【400文字作文】下半身は地球を救う。 -4ページ目

【400文字作文】角砂糖

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 また、伸ばし始めた爪で、私は角砂糖を削
り、崩した。
 右の指先にくっついたその粒達は、上品な
砂のように。テーブルに積もったその粒達は
決してなつかない、雪のように見えた。
 左の指で摘まんでいた角砂糖をソーサーに
置き、私はタバコを摘まみ、火をつけた。
 タバコを吸う。ふわりと先端の「赤」が灯
る。唇を離すとその先端は黒く、沈んだ。そ
れは何かにとても、似ていた。何かに。
 タバコの先端からは、およそ真っすぐな青
白い煙が上がっている。絵筆で、すっと描い
たようなその煙は、弔いの煙に見えた。
 この、今の私を。「ワタシ」を知る人が見
たらきっと、戸惑うだろう。「ワタシ」なん
てそんなものだ……。
 砂糖がついた右の指先をコーヒーに浸け、
その指先を舐める。
 私の指先はまだ、甘かった。そしてタバコ
を止めていたことも、思い出した。

【400文字作文】萎める心の花を、咲かせ。

$【400文字作文】下半身は地球を救う。-091224



 クリスマスって、なんの日だったっけ?
隣を歩く妻が言った。私に質問しているよう
でもあり、誰ともなしにそう呟いているよう
でも、あった。
 私達は歩きながら腕を組むことも、指を絡
ませあうこともない年齢だが、子供はいなか
った。「このこと」について妻と話すことは
今までなかったし、これからもないだろう。
準備はするけど計画はしない私達はもう、そ
の準備をすることすら、止めていた。
 クリスマスを家で過ごすための準備に買い
物をしていて私は淋しくなった。どんな店に
も子供が欲しがりそうなお菓子が並んでいた
が、私達の家にそれは必要が、無い。  
 買い物を終え、地下鉄の駅へと向かいなが
ら私は妻に、手を。と言い彼女の、右手を握
った。妻は、温かい?と私に聞いてきた。
 駅へと向かう歩道の先から、単調なハンド
ベルの音色が聞こえてくる。その音色は少し
ずつ増え音楽に、なろうとしていた。


【400文字作文】High time・Low sun

$【400文字作文】下半身は地球を救う。-091219


 したかった、だけなんでしょう?
女は落ち着いた声でそう言った。外は寒かっ
たでしょう?とでも、言うように。
 どっちがいい?と男は返した。男は珈琲に
口を付けもう一度言った。どっちが楽だ?
 男の返答はとても古典的で想像力に欠けて
いた。仕事ができないけどなんとなく評価さ
れている……。そういう男の返事だ。
 女と男は外に向いたカウンター席に並んで
座っていた。外ではデッキに張られたテント
が北風に弄ばれ、枯れ葉は躍らされてる。
 男は女の表情がどうしても気になっている
が、それを覗けずにいた。女は対照的に店内
に響く音や男の声に、集中していた。
 十五時四十二分。退屈だった私は磨いてい
たシルバーを故意に、二つ三つ落とした。
 女は金属的な音に反応し、こちらを振り向
いた。男はその女の横顔を、盗み見ていた。
 冬の太陽は柔らかくて低いけど、色んなも
のをずっと、刺している。

【400文字作文】母体のようなボストンバッグ 〜第一発見者の憂鬱〜

$【400文字作文】下半身は地球を救う。-091201


 僕は「それ」を見つけた。そして僕は「そ
れら」に、見つけられた。
 河川敷の雑草の中に埋もれていた安っぽい
ボストンバッグはパンパンに膨れていた。そ
れを爪先で軽く蹴ると、ズシリとしていた。
その重量感は僕の好奇心を、くすぐった。
 サビとか埃とか砂とかで固くなってるファ
スナーを、強引に、裂くように開くと、その
中には腐ったナニかが入っていた。
 その腐ったナニかは僕の好奇心をはるかに
超えていたけど、僕はそれを期待していたの
かもしれない……。僕は「それ」を見つけた
ことを警察に連絡した。
 警察が来るまで僕は、いろんなことを想像
した。新聞。写真。学校。質問。家。日常。
母。子供。友人。軽蔑。尊敬……。
 回転灯だけを点けたパトカーが停まり、ド
アを閉める重い音が聞こえた。僕は「それ」
を見つけただけなのに逃げたくなった。見つ
けただけなのに、見つけられた気がした。

【400文字作文】C'est la vie

【400文字作文】下半身は地球を救う。-091113



 鼻から入る冷えた空気は脳を覚まし、冷た
い風は熱い涙で、瞳を包んだ。私は深くまば
たきをしその涙を瞼で削ぎ、零した。涙は目
尻で小さく膨らむだけで、頬骨の丘さえ越え
ることもできなかった。
 女と会うのも久しぶりで、その店で会うの
はもっと、久しぶりだった。再会は必然で、
ここでの再会は偶然だったのだ。
 店の入り口にはフリーペーパーが置いてあ
る。その表紙に、人生。とか計画。という文
字が大きく書かれていた。数時間後の天気さ
え読めないくせになぜ、多くの人は生きるこ
とを計画しようとするのだろう……。
 夕方から降り出した雨で、見事に濡れた私
は、小さな窓から温かい灯りが零れる木製の
ドアを押し店員に、待合せ。と言った。
 女が私を待っていたのかはわからない。け
ど、私は彼女を待っていた。
 C'est la vie と口の中で呟きテーブルにつ
くと女は、さむいの?と私に聞いた。