平安時代の頃の男女の関係を歌を

通して知ることができる。

のちの世にも語り継がれてきた歌

集もあるが、「百人一首」の歌は

よく知られている。

この歌を絵で表現した人物がいる。

そのひとは葛飾北斎(1760-184

9)である。

 

『北斎百人一首ーうばがゑとき』

後世のひとが北斎のものをあつめ

たピーター・モースの著(訳・高

階絵里加)『北斎百人一首うばが

ゑとき』(岩波書店)があり、右

近と藤原敦忠のふたりの歌をみる。

 

右近の百人一首の歌(38番)

忘らるる身をば思はず

誓ひてし人の命の

惜しくもあるかな

 

「身をば思はず」の「身」はあな

たから忘れられる自分の身で、い

ずれは、捨てられる我が身のこと

なども考えもしないで、(神に)

誓ったけど、自分はすでにうけて

いるけど、(あなたは)自ら誓い、

破ったことで、神罰が下り、命が

短くなりはしないだろうか。

それを惜しく思います。

この歌は複雑な女心を歌に詠んで

いる。

只々男がこうむる神罰を心配して

おり、これまで一途に数々恋して

きた中で、今なお信じたいと思う

気持ちがどこかに残り、「ちかひ

てし」と掛けている。

 

 

百人一首の右近の歌(38番)

 

『北斎百人一首うばがゑとき』

右近

忘らるる身をば思はず

誓ひてし人の命の

惜しくもあるかな

 

 

『北斎百人一首ーうばがゑとき』(右近の歌38番)

 

今は忘れられたこの身を私自身は

何とも思いませんが、神に誓った

のに背いたあの方の命が憐れでな

りません。

この歌、トム・ガルトは「百人一

首」唯一純粋に観念的な歌で、北

斎は独自に物語をつくりあげてい

る。

ロジャー・キーズは次のように絵

を解説する。

右手の男女はお百度参りのために

神社に向う。…縄は結ぶというが、

恋人同士が互いに誓を交わし、運

命を共にするのも結ぶと表現する。

右近は誓いを破りふたりの絆を断

ってしまった恋人への心情を歌い、

北斎は、誓と絆を題材にして描く。

 

権中納言敦忠百人一首の歌(43番)

逢ひ見ての後の心に

きらぶれば昔はものを

思はざりけり

 

「逢ひ見ての」は、はじめて情を

交わし契りをもった女性に、その

翌朝に贈った恋文、つまり「後朝

(きぬぎぬ)の歌」である。

この歌の意味は逢う前の恋わずら

いなんて、逢って結ばれた後、あ

なたを想う気持ちにくらべたら、

とるにたらない、ますます想いは

つのるばかりだ。と、いう想いを

伝えている。が、この歌は右近へ

の返歌でなく、他の女性に詠んだ

朝(きぬぎぬ)の歌

 

 

権中納言敦忠百人一首の歌(43番)

 

 

『北斎百人一首うばがゑとき』

権中納言敦忠百人一首の歌(43番)

逢ひ見ての後の心に

きらぶれば昔はものを

思はざりけり

 

悲しい人に逢ったのち募る想いを

はかってみると、昔の想いなど恋

していないも同じであったと感じ

られます。

という意味で、歌は今と比べれば、

恋しい人に逢う前の人生は、色の

ない世界だった。と、歌人は言う。

 

 

北斎百人一首乳のゑとき(中納言敦忠43番)

 

北斎は絵の題名にうば(乳母)の

文字を添えるのだが、この作品で

は母を略し乳と書いている。

ちちは父で、これを副題にあてる

と「百人一首父が絵解き」になり、

女性に不実なおこないをすれば、

こうなりますよという女の復讐の

方法が画題にあるというウエーバ

ー。

ウエーバーの北斎の絵解きによる

と以下のようになる。

丑の時参りは、不実な男に呪いを

かけるためで、深夜2時に白い衣

を着て、首に鏡をかけ、神社に来

て神木の1本に藁人形を釘付けに

する習俗があり、北斎の絵には、

この様子がよく描かれていいると

いう。

 

 

『北斎百人一首うばがゑとき』(権中納言敦忠百人一首の歌・43番)

 

『北斎百人一首うばがゑとき』

この絵の神木の横に立て看板があ

るが、もともとの北斎の版下絵に

はなかったものである。

京都の佐藤章太郎が書き加えたも

ので立て看板に「大正十年十月/

開板」と記す。

このように「北斎百人一首」は、

当時のまま、すべてがが残されて

いるわけでなく、いまだ見ること

ができないものあり、「逢ひ見て

の」(43番)のようなケースも

ある。

平安時代の頃、この時代の男女は、

直線的に語らないで、ものごとを

何かと掛けておくゆかしく伝えて

いるようだ。それを北斎は絵で表

現し、世界のひとが、日本の北斎

の百人一首の絵を通して恋心の複

雑さや日本の文化の難解さを、

解きをしているが、これは現在人

でもそうで、わかる気がする。

 

 

 

 

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