【刮目せよ!】
もともと負い紐レプをせっせと作っていたはずが、いつの間にか顎紐にも手を出し、それどころか部品単体の特注が多くなった近年のワシ(特注自体は10以上前の最初のレプ製作時からやってましたが)。
ただその部品の特注も怖いもので、うまくいくと感動モノですが、数が膨大なために部屋中が段ボールで埋め尽くされていく問題、モノによっては大きなバイクが買えるくらいの資金が吹っ飛んでいく恐怖、失敗したらそれが全てゴミになるという相当なリスク、それらと常に隣り合わせです(ゴミパターンも何度か有り)。
そんなわけで、いくつも案のまま温め続け冷ましてしまう特注パーツ候補があるのですが、そのうちの1つで、ついに足を踏み外してしまったのでした。
さすがのワシも
「こればっかりは無理かな」
と後回しにしていた、禁断中の禁断のレプリカです。
それは、88式鉄帽のネジ。

それでは吐血しつつ顛末を綴っていきます!
【長年に渡る雌伏】
*何度も断念
誰しも88式鉄帽レプを集め出してぶつかるのが、ネジの問題。
ワシも2012年から88式鉄帽を集め出したのですが、いいネジなどあるはずもなく、結局は「どうせ覆い被せるし」と自分を納得させ、市販のネジを使っていました。
そんな中、5年前に88式鉄帽(当初型)顎紐レプの計画を立てたのですが、そこで改めてネジの問題に行き当たります。
ご存じの通り、官品の鉄帽ネジは、マイナスだから。
そう、今は市販の規格品のネジはプラスばかり。
そのプラスネジを塗装してハイ終わりでは、マニアは満足しません。
官品ネジはただマイナスなだけでなく、コイン(ぶ厚い500円までいける)で回せるように、溝の幅が太くなっているのです。

それだけでなく、ネジの頭の円の直径や高さも独特なもので、一部に市販品のマイナスネジはあっても、レプとして使えるサイズや形状のものはありません。
ここでいろいろ考えあぐねたのですが、各種金具の特注で一杯いっぱいだったこと、その特注じたいうまくいくかどうか分からない…ということで余裕がなく、結局は「どうせみんなも覆いを被せるだろうし」ということで、市販のネジを付属することで完了としたのでした。
それでも納得していたわけではなく、ずっとアタマの中でネジの特注が浮かんでは消え…としていたのです。
さて、その翌年に2型顎紐レプを計画し実行、さらにその翌年の2022年に2型顎紐「改」のレプを計画。
その際、2型用の丸ナットのレプリカ計画も進めました。

(うちの丸ナットのレプ。ワッシャは官同サイズの市販品)
この時も、同時にネジも特注することを検討していたのです。
でもネジは一筋縄ではいかず、後述のように諸々の問題点がクリアできなかったため、この時はナットのみの特注となったのでした。
*長さの悩み
仮に官品ネジをフル特注するとしても、課題はいくつもあります。
まずはネジの長さで、2型のネジは首下13mm。

