【400文字作文】軽快な平凡
錆びが浮いた柵に囲まれた線路沿いを歩い
ていると向かい側から、どんなに忍び足をし
ても足音が鳴ってしまう、気の毒な太っちょ
のように電車がやってきた。これでも気を遣
ってるんですけど、どうしても…と申し訳な
さそうにブレーキの音を鳴らしながら。
本当に気の毒な奴だなと思いながら私はそ
の電車の後ろ姿を目で追った。決まったポイ
ントを数メートル行き過ぎるとやあやあ言わ
れ、時間に遅れて到着するとなじられ、その
くせ決まった時間に決まった場所へ到着し続
けると、敷かれたレールに乗っかってるだけ
の人生は送りたくないと、退屈と往復の代表
的存在に扱われる。
この気の毒な電車は産まれ変わったらスリ
ムになって新幹線になりたいと願っているだ
ろうか。そのままの姿で違う路線を走ってみ
たいと願っているだろうか。
小さな踏切を、太った猫が小走りに渡って
いった。とても軽快に。
ていると向かい側から、どんなに忍び足をし
ても足音が鳴ってしまう、気の毒な太っちょ
のように電車がやってきた。これでも気を遣
ってるんですけど、どうしても…と申し訳な
さそうにブレーキの音を鳴らしながら。
本当に気の毒な奴だなと思いながら私はそ
の電車の後ろ姿を目で追った。決まったポイ
ントを数メートル行き過ぎるとやあやあ言わ
れ、時間に遅れて到着するとなじられ、その
くせ決まった時間に決まった場所へ到着し続
けると、敷かれたレールに乗っかってるだけ
の人生は送りたくないと、退屈と往復の代表
的存在に扱われる。
この気の毒な電車は産まれ変わったらスリ
ムになって新幹線になりたいと願っているだ
ろうか。そのままの姿で違う路線を走ってみ
たいと願っているだろうか。
小さな踏切を、太った猫が小走りに渡って
いった。とても軽快に。
【400文字作文】桃いろアサガオ
関取が3人もいれば解体できそうなアパー
トの一室から夫婦が喧嘩する声が聞こえてく
る。喧嘩といっても男の一方的な怒鳴り声が
外に漏れているだけだが、喧嘩だ。
狭いアパートの一室は穴の無いスピーカー
みたいで男の怒りと中音域だけの、こもった
怒鳴り声だけが外に漏れてくる。
玄関には無計画に植木鉢が置かれ、いろん
な草がここぞとばかりに生えている。もう何
年この花はここで咲いているんだろう。ぼん
やりと植木鉢に咲く名も知らぬ花を眺めなが
ら次の怒鳴り声を待ったが、バラエティ番組
の聞き慣れた笑い声しか聞こえなくなった。
補助輪の付いたピンクの自転車が、換気扇
の下にいた。その小さくて新しい自転車のハ
ンドルは目一杯左側を向いている。まるでう
なだれている子供の首のようだ。ピンクの自
転車の横に立つ細い鉄柱には朝顔の蔓が巻き
ついていた。ゆっくりと誰にも見つからない
ように、どこかに逃げているかのように。
トの一室から夫婦が喧嘩する声が聞こえてく
る。喧嘩といっても男の一方的な怒鳴り声が
外に漏れているだけだが、喧嘩だ。
狭いアパートの一室は穴の無いスピーカー
みたいで男の怒りと中音域だけの、こもった
怒鳴り声だけが外に漏れてくる。
玄関には無計画に植木鉢が置かれ、いろん
な草がここぞとばかりに生えている。もう何
年この花はここで咲いているんだろう。ぼん
やりと植木鉢に咲く名も知らぬ花を眺めなが
ら次の怒鳴り声を待ったが、バラエティ番組
の聞き慣れた笑い声しか聞こえなくなった。
補助輪の付いたピンクの自転車が、換気扇
の下にいた。その小さくて新しい自転車のハ
ンドルは目一杯左側を向いている。まるでう
なだれている子供の首のようだ。ピンクの自
転車の横に立つ細い鉄柱には朝顔の蔓が巻き
ついていた。ゆっくりと誰にも見つからない
ように、どこかに逃げているかのように。
【400文字作文】ホーム・ホーマー・ほーむれす
何かを抱いたまま、医療危機についてぶつ
ぶつと愚痴をたらす浅知恵な浮浪者と同じペ
ースで歩きながら、俺は新宿のバーに入った。
からんころん、とベルをドアで鳴らし店に
入っていくと、カウンターの奥にアイツが座
っていた。呼び出されたことは迷惑ではない、
ということを表情で伝えながら隣に座り、ま
ずは無難に仕事のこと、女の子のことを話題
にするが二人とも真剣になれなかった。
話題が、自分のイメージに体や脳が重なれ
ないもどかしさや苛立と、どう上手く付き合
っていけるか。に移り、それを諦めるのでは
なく、受け入れることが大人になる条件なの
かもしれないという仮説が二人の間で成立し
ようとした時に、バーの照明が少し明るくな
り Go West が店内に響いた。
駅の東口にあるこの店が、帰ってください
ね、というメッセージ付きのラストパスは、
いつも正確で受け取るのが難しいが、それが
鳴るといつも俺は犬のように走り出すのだ。
ぶつと愚痴をたらす浅知恵な浮浪者と同じペ
ースで歩きながら、俺は新宿のバーに入った。
からんころん、とベルをドアで鳴らし店に
入っていくと、カウンターの奥にアイツが座
っていた。呼び出されたことは迷惑ではない、
ということを表情で伝えながら隣に座り、ま
ずは無難に仕事のこと、女の子のことを話題
にするが二人とも真剣になれなかった。
話題が、自分のイメージに体や脳が重なれ
ないもどかしさや苛立と、どう上手く付き合
っていけるか。に移り、それを諦めるのでは
なく、受け入れることが大人になる条件なの
かもしれないという仮説が二人の間で成立し
ようとした時に、バーの照明が少し明るくな
り Go West が店内に響いた。
駅の東口にあるこの店が、帰ってください
ね、というメッセージ付きのラストパスは、
いつも正確で受け取るのが難しいが、それが
鳴るといつも俺は犬のように走り出すのだ。