【400文字作文】下半身は地球を救う。 -3ページ目

【400文字作文】こんこん。

$【400文字作文】下半身は地球を救う。



 雪よ、ユキ。と女が言う。みたいだね、と
私は言った。街を白く覆う雪は珍しいけど、
いろんなものに踏まれまぶされ灰色になり、
道路脇に集められた雪は珍しくない。
 積もる前で良かったな。と言いながら、私
は車を車庫に停め、ワイパーのスイッチを切
ったが、エンジンはまだ切らずにいた。一定
のリズムで動くワイパーが、私はあまり好き
じゃない。カーナビも、電子辞書も嫌いだ。
 降りないの?と、全く降りる素振りを見せ
ない女は正面を見つめ、言った。
 少し曇り始めたフロントガラスに、大粒の
雪がぶつかってくる。遠くから飛来してくる
その雪が、小さくて珍しい生き物のようにも
見え、愛らしく、可笑しくなった。
 女が、こぎつねこんこんやまのなか……と
歌いながら右手の指をキツネの顔の形にし、
私の方へ向けた。
 珍しいね。と私は言い、女の少し紅くて冷
たい指先を、含んだ。

【400文字作文】あね、時々あれ。

$【400文字作文】下半身は地球を救う。-110207

 内戦か……。と、親父は珍しく、呟いた。
いつもは舌打ちや咳払いや、溜め息しか出さ
ない人なのに。
 親父は新聞紙の上に足の平を掲げ、醜いそ
の指先をダメな鷹のように目一杯広げ、分厚
い足の指の爪を切りながら、言った。内戦か
……と。
 気になってその新聞紙を覗き込んだ。僕は
てっきりアフリカや中東や、いまだ洗練され
ていないアジア地域を話題にした記事なのか
と思っていた。が、僕が覗き込んだその紙面
には「次男祖母母親孫姉子供胎児祖父父が弟
兄父祖父」などという文字が妙に誇らしく明
朝体で並んでいた。内戦か……。と、僕も思
い、呟いた。
 母は台所で虫達に悪態をつきながらお茶の
葉を入れ替え、薄くて白くて不安定な湯呑み
にそれを注ぎ、お茶よぉ。と言いながら不安
定な湯呑みを、仏壇へと運ぶ。明日だ……。
 明日で姉が死んでちょうど、一年だ。

【400文字作文】たまごごごはん

$【400文字作文】下半身は地球を救う。-100305

 6時間前に炊きあがった炊飯ジャーの蓋を
開ける。乾いた匂い、がした。「老う」とい
う言葉を連想しながら、やや大きめの茶碗に
「飯」をつぐ。
 白い茶碗に入った「飯」は黄ばんで見え、
悲しかった。が、悲しみに沈んでいてはいけ
ない。ヤカンを火にかける。「至福の、アフ
ター茶」という快楽のために。
 卵は二つ、準備する。ざらりとした卵を触
るといつも私は「月」を連想する。
 卵@1は丸ごと。卵@2は慎重にカラを割
り、ふたつに割れた殻を使って白身を落とし
黄身だけを。つやりと光る黄身を見て正しく
は「月見」ではなく「月身」かもしれんな。
と想う。仕上げに醤油をひとすじ流し、やや
下品な音をたてつつ、かきまぜる。
 台所で立ったままそれを喰っていると、ふ
と袋に入った「味付けのり」と目が合う。破
るべきか、破らざるべきか……。
 湯が沸きヤカンの蓋が、かたかた鳴った。

【400文字作文】いんたびゅう vs おおよそ派遣の女

$【400文字作文】下半身は地球を救う。-100227


 覚悟でしょう。と、彼女は私の目を見て、
応えた。そして2~3秒後、彼女は驚いてい
る私の目から、視線を逸らした。あぁあ……
という感じで、下を向いた。
 私は驚いていた。ホテルのドアを開けたら
そこは座敷で、しかも布団が二組、敷いてあ
る……。そんな「驚き」だった。
 私が待っていた応えは、「強」と「痛」と
か、「柔」と「剛」とか、「美」と「醜」と
か、「徳」と「損」とか、「イン」と「アウ
ト」とか、「攻」と「守」のような、相対的
な応えだったのだ。
 彼女は「女の子」という年齢ではなかった
が、「女性」と、いうにも何か足りない。発
言も個性的なようで、色が無い。そんな「凡
そ的」な女だった……。そんな凡そ的な彼女
に、観念的な応えを返され私は、次の質問が
できずに困っていた。
 私のインタビューは「女と男の違いは?」
という質問で、詰まってしまいそうだった。

【400文字作文】為という字は偽という字に

$【400文字作文】下半身は地球を救う。-100130


 夢の中で僕が殺したのは男か、女か。知人
か。他人か。覚えていないが、十二人という
人数だけは、覚えていた。
 瞼だけをゆっくり開く。窓を見る。窓の外
はとても灰色で、たゆんとした電線が、北風
に揺れていた。それは、誰もいないブランコ
を連想させた。
 僕は夢の中で拳銃のような武器を使ってい
たことを思い出し、その十二人を撃つと、何
人か「ああ、良かった!」という笑顔で僕に
近づいてきたのを思い出した。僕は誰を撃ち
誰を、助けたのだろう……。
 窓の外ではまだ電線が揺れている。僕は少
しだけ起き上がり、窓に映る半透明な自分の
顔を見た。思い出した。
 僕が殺した十二人は全て「僕自身」だった
ことを。笑顔で近づいてきた人達は、僕の家
族だったことを。
 ノックする音と母の声が、向こう側から聞
こえた。僕はまた、布団を頭から被った。