宮武外骨の「アメリカ様」。

反骨のジャーナリスト外骨は奇才・奇人で、

「裸の王様」の少年の如く、

戦後すぐに「アメリカ様」を書いている。

 

ー「アメリカ様」と時代背景ー

昭和21(1946)年に発刊された「アメリカ様」。

日本は敗戦国となった終戦直後の、

連合国の下に治められていたときである。

 

 

           宮武外骨著作集第8巻(河出書房新社)の目次

 

戦前の原点は明治にあり。

「アメリカ様」は、短文60本あり、内の最後の短文4本を要約し、

外骨の言わんとするところをみる。

 

 

               宮武外骨著作集・第8巻の「アメリカ様」

 

ーその1(「日本帝国が日本国になった理由」)ー

日本帝国憲法を日本国憲法(草案)と改められ、

帝国議会を国会と改める。

これにより、東京帝国大学を東京大学と改めるが、

帝国劇場、帝国ホテルなどは、どうあらためばよいか。

上御一人様は現に存在されているのに判然としない。

帝の字だけを省くのは、やがて主権在民の時代を見越しての事、

独立国でないにしても、国土があり、

国民がある以上日本国と称して可なりとするのか、

さもなくば、「帝国主義」の滅亡であるから、遠慮して帝の字を削ったのか、

または、アメリカ様の命令によったのか、

我輩は其の判断に苦しむと外骨はいう。

 

ーその2(「大祭祝日を全廃して娯楽日を新定」)ー

明治政府が設定し強制的に遵守せしめた大祭祝日、

紀元節などは、祭政分離の時代、

在民の時代には何ら意義なき祭日、

五節句を再興するほうがましだが、時代に適応しない、

それよりも大衆の娯楽日・慰安日として、

隔月1回の共同休日を新定し、

それを毎年の行事としたほうがよい。

この大祭日は、天皇を人間外の神様として、崇拝せしめ、

それを自家擁護の本尊としていた官僚ども、

つまり大祭祝日を制定した輩の後継者には、

断行の意思なしであるから、これもアメリカ様より現政府に対して、

大祭日を全廃せよの命令あらんことを希望すると外骨はいう。

 

ーその3(「軍閥の残党を再び立ち上がらせない事」)ー

近頃、ケシカラヌことを聴く。

軍閥の残党が寄り合い、いかにして我が日本を

旧態に復し、大和魂の活動を再興し、今日の屈辱を

脱する術策を立てる提案で、其の復興策は、ソ連と結託し、

武器をもらい受け、米国を撃退するよりほかなしと馬鹿げた空想。

我が国民は、それに反対してとりあわず、

其の巣窟の全滅を期するよう、アメリカ様へ密告すべし。

重ねて云う。

我が国の軍閥が無謀の野心を起こした結果、

我が国を滅亡にせしめた。幸いにアメリカ様が

来られて自由主義平和の民主政府ができる。

再び軍閥の圧政政治を復興させてタマルものでないという外骨。

 

その4(「官僚政治の打倒は勿論の事」)

明治初年より今日までの80年間、

財閥と馴れ合い、軍閥を援助した官僚。

戦後、官僚が、今なお内閣に残存するは厚顔のいたり、

一日もはやく退去するのが正常の謝罪法、

いつまでも政権を持続するは、破廉恥至極の

政権亡者である。また、アメリカ様より教科書改訂、

日本憲法改正の大業を命ぜられている。

虚偽と専制を除去すべき新時代化の編纂、

これも新政府に委ねるべき事で、旧想の官僚が

関与すべき仕事でない。いづれにしても、

早く退去べき官僚政府であると、叫んで、筆をおく。

 

 

           マッカサーによって一部削除される「アメリカ様」

 

ー外骨と「令和」ー

令和の原点は太平洋戦争の敗戦にはじまり、

日本の独立はサンフランシスコ平和条約締結の

昭和26年までまつことになる。

宮武外骨の「アメリカ様」は、敗戦の翌年に書かれており、

とても興味深く、新鮮に思えた。

これはどうしてだろう。

 

 

宮武外骨(参考)

2019.9.14

三谷幸喜(映画『記憶に…』)と宮武外骨(「滑稽新聞」)

2019.9.24

宮武外骨(雪冕)と小林一三ー新大阪物語(675)

2019.9.25

小林一三(小説「練絲痕」)と宮武外骨ー新大阪物語(676)

2019.9.28

天が茶屋の聖天山(正圓寺)ー新大阪物語(679)

2019.10.3

宮武外骨「滑稽新聞」と竹久夢二ー新大阪物語(684)

2019.10.4

宮武外骨と南方熊楠(「奇人」)ー新大阪物語(685)

2019.10.17

大阪市長の池上四郎(天王寺公園)ー新大阪物語(693)

2019.10.18

宮武外骨(「反骨」)と「アメリカ様」

2019.10.19

宮武外骨の「アメリカ様」(「三幅対」新聞・財閥・論士)