※2024年1月30日のお話です
↑からの続き
16:00ごろお迎えに来てくださいと言われていたので少し早めに病院の駐車場へ戻りました。
いろんな事が心配で不安でたまらない中、
17:00ごろにようやく呼び出しの電話が鳴り、急いで診察室へ。
診察診察室に入ると
麻酔から覚めたばかりでボーーっとした表情の小梅が、若い獣医師さんに抱えられていました。
腫れ上がっていた腫瘍は組織検査の為に切除され、その跡をレーザーで焼いて塞いでいたので大きな瘡蓋になっていました。
目を塞ぐほど大きくなっていた腫瘍がなくなったのでスッキリして見えて、少し安堵しました。
「お疲れ様!小梅頑張ったね!」
と、お父さんと一緒に小梅に駆け寄りお父さんが小梅を獣医さんから引き取りました。
「まずは、お掛けください。今日のは手術では無いので…。今日はあくまでMRIと組織検査の組織除去をしたまでですので。」
「よろしくお願いします。小梅の手術はいつ頃できそうですか?」
椅子に掛けながら逸る気持ちを抑えられないお父さん。
私も同じ気持ち。
「まず、MRIの画像でご説明しますが…小梅ちゃんの腫瘍はかなり大きく…ご覧の通り目の奥、鼻腔にも入り込んでます。そして、右の上顎の骨も溶かされている状態です。ほぼ間違い無く扁平上皮癌と言う癌かと思います。」
先生の説明に思考が追いつかず言葉が出ませんでした。
何も考えられない頭で、PC画面を見ます。
先生がマウスでMRIの画像を進めるたびに
「あぁ……あぁ……」
と私達の口から漏れました。
そこには、腫瘍で右側の骨が溶かされ、右目が少し押されて前に出て、その目の奥に影のある小梅の頭の中の画像がありました。
CTの画像でも、右上の頬の骨が無く、周囲も溶けている状態でした。
「その…手術をするとしたらどうなりますか?」
お父さんが聞きます。
「小梅ちゃんの状態は僕も見た事がないほど中の腫瘍が進んでます。手術となればまず、眼球を取ります。右の鼻骨、右側の頬、歯茎、右上顎組織も取ります。
そうなると顔の皮も繋ぐことができない為、口腔内、鼻腔、眼窩全て露出した形になります。もちろん頬の肉、唇もありません。そうなると食べることができませんので胃に穴をあけて胃ろうでの食事になります。
そして、本来頭蓋骨に守られているはずの中の粘膜組織が露出している状態なので感染症を起こし、そう長くは無いと思います。」
「……そんなことできない…」
泣きながら喉の奥から絞り出た私の言葉でした。
右半分の顔が、小梅の綺麗な白い毛に覆われることも無く、中身を全部露出するなんて。
その上胃に直接食べ物を流し込むなんて。
そうなったらもうそれは小梅じゃない。
手術でわざわざそんな姿にしても生かすなんて
小梅にそんな残酷なことはできない。
「そうですね…。僕もしたくは無いですし、お勧めしません。その後の事を考えればかなり非現実的な方法です。
物理的に可能であっても、飼い主さんの望む、小梅ちゃんの食事の楽しみは有りません。小梅ちゃん本人もご家族のQOLも下がります。」
もう手術どうこうでは無いんだと悟った瞬間でした。
検索で見た片目を摘出したシェルティちゃん。
目の部分は綺麗に縫合されて鼻もちゃんと残ってた。
下顎を切除したパピヨンちゃん。
あの子達は運が良かったんだ。
手術ができる状態だったんだから。
そんな事を、先生の話をボーッと聞きながら考えていました。
先生から今後癌が進行して起こりうるであろう症状などの話を聞きました。
最後の方にお父さんが
「帰る前に聞いておきたい事、聞いておいたら…」
と促してくれたので
涙で喉が詰まりながら
「もしこのままだったらあとどれくらいですか…」
ようやく出た言葉
「もって半年でしょうか…。」
顔はきっともっと崩れてくる。
口腔内の癌が大きくなれば食べられなくなるし、腫瘍が気管に行けば喉が塞がれ呼吸ができなくなる。
脳の方に早く進めば別の症状が。
肺に転移すれば呼吸ができない。
そうなったら余命は半年よりもっと短いと言う事。
絶望感で泣くことしかでき無い私達に先生は
「…お辛いと思います。もう一つは放射線治療もあります…。再度できてきた腫瘍を切って一時的に綺麗にすることもできます。痛み止めやサプリなどでこれからの苦痛を少しでも和らげてあげる事ができますし、いつでも電話でご相談下さい」
と、最後に言葉をかけてくれました。
「はい…はい…有難うございます…」
泣きながらそう答えるしかできませんでした。
小梅がまだ若ければ放射線治療も希望があったかもしれません。
けど、今のこの小梅にはさらに麻酔のリスクで内臓を傷める事としか思えませんでした。
帰り際、若い獣医師、アシスタントと助教授の先生は玄関まで見送りに来てくれたので
私とお父さんは振り返り
「有難うございました」
と深く頭を下げ、酪農大学病院を後にしました。
後日お父さんに曰く、この時若い獣医師のお二人は
目に涙を溜めていたそう。
小梅のために泣いてくれて有難うございます。
どうかその優しい気持ちのまま、
Y先生のような冷静且つ的確な診察が出来る素晴らしい獣医さんになって下さい。