(このようにハンモックと顎紐をネジとナット・ワッシャで止める)
しかし薄いレプ帽体に首下13mmのネジを使うと、ネジの先が頭部に向かって突き出す形になり、強い衝撃が加わった時にネジが頭に刺さる可能性もあって危険。
かといってネジを短くしてしまうと、厚い帽体にハマりません。
皆さんご存じの通り、レプ帽体はいろんなところからリリースされていますが、まさかそれらの帽体の厚みに合わせて長さの違うネジを何種類も特注するわけにはいきません。
でもワシは2024年に、これまで帽体によって厚みが違うから…と悩んで2年も封印していたハンモックのレプを、「それなら官品準拠にすればいいじゃん」と割り切ってリリースさせていました。
この時「じゃあネジも官品準拠でいいんじゃね?」と思い至り、それに俗にいうヤフッパチやPXジョーシマ製など「帽体の厚いレプリカ」なら、官品サイズのネジでも合います。
よし、となればサイズは官品だ。
・・・と、1年前にここまで結論を出せてはいたのでした。
*色の悩み
でもまだ、最大の難関が立ちはだかっていたのです。
それは、ネジの頭の色。
どこが問題かというと、製品によって帽体の色が違うから。
仮に、実際に販売されている帽体Aの色に合わせたネジを作っても、帽体BやCには全く合いません。
さらに帽体とセットでネジをリリースするならまだしも、ワシは帽体レプなんて作る予定はありません。
おまけに変態のマニア諸兄は、覆いを取った状態でも鉄帽を愛でるのです。
そんな時に帽体とネジの色が違っていたらどうでしょう。
きっと発狂し、奇声を発しながら重く固い帽体を投げつけてくるに決まっています。
首下の長さなんて外からは見えませんが、色味は見えるものなのです。
ここで
「どうせ覆いを被せるし見えないんだから気にしないでいいじゃん」
と思ったアナタ、それは確かにおっしゃる通り。
でもそれだったらマイナスネジじゃなくていいじゃないですか!
そこらへんのプラスネジでもぶちこんでおけばいいってことになっちゃいます!
あーもー全部の話が台無し!
…というわけで、話が永久ループにはまってしまいます。
おまけにここで、マイナス思考にも陥ってしまいました。
どんなに苦労してどんなにレアで渇望されていたレプ製品や部品を作り上げたとしても、一度レプを量産して出回らせてしまえば、その瞬間にそのレプは貴重でもなんでもなく「あって当然」となってしまい、場合によっては渇望していた人さえ「いつでも入手できるなら別にいいや」とトーンダウンしてしまうのです。
自衛隊装備パーツのレプなんて、結局はそんなもの。
そんなこんなでウダウダしてしまい、、そして別の特注に意識を振り向けたりして、官品ネジレプ計画は半年間ストップしたのでした。
【足を踏み出す】
*見切り発車
そんなこんなで計画中断したままになっている間にも、ちょくちょく
「ネジのレプはありませんか?」
という質問をいただいていました。
そんな時には、前述のような作れない理由をお伝えするしかなかったのですが、それにしてもネジを欲する人は意外にいるものです(※でもそれほど多くはないのが実態です)。
そして今年の梅雨時期、ひょんなことから2型鉄帽の色について検証する機会がありました。
そこで閃いたのです。
再現しようとしているのは2型ネジのレプなのだから、官品2型と同じ色で塗装してもらえばいいじゃん、と。
88式鉄帽の当初型はODというか濃いグレーっぽい色なのですが、2型はそれがやや明るめのグレー(とはいえ海自用鉄帽のグレーよりは濃い)になったのでした。
しかし2型の帽体なんて直に触ることなどできず、それがナニ色なのかなど説明できません、
でもまあ、とりあえずは2型っぽい色にしてしまえば、官品2型の帽体の色味のレプなんて現状は存在しませんが、レプネジがあればあったで何かしら活用方法があるでしょう。
じゃあ、やってやみるか・・・という自分としては珍しく随分な見切り発車で、冒険行に足を踏み出すことにしたのでした。
*穴埋めネジも
官品レプを特注するのにあるとないとでは大違いな「仕様書」ですが、これについてはすでに2型改あごひもレプを製作していたので問題なし。
ネジの首下の長さは、メインの6本は仕様通り13mmに。
「ん?メインの6本?」
と首を傾げる人もいるかもしれませんが、実は当初型ではうなじ当ての取り付けに使われていた2か所が、2型では穴はあるけど使わないということで、「穴埋めネジ」というもので塞がれているのです。

(PXジョーシマ製の帽体をお借りして説明)
これは、マイナスっぽいプラスネジで、首下は9mmと少し短い。

(官品2型用の穴埋めネジ。マイナスとプラスのあいのこ)
しかしなぜこの2個がマイナスっぽいプラスなのかというと、ハンモック用のネジと異なる首下9mmだから、混用を防ぐため…?
せっかくなのでこれも同時に特注することにしました。

