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「セリフを演じるな。

それはもう、台本に書いてあるのだから」

 

一昨年。

ロシアから、スタニスラフスキー・システムの演技講師セルゲイ・チェルカッスキー氏を日本に招聘してワークショップが開催され。

僕は、その運営チームに参加していました。

 

その時、チェルカッスキー氏が言っていたのが、この印象的な言葉です。

 

 

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これは、演技をする上であまりにも大事なことです。

 

 

でもこの言葉って、一度聞いただけでは「?」となってしまいますよね……。

だって、台本に書いてあるのだから、そのセリフを演じるのは当然のこと。

なぜ「セリフを演じてはいけない」なんてことを言うのでしょう??

 

今回は、この非常に大切なことを、具体例を挙げてお話ししてみようと思います。

 

 

 

 役が本当にやりたいことは、何か?

 

たとえば台本に、「座る」というト書きが書いてあるとします。

そしたら、俳優の皆さんは、「座る」という演技をするでしょう。

 

 

では、質問です。

果たして、この役は「座る」ということが主たる目的なのでしょうか?

 

 

え……??

だって、「座る」って書いてあるわけだから、座るのが目的でしょう??

それを、役は実行したわけでしょう??

 

 

 

……ではここで、役が置かれた状況を見てみましょう。

そこから「なぜ座るのか?」という行動について、もう一度考えてみたいと思います。

 

 

たとえば、あなたが道を歩いている時。

小さな子供が一人で泣いているのを見つけました。

 

どうやら、親とはぐれてしまった様子。

その子供を見たあなたは、「どうしたの〜?」と声をかけに行きました。

 

 

その時、皆さんは子供の前に「座り」ますね?

 

 

さて。

この時の「座る」ということの意図、本当の目的は何でしょう?

 

 

……それは、「安心させるために、子供の目線まで下りる」こと。

つまり「安心させる」ことが、「座る」という行動の意図、本当の目的になります。

 

 

 

 

別の状況も考えてみましょう。

 

ここは、とあるバー。

店内はとっても賑わっています。

 

なぜなら、お店の中のスクリーンで、サッカーのワールドカップの生中継を映していて。

バーの客たちは、そのゲームに熱狂しています。

 

あなたは、そのスクリーンの目の前、最前列の席に座り。

他の客と一緒に、ゲームに夢中になっています。

 

一進一退の攻防の末、ついに選手がゴールを決めました!!

 

「やったぁ!!」と、あなたは思わず立ち上がって歓声を上げます。

 

その時。

後ろの方の席から「おぃ、見えねぇよ!!」と怒号が……!!

 

立ち上がった最前列のあなたは、他の客がスクリーンを見る邪魔になってしまっていたんですね。

 

 

他の席の客に怒られて、邪魔にならないように再び座ります。

 

 

この場合も、結果的には「座る」という行動を取っていますが、その意図、本当の目的は「(邪魔にならないように)視線を避ける」ということになりますね。

 

 

 

 

このように。

同じ「座る」でも、その意図、本当の目的が異なります。

 

「座る」というのは、あくまでも表面上の行動であり。

そこには、「座る」という行動を使って「役が本当にやりたいこと」があるのです。

 

こうした意図や、より内面的な目的、役が本当にやりたいことを、「課題」と言ったりします。

役は、ある達成すべき「課題」を持っていて、そのために行動すると考えるんですね。

 

上の例の場合では、一つ目は「子供を安心させる」という課題を達成するために「姿勢を低くする=座る」。

二つ目は「他の客の視線を避ける」という課題を達成するために「座る」。

 

 

そして、この ”課題” こそが、演技にとって本当に必要なことになります。

その行動の本質は、この ”課題” の中にあり(安心させる、避けるなど)、「座る」というのはむしろ結果論でしかないのです。

 

 

チェルカッスキー氏が言った、「セリフを演じるな。台本に書いてあるから」という言葉。

この真意が、まさにこの部分になります。

 

台本に書かれているセリフやト書きは、「書かれていること」ですから、もちろん俳優はそれらを実行します。

しかし、ただそれを演じるだけ……ただ「座る」だけでは意味がないのです。

 

「座る」という行動の課題は、なんなのか?

