【400文字作文】桃いろアサガオ | 【400文字作文】下半身は地球を救う。

【400文字作文】桃いろアサガオ

 関取が3人もいれば解体できそうなアパー
トの一室から夫婦が喧嘩する声が聞こえてく
る。喧嘩といっても男の一方的な怒鳴り声が
外に漏れているだけだが、喧嘩だ。
 狭いアパートの一室は穴の無いスピーカー
みたいで男の怒りと中音域だけの、こもった
怒鳴り声だけが外に漏れてくる。
 玄関には無計画に植木鉢が置かれ、いろん
な草がここぞとばかりに生えている。もう何
年この花はここで咲いているんだろう。ぼん
やりと植木鉢に咲く名も知らぬ花を眺めなが
ら次の怒鳴り声を待ったが、バラエティ番組
の聞き慣れた笑い声しか聞こえなくなった。
 補助輪の付いたピンクの自転車が、換気扇
の下にいた。その小さくて新しい自転車のハ
ンドルは目一杯左側を向いている。まるでう
なだれている子供の首のようだ。ピンクの自
転車の横に立つ細い鉄柱には朝顔の蔓が巻き
ついていた。ゆっくりと誰にも見つからない
ように、どこかに逃げているかのように。