悩んだのがこの穴埋めネジ用のナットで、官品ではわざわざこのネジ用にちょっと短い高さ6.5mmの丸ナットを用意しているのですが、ここは新たに特注せず、当初型顎紐で特注した高さ5mmの丸ナットで代用。
(メインの長いナットは既にレプを作ったので今回は動きなし)
*材質も官品準拠
構想段階では全く気にしなかったものの、特注を決定したら避けて通れない「材質の選定」。
ここで失敗すると、後々までの後悔の種になってしまいます。
官品ネジの素材は真鍮+αですが、鉄帽はもろに水(雨や汗)に晒されるので、当初は錆びに強いステンレスを考えていました。
しかし官品が真鍮+αなのには何か理由があるのだろうし、どうせ別の素材で作ってもワシの性格ならいずれやり直すだろうと考えて、官品と同じ素材にしました。
なお色は、仕様書には色の記号が記載されているのですが、それが工場様には伝えられず(パントーンで要求され、しばらくにらめっこしたものの視神経が麻痺したので断念)、やむを得ずそれらしい色味のサンプルを用意して工場様に送りました。
・・・と、個人の特注でも受けてくれる工場との付き合いさえあれば、覚悟を決め資金さえ用意すれば特注なんてできてしまうのです。
逆に言うと、特注なんて企業サマがちょいと本気を出せば造作もないことで、だからこそ個人クリエイターにとっては計画途中で先を越されるのが恐怖でもあります。
幸い、企業様としても課題は同じと見え、幸いこれまで官品ネジのレプリカが市販されることはありませんでした。
もっとも陸自装備勢は狭い世界なので、企業様が大量に量産して単価を下げたとしても売れる量には限度があり、これから真似しても売れませんよ…(笑)
*ミスそしてやり直し
さて。
工場様に依頼して2か月後、ようやく完成したとのことで、現物を送ってもらう前に完成品の画像を送ってもらいました。
どれどれ・・・あれ?
メッキは?
まさかメッキしないで頭だけ塗装したの?
これじゃダメじゃね・・・?
・・・と焦りながら工場さんに確認してみると、
「メッキという指示がなかったですし、見積もりにもメッキ代は入れてませんでしたよ」
という、至極まっとうなお返事。
国内の工場さんだったら、こういう時は事前に
「メッキしないでも大丈夫ですか?」
とか確認してくれるので、今回はウッカリしていました。
当初ステンレスにしようかと悩んだ時のように、鉄帽ネジはモロに雨と汗を被るので、メッキもせずにいればサビサビになり(緑青(ろくしょう)と呼ばれるやつ)、ナットと固着してしまいます。
なのでメッキは必須ですし、官品ネジもメッキされています。
でもこれはワシの確認不足で完全にワシのせい。
後悔しても仕方ない。
なので工場様にはいったん塗装を剥がしてもらって改めて黒ニッケルメッキをかけ、再度アタマに塗装してもらうという、完全に無駄な作業を依頼することに。
これでさらに余計な工賃がかかってしまったのでした。
あーアホだ。
それでもようやく、5年の長きにわたって構想段階から進めなかった鉄帽ネジのレプリカが、ようやく形になるのです。
あとはブツが届くのを待つだけ、あ~楽しみ!
*納品そして放置
それから1か月、ようやくネジが届きました。
そして興奮しながら見てみると・・・
え?
色、違くね?

実は最初の塗装の完了後に画像を送ってもらっていたのですが、その時も色が濃くなってる気がするなとは思ったものの、撮影時の明るさやホワイトバランスによって見え具合が変わることはよくあるので、気のせいかと甘く考えていたのでした。
特注の世界では色味というのはとても難しく、ポリエステルやナイロンテープと同じで、どんなに完璧なサンプルを用意したとしても結果は未知数。
とりあえずやってみなければ分かりません。
もちろん、例えば赤を間違えて青にしてしまったのなら完全なミスでやり直しですが、同系統の色が濃い/薄いは感性の違いになってしまうので、やり直しはしてもらえないのです。
しかし2型の寸法で2型と色が違うとなると、これは一体何のレプなのか・・・ワシは一体何のためにこんなものを造ったのか・・・。
自分でもかなりショックで、一瞬ヤケになってもう捨てようかとも思ったりして見るのも嫌になり、ネジが納品されてから2か月も放置していたのでした。
そしてこのレプは、そのまま闇に葬られる予定でした……
【天は我を見捨てなかった】
*怪我の功名
放置といってもネジなんて大して嵩張るものでもなく、なんとなく部屋の隅に箱を置いたまま忘れかけていたのですが、ある時フと
「そういえば官品と並べてみたらどうだろ?」
と思いつきました。
そう、色が違うというショックのあまり、納品後は本当に全く触れていなかったのです。
そこで、なぜかポケットの中に入っていた当初型のネジと、耳の上に挟まっていた2型のネジを、放置したままのレプと並べてみたのがこちら。