それが、本当に重要なことなのです。

 

 

 

 

 台本に書けること、書けないこと

 

台本というのは、こうした本当の意図、課題を書いてくれていなかったりします。

ココが、小説と台本の大きな違いになるんです。

 

 

台本の場合。

 

 

夕暮れ時の公園。

子供が泣いている。

花子、子供に近づき、向かい合って座る。

 

花子「どうしたの〜?」

子供「ママがいなくなっちゃったの」

 

 

 

このような形式で書いてありますよね。

 

 

一方、小説になると……

 

 

……花子は、泣いている子供を安心させようと思い、その場に腰を下ろしてその子の顔を覗き込んだ。

「どうしたの〜?」

不安そうな子供に、花子は、ありったけの優しい声で語りかけた。

するとその子は、突然話しかけられたことに戸惑いながらも、胸に湧き上がる不安を必死で抑えながら花子に訴えかけるのだった。

「ママがいなくなっちゃったの」……

 

 

……みたいな感じで書いてありますよね。

このように小説では、そのキャラクターの意図や内面、課題を書くことができます。

 

 

しかし、台本の場合は。

基本的には「目に見えること・耳で聞こえること」しか書いてはいけません。

つまり、キャラクターの演技に関して言えば、役の身体的行動や口から発せられるセリフは書くことができますが、意図や内面、課題を書くことはできないのです。


台本をもう一度、見てみましょう。



夕暮れ時の公園。

子供が泣いている。

花子、子供に近づき、向かい合って座る。

 

花子「どうしたの〜?」

子供「ママがいなくなっちゃったの」


 

……ご覧の通り。

小説では「泣いている子供を安心させようと思い」と書かれているところが、台本では「向かい合って座る」としか書かれていないんですね。


俳優はこの記述から、「子供を安心させる」という役の意図を見つけなくてはいけないのです。


 

このように。

俳優は、台本に書かれた「見えること・聞こえること」から、その役の意図・課題を推測する必要があります。

それが読解や役作りというプロセスになりますね。

 

ここを理解していないと、結局「台本に書かれたことだけ」を演じてしまうことになるのです。

 

 

 

 

 行動やセリフの「中身」を見つけるトレーニング

 

こうしたことを鍛えるトレーニング法として、役の行動やセリフの意図・課題をいろいろ考えてみるのも良いでしょう。

 

 

たとえば「座る」「立つ」といった身体行動。

 

 

なぜ「座る」のですか?

なんのために「立つ」のでしょう?

 

 

ためしに、たくさん書き出してみてください。

 

 

たくさん歩いて、足が痛くて座る?

隣室から聞こえる声に、じっと耳を傾けるために座る?

近くで銃声がして、危険を感じたから座る?

 

遠くで自分を呼ぶ声がしたから、確認するために立つ?

待っていたバスが到着したから立つ?

座っているベンチに虫が這い上がってきて、びっくりして立つ?

 

 

……このように、意図や課題を考えようとすると。

「座る」「立つ」ということの背景となっている状況が必要になってきますね。

 

状況次第で、「座る、立つ」という意味、意図、課題が変わってきて。

その結果、「座る、立つ」という演技自体が変化します。

 

 

だからこそ、台本に書かれた状況をきちんと手に入れていないといけません。

 

 

まずは状況を正しく見極め、その時の行動(座る・立つなど)に対し、意図・課題を設定する。

そして、その意図・課題を実行するのです。

 

ひとつの練習方法として。

迷子の子供に声をかける演技の際に、「私は相手を安心させる」と言ってから座ってみてください。

こうして意図・課題をはっきりさせることで、「安心させるために座る」という演技がくっきりとクリアに感じられるはずです。

 

「私は、立つ」ではなく。

「私は、バスに乗る」と言って、立ち上がる。

「私は、虫から逃げる」と言って、立ち上がる。

 

台本に書かれた「座る・立つ」という行動ではなく、意図・課題側を口に出してから、その行動を実行するのです。

 

 

もちろん、これはセリフにも応用できます。

 

たとえば「こんにちは」というセリフでも。

 

「私は、相手を安心させる」と言ってからセリフを言う。

「私は、相手を脅迫する」と言ってからセリフを言う。

「私は、相手を元気づける」と言ってからセリフを言う。

 

このように、意図・課題をはっきりさせてから演じると、そのセリフのニュアンスも具体的に変化するはずです。

 

 

ちなみに、上