮すのは簡単じゃないもの。
ほんと,耐え難いわ。」
「私もイヤな女だからうまく行ってる。
こうしか,生きられないもの。」
「他に夢はなかった?」
「彼と暮らすことだけ。簡単じゃなかった....」
「私も片手間に仕事してるの。」
「片手間はイヤ。」
「ええ,中学生向きの本だけど,出たわ。」
「どんなはなし?子供の本って好きなの。」
「軍事独裁政権で働く外交官の娘が....
題は「国防機密は金色の瞳」。
「面白そう。」
「下らないわ。手慣らしで書いただけ。片手間仕事はイヤだし
彼に頼りたくない。」
「一年前はたがいに似てた。
でも個展以来何かが変ったの。私が闘ってる。」
「最後には傷つけ合う関係よ。」
「分かるわ,経験ある。」
「だれも勝ってない。傷を残したまま和解したの。
固い約束よ。もう,壊れないわ。」
一方,男性陣のほうはどうだろうか?〈続く)
注1:フランソワーズはメイドの名前であるが,彼女の娘であるマガリの父親が誰であるかについては,明らかにされていない。
映画「美しき諍い女」制作過程編(7)
少し後戻りするが,
この姿勢から察するに,画家が目指しているものは「重力」に逆らった,あるいは重力から自由な形態である,ともいえる。さらに言い換えれば,最終的に目指すもののための基礎を得ることであろう。左側に見えている着色された絵がこれと同じ構図でないことが,それを証明している様だ。
一方,このような注文を受けたモデルは自分の中では何をしようとしているのだろうか?
この姿勢が相当つらいものであることは,マリアンヌが胸を大きく膨らませ,鼻で息をしている(腹式呼吸している)ことからも分かる。
画家がありきたりの「美しい肉体」や「セクシーさ」を求めているのでないことはもう知っている。もちろん,言葉で表せることを表現しようとはしないだろう。今までに生きてきた歴史を見せることもできない。
結局,今生きている自分の肉体をどこまで正直に曝すか,ということになろう。自分自身の闘争を見せることである。
これを引き受けることは,それこそ内臓だけでなく,骨まで画家の目に曝すことを意味する。偽りは通じない。ある意味で,神の前に立つことである。
その覚悟がなければ,モデルはつとまるまい。それがどんなに勇気のいることか。
いっぷく後,画家は次のポーズを指示する: 休憩は終わりだ,この椅子に凭れて。
そして,それを誘導するために画家がモデルにかける言葉(つまり,演出,つまり,闘争)はなんだろうか?
「背骨が出るように首を下へ,
手は伸ばすんだ。」
「その手は....ここに置いて,そうだ。」
「つりそうよ。」
「手足が?」
「きっとそうだ。そのとき言え。」
「首筋がひきつる。」
「忘れるんだ。」

さあ,脱いだわよ。今度はどうするつもり?
足はこう,
手はこう,
背筋をぎゅっと!
次は背中を。
ベージュのチョークで縁取り。
次に筆でぼかす。
昔,イレーヌというモデルがいた。妙な女だった。
君に少し似ていた。
このポーズで彼女を描いた...
臨時参考資料:ゴヤ「裸体のマハ」
映画「美しき諍い女」物語編(11)
暑い夕方だった。蝉の声がまだまだ聞こえている中で,様々な思惑を秘めた食事が終わった。
「疑念を抱かせたなら,彼を許さない。」
「彼を愛してる?」
「なんて質問のしかたなの。困ったひとね。」
「私が気に入った証拠だろ?,大いに楽しんで飲もう。」
「乾杯!」
「人生に乾杯!」
画家は機嫌がいいようだ。
「いいワインだ。うまい。」
メイドがデザートのタルトを運んできたが,この夫婦とメイドとの関係はどうなのだろう(探偵の余計な疑惑)。
「...いい人たちだったわ。ご主人が奥さんを列車で殺したけど,
かれはうちの上にある家で首を吊ったの。
ユゼスの女公爵の....家だった。子供たちは素行が悪くなったわ。」
「全員が農学校にいくことになった。」
マリアンヌは思わず吹きだした。
「12人もいた。」
「ニコラが好きか?
彼も君を熱愛している。それは一目瞭然だ。」
「怒らないで,いつもこうなの。」
「聞き流してるわ。」
「彼が君より絵を大切にしたら?。君なら絵のために彼を犠牲にできる?」
「もし彼が挫折したら,私が破滅させるか,分かれるわ。」
「画家は残酷な真実を求める。」 「でも私を破滅させていないわ。」
「しかし,危うかった。」
突然,
テーブルに頭を打ち付ける音がして,バルタザールが倒れた...






















































































