季節は移りゆき時は流れる。

何が起こるかわからないのが

浮き世の世界。

ぼくは、眠れずに夢枕をよく

みるようになった。

 

再会した男と女の激しく燃え

る愛。

女の父が亡くなり、ぼくは悔や

みに出かけた。

そこは海鳴りの音が聞こえる

海岸沿いの村の一軒家。

今ここに居るのはふたりだけ。

 

逢瀬を重ねる度に、からだが

熱くなってゆくふたり。

彼女は入口の錠をかけ、薄暗い

二階に上がってゆく。

その途中にある神棚には、「雲」

と書かれた紙が貼られていた。

ここから上は雲という意味でだ

そうだ。

部屋には好きな匂い花の香が漂

っていた。

 

ぼくは、ふと映画「透光の樹」と

重ねている姿を想い起し夢の中か、

現実かわからなくなっていた。

 

 

 

 

彼女の故郷を訪ね、逢瀬をかわし

たときから3年の月日が過ぎ去っ

た。

 

不治の病で、幾月もない死期が近

づいていた。どうして重なりあっ

たまま女性とセックスできるのか

と思った。

今一度、彼女と逢ってみたいと連

絡をとり、近郊の宿で泊まること

になった。

 

風呂からでてきた彼女。

白く透けたなまめかしいシミーズ

だった。ぼくはむさぼるようにこ

れをはぎとり、最後の強い光を放

った。

このあとすみずみまで愛撫し、月

の影から匂い花のような香りがた

だよう。

「感じる?」と訊くと、笑って「

全然」と言い、やがて「いい、い

いとからだを揺らし、「いく!」

と啼き、ひとり果てていた。

ぼくはこれで大満足だった。

 

 

これが彼女との最後の旅となった。

強い光を放った、輝く雲のあちら

には阿弥陀如来の浄土があるそう

だ。

ぼくは夢のような景色の夢枕をみ

た。

朝方に目が覚め、白色の上着をき

た女医が今日はどんな夢を見てい

ましたかと、性依存のぼくの回診

にやってきた。

庭には雨に濡れた匂い花が咲いて

いる。

 

 

 

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