先日、池袋の東京芸術劇場で読響の演奏会を聴いてきたのですな。グラズノフの小品、ハイドン最後のシンフォニー、カプースチンのサクソフォン協奏曲、そしてラヴェルの「ラ・ヴァルス」というプログラムに「はて、その意図は?」などとついつい考えてしまったりもするのでありましたよ。
読響HPでは指揮者の山田和樹が語る意図らしきところが掲載されていて、どうやらテーマは「踊り」ということになるようけれど、必ずしもストンと落ちるものではなく…。たしかに始まりがグラズノフの「演奏会用ワルツ第1番」で、おしまいに「ラ・ヴァルス」がありますから、ワルツに始まりワルツに終わるのではありますけれどね。
ただ、聴く側にとっての目玉は上野耕平がソロを吹くカプースチンかとも思うところで、近頃妙に流行りのカプースチンを取り上げるのは聴きものでしょうけれど、「おや?」と思ったのはハイドンの方。一般に「ロンドン」という名で呼ばれる交響曲第104番は掉尾を飾るものに相応しく堂々たる作品ながら、とはいえこれほどの大編成(読響HPに「ハイドンは、珍しく弦楽器は16型編成、管楽器は「倍管」(倍の人数)で演奏」とありました)でやるんだぁと。そのこと自体はあたかも往年の名指揮者たちが繰り広げた大時代の演奏かくやと思わせる楽しみがありましたですが、第2楽章の冒頭主題が繰り返される際に、弦の第一プルトだけが奏でる静謐さには、反ってハイドンの時代に思いを馳せたりもしたものです。
とまあ組み合わせのほどはともかくも、このほどもまた大編成のオーケストラを堪能できたわけですけれど、振り返ってここで注目するのはむしろ前座の役割を担ったグラズノフなのですなあ。この曲はたぶん初めて耳にしたのでは?と思いますが、グラズノフってメロディーメーカーだったのだあねということなのですな。ですので、ここ数日は(図書館でCDを借りて来たりもしつつ)グラズノフの曲をあれこれ聴いておったような次第でして。
1856年生まれのアレクサンドル・グラズノフは、ロシア五人組(リムスキー=コルサコフを除いて皆1830年代生まれ)の次世代にあたりまして、ストラヴィンスキーやショスタコーヴィチが出てくる間をつなぐ作曲家となりましょうけれど、作風のほどは(先の演奏会で聴いた演奏会用ワルツ第1番でも想像がつくように)どうやら前の世代に倣うところ大だったのか、至ってロマンティックな方向にありまして、世紀末を跨いだ活動の中でも前衛に近寄ることはなかったようでありますなあ。
まずもって、グラズノフ作品で最も知られていると思しきバレエ音楽『四季』を聴きましたけれど、時折ロシア五人組的な野暮ったい(失礼!)ロシア風のブンガチャッカと鳴らすところ(指揮者スヴェトラーノフの面目躍如かと)はありますが、それでもバレエ音楽としてはチャイコフスキーのロマンティックを継いでもいるような。バレエ界としても、バレエ・リュスが出てくる以前でしたので、この曲もマリウス・プティパの依頼に基づくとなれば、そりゃ、ストラヴィンスキーの書いたバレエ音楽と異なるのは宜なるかなと。ダンサーの動きが想像できるような曲が次々と出てきますですよ。
それにしても、タイトルどおりに四季を描くわけですが、冬から始まるというのはロシアの感覚なのでありましょうか。演奏時間的にも長い冬の後に短い春が来て、夏はあこがれ、秋は収穫とそれぞれにたっぷり演奏されるという配分なのですなあ。
ですが、こうしたとっつきやすい曲調はバレエ音楽なればこそかとも思い、お次には標題要素無しの交響曲を聴いてみることに。ちなみにグラズノフの交響曲は8曲が完成作として残り、9曲目はスケッチだけの未完成に終わった…とは、第九の呪縛はグラズノフにも当てはまったようでして。ともあれ、取り出したのはムラヴィンスキーがレニングラード・フィル(当時)を振った1968年ライブの第5番でありました。
冒頭部分では何となくプロコフィエフを思い出しもした(といっても、グラズノフのが先)ですが、それは束の間であって、やっぱりロマン派の範疇と思しき聴きやすさ。むしろボロディンのシンフォニーを引き合いに出した方が良いですかね。で、さらに標題性の無いところではオイストラフの独奏によるヴァイオリン協奏曲を。これもまた、思いのほかめっけもの感のある曲でしたな。
とまあ、こんなふうにいくつかの作品を改めて聴いてきますと、先の演奏会で「グラズノフはメロディーメーカー」と思ったことは決して外れておらなんだと改めて。ロシア国民楽派と言われた五人組の衣鉢を継いでいるだけに、民謡などをモティーフにして(ま、チャイコフスキーもやってますが)些か土俗的な雰囲気が漂うところもありますですが、作品として一大名曲ではないにもせよ、グラズノフ作品はもっともっと演奏機会があっていいのになあと思ったものでありますよ。
そう考えると先の演奏会プログラムの意図は、もっと演奏されていい作曲家、作品の掘り起こしでもあったのかなと、そんなふうに。取り敢えず、長いものはともかく、演奏会用ワルツ第1番はYoutubeあたりでお試しになってはいかがかと言って差支えないところでもありましょうかね。