#411 【役所萌え】 ~スロープのお出迎え~ 戸田市役所 | 関東土木保安協会

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関東土木保安協会です。
 
私は意匠屋、すなわち建築デザインに携わる方々と話したことがあるのですが、その際に土木施設についての会話をよく覚えています。
彼ら彼女ら曰く、「(例えば送電鉄塔などの)土木施設は、人間で言うならば裸の状態と同じだ」と言うのです。
裸とは。。と疑問符が浮かぶ私に続けます。
「建物は、デザイナーの思想があって形状や装飾や付加されていく。そういった思想も何もない、単なる合理的な塊の鉄塔なんかは、服を着ていないのと同じだよ。」
 
なるほど、と。私はこのときハッとさせられたのをよく覚えていますね。
どんなものでも意匠屋は常に介在する訳で、例えば家であれば、建て売りのリーズナブルな家でも、豪勢な注文住宅でも、必ずデザインは存在します。
それが人間で言えば、デザイン=ファッション=お洒落、言わば裸の身体に服を纏うということでしょう。
土木施設は?と言うと、そこには僅かばかりの環境や地域特性への配慮があるのみで、それ以外は合理的なコストと耐久性の無機質な産物が積み上がります。
やれ駅ビルで流行りの○○を、などというお洒落なコメントは皆無で、最低限以上のお洒落をハイコストパフォーマンスで、というGUのようなところです。
 
では、無機質な構造物からは大きく進み、少し前の官公庁などの堅いお役所建築はどうでしょうか。
スーツを纏ったような、いや作業着、、どちらにせよ派手なデザイン重視とはかけ離れた、裸ではないにしろ機能性重視で重々しく華美でないものが多いかと思います。
 これが、一昔前のサラリーマン、長いコートに黒いスーツに七三分けなどを連想させるような、見るだけで役所!とわかるいい雰囲気なんですよ。
 
 
さて、ここからが本題で、少し前に所用で戸田市役所まで伺いましたが、あまりのかっこよさに惹かれてしまいましたので、載せてみましょう。
その役所!の黒スーツ感溢れるお役所建築とやら、如何に。。
 
 
▲威風堂々、役所の威厳を感じる面持ちだ
 
こちらが戸田市役所。
堂々とした風格、威圧感は覚えなくとも詰まった圧迫感あるような外観、陸の旗艦的な雰囲気に一目惚れです。
 
何がよいって、このスロープですよ。
 
▲2階の中央玄関へ向かってスロープが続く
 
来るものに優しい手を差し伸べるかのようなスロープ。
時として黒塗りの高級車とそれに乗る要人の踏み台となるスロープ。
現代におけるバリアフリー化の先駆者でもあるスロープ。
緩やかな曲線が、やや角ばった体と上手にマッチして、昭和の役所感ハンパない美形となっていますね。
 
先程のアングルは南西からなのですが、手前の木々もありますので、次は南東から見てみましょう。
 
 
▲駐車場駐輪場が設置された南東側より望む
 
見てください!
こちらも期待を裏切らないですね。
横長の高低差があるシルエットが、まるで陸に鎮座する不沈艦のようです!かっこいい。。。
(今まで何隻の不沈艦を見てきたことやら…)
 
写真手前の低層部は、なにやら増築された臭いがします。
 
▲北側より低層部と高層部の繋ぎ目を望む
 
後ろに回り込んでみてもこの通り。
建物の繋ぎ目でしょう。エキスパンションのような造りです。
調べてみると、高層側を1970年10月に竣工させた後に、低層部を1982年9月に増築したと記録があります。
やはり増築でした。
 
▲南東側にも同様のスロープが設置される
 
しかし、これは非常に感動します!
他の物件では増築すると意匠が少しずれるのも常ですが、ここは12年後の増築だというのに、きれいに意匠を合わせています。
まるで、当初から一体となって造られた建物のような印象を受けます。
通常は微妙に形が違ってもおかしくないものの、サッシから手摺、切り欠きまで。。そのこだわりに惚れますね。
 
▲建物正面から望む
 
建物正面には広い緑地を有し、公園のような憩いの場を提供しています。
上写真に写らない周囲にも緑が広がっています。
 
おっ。
屋上が気になったので拡大してみましょう。
 
▲正面から屋上を望む
 
一番上の窓に見えていた部分はバルコニーだったのですね。
フェンスが張っています。
その奥にはエアコンの屋外機が見えます。
外装と一体感のある壁により、周囲からは屋外機も見えにくくなっています!
なんと美しい視覚的配慮&デザインでしょう!
お堅いように見えてこんな気配り感、まさにカッチリ理系男子が見せたサプライズプレゼント!
(そうなのかどうなのか)
 