(左からレプ、当初型、2型)
ねえねえ!
なんか当初型と似てない?
ねえ、似てるよね?
そこで、とあるレプ帽体につけてみました。

(左から2型、レプ、当初型)
うっそマジ!?
意外に合ってない!?
このレプ帽体は、ワシが愛してやまないヤフッパチ。
最も馴染んでいるのは右下の当初型用ネジで、ということは色々存在するレプ帽体の中で、ヤフッパチの色味はひとつの正解と言えるということかもしれません。
※但し、同じ陸自用の88式鉄帽・当初型といっても、登場時期で色味が何種類かあるかもしれず、絶対ではないです。
真ん中の今回のレプは、じっくり見ると「ん?」と思える程度の差異でしょうか。
左の2型のグレーは、やはりヤフッパチに比べると明るくて違和感がありますね。
というわけで、たまたま業者さんの色味合わせの失敗で、目指していた2型ネジの色とはけっこう違ってしまいましたが、これはまだラッキーといえるものでした。
これがもし色味が薄くなる方向に失敗してたら、マジで捨てていたでしょう。
サイズとしては2型なのに当初型の色に近くなってしまったのですが、そもそも2型を色まで再現した帽体はリリースされてないので、もうコレでヨシ!
ふう!(額の汗をぬぐう)
*当初型風にもできる
と、なれば話は早い。
手持ちのヤフッパチのネジを今回のレプに入れ替えます。

うん、まあまあよいではないか!
しかしこの帽体は2型を模したものではないので、色味が当初型なうえに余計な穴も空いていて、いまいちしっくりきません。
ということで、当初型に見えるよう、穴埋めネジを使わないで全部のネジをマイナスにしてみます。
おお!
近くでよく見ると違う色だと気づくのですが、屋外で見たらまず分からないレベル。
これはなかなかいいのでは!?

官品以外で、こんなにリアルなマイナスネジがついた88式鉄帽を見たことはありません。
いやあ、ニヤけてしまうなあ。
ただし当初型風にするには少し注意が必要です。
そもそも当初型の三角かん(Aナットとも言う?)のレプがないというのは置いといて、当初型ネジはハンモック用の6つは首下12mm、うなじ当て用の3つは首下11mm、顎紐用の2つは首下17mmと細かく分けられているから。
もっとも、今回の2型サイズのレプは首下13mmなので、ハンモック用もうなじ当て用も代用は効きます。
ただし顎紐用は長さがかなり違うので、代用は厳しいでしょう。
それでも、外観だけならいいのではないでしょうか。
余談ですが、88式鉄帽の「当初型のさらに初期版」は、ネジ(当然ナットも)のピッチが後期と異なっていて、後期(あるいは市販の一般的な)のネジやナットにはめることができません。
見ただけではそのネジやナットがどうなのか分からないため、官品の放出品を入手した時は、事前に確認しておく必要があります。
そうでないと、せっかく官品ネジやナットをGETしたのにはまらない!という悲劇も起こりえます。
ちなみに、新たに長さが違うネジを再度特注するとしたら、当然工場様としてもデータは保存しているはずなものの、微妙に色味が違うものが出てきそうな予感しかありません。
やはり素材の特注では、色味は最大の難敵です。
もちろん、ゴミを大量に抱えるのは嫌なので、当初型用のネジの特注なんてしませんが・・・
*塗り直しは注意
というわけで、このレプの色がヤフッパチにはまあまあ合うことが分かりましたが、他のレプ帽体の色には合わないと思います。
でも必要なら、ネジのアタマを帽体と同じ色に塗ればOK。
ただ、このレプはウレタン塗装で、そのまま上からラッカースプレーで塗装してしまうとシンナー成分でウレタンが溶け、ぼろぼろになってしまいます。
なので塗り直しをする場合は、まず溶剤でアタマの塗装を完全に落とすという手順が必要になります。
そこに気を付ければ、コイツを塗り直して好みの帽体の色に合わせることができるでしょう。
もちろん、色を合わせるのは苦労すると思いますが・・・
・・・というわけで、とりあえず特注はしたしこのようにお披露目もしたはいいものの、どうせみんな覆い被せちゃうし帽体の色とも合わないことも多いしで、ホントなんのためにこんなの作ったのー!?
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