【400文字作文】こんこん。

雪よ、ユキ。と女が言う。みたいだね、と
私は言った。街を白く覆う雪は珍しいけど、
いろんなものに踏まれまぶされ灰色になり、
道路脇に集められた雪は珍しくない。
積もる前で良かったな。と言いながら、私
は車を車庫に停め、ワイパーのスイッチを切
ったが、エンジンはまだ切らずにいた。一定
のリズムで動くワイパーが、私はあまり好き
じゃない。カーナビも、電子辞書も嫌いだ。
降りないの?と、全く降りる素振りを見せ
ない女は正面を見つめ、言った。
少し曇り始めたフロントガラスに、大粒の
雪がぶつかってくる。遠くから飛来してくる
その雪が、小さくて珍しい生き物のようにも
見え、愛らしく、可笑しくなった。
女が、こぎつねこんこんやまのなか……と
歌いながら右手の指をキツネの顔の形にし、
私の方へ向けた。
珍しいね。と私は言い、女の少し紅くて冷
たい指先を、含んだ。