▲スロープを登る際もその威厳に圧倒される
 
一通り外観を楽しみましたので、いよいよスロープを登ってみましょうか。
 
一番上には定礎がありました。
 
▲定礎
 
前にも増築のところで触れましたが、竣工は1970年10月。大阪万博などをやっていた年です。
毎度思いますが、現代のデザインではこうはならないでしょうねぇ。
華美に見えてしまう装飾や意匠がされないというのもありますが、当時の曲線主体とこの後から流行りだす直線主体が合わさった時期だからこそだと感じます。
 
▲朝日に映えるサイドビュー
 
直線基調でありながら、曲線を交えたまさに甘辛コーデ。。
あれっ。。
なんだか役所建築とか言っておきながら、読者モデルをイジイジしているような盛り上がりっぷりですよこれ。。
 
中も少し覗いてみましょう。
入口を入ると、これまた立派なお役所感です。
立派な吹き抜け、そして天井。
それを囲むように配置される各部署の窓口。
一歩踏み入れただけで、気分は高度経済性長期です。
 
▲正面玄関
 
市のロゴマークらしきTODAの文字がありますが、いつ頃定まったのでしょうか。これまたバブリーというか、ポップというか、近未来というか、独特の感覚です。
どこまで萌えさせるんですか、私を。
 
▲正面玄関を入ると、吹き抜けが広がる
 
中はロビーから階段が続いており、そのまま各部署の窓口、そして奥に各オフィスと続きます。
いま見ても斬新なデザインです。
 
▲2階から正面玄関を望む
 
窓下の細かい壁面模様も、外壁に合わせて面がとられた四角形が延々と続きます。
ファッションから内面まで、この子はトータルコーデも完璧じゃないすか。
これは結婚するしかないですね。
 
▲壁面には照明が並ぶ
 
壁面には小さなシャンデリアが並んでいます。
これまたゴージャス感ある、'70sなベストアイテムですね。バブル期のどでかいイヤリングくらい、建物にしっくり馴染みますね。
 
 
さてさて、もう市役所とは結婚するしかなくなった私ですが、市役所の西隣に戸田市文化会館という多目的ホールがありますよ。
ここは外観も魅力的なのですが、3階から横顔を見つめることができそうですよ。行ってみましょうか。
 
▲色合いとフォントがそそる
 
戸田市文化会館は1980年11月にできたようです。
これを書いていて気づきましたが、市役所の増築棟より2年も前なんです!再び増築棟に感動です!この文化会館を建築していても、その2年後に既存の12年前の市役所の意匠に合わせたのですから。
 
▲戸田市文化会館外観
 
明るい茶色系の外装ですが、随所に用いられたメッキパーツが光り、重厚感があります。
バブル期の少し前ですので、派手すぎず安っぽくありません。
 
▲定礎
 
入口には例のカラフルポップな戸田市のロゴが。
カラフルポップを打ち消すほどの重厚感に包まれていますね。
 
▲戸田市文化会館の正面玄関
 
歩道から入口までは丸いアーケードが設置されています。
このアーケードに電球が設置されているのですが、それがまた良いのです。
節電か不具合か、多数の電球が外されていましたが、竣工当時の光輝いていた頃を十分に偲べます。
 
▲これまた一昔前感ある電球の列
 
中に入ってみると、あらまぁこれがすごい。
天井は高いし、柱は壮観ですし。
ずいぶんと立派な建物です。
 

▲現代でも十分に通用する広さ、内装
 
さて、肝心の戸田市役所のサイドビューを眺めるべく、上に行きましょう。
 
3階まで登ると、見えました見えました、これが戸田市役所の横顔です。

▲市役所を西側から望む。
 
なんと、白い出っぱりの部分には素晴らしいバルコニーがあったのですね!
パンジーが飾ってあったところは、全てバルコニーだったのです。
贅沢なフロアの使い方です。

横顔をもっとアップしてみましょう。
すごいすごい、壮観です。
いい顔してますねー。
 
▲バルコニー分を拡大
 
いやぁー。
戸田市役所には外観から引き込まれて、既に駐車場を眺めるだけで70年代の車がずらりと並ぶような錯覚すら味わえてしまいました。
中にいる市職員ですら、往年の七三分けのへアセットで出迎えてくれているようにしか見えなくなってきましたよ。。
これはなんという危険ドラッグでしょうか(笑)。
 
 
往年の「お役所感」を出してくれる、このような立派な市役所、いいですねぇ。
当時のこれから光輝く未来ばかり見えていたであろう市民の求めたフラッグシップは、半世紀近く経つ現在も頼もしく見えるのですねっ。
 
 
 
〈参考〉
戸田市定例会議事録 : 平成21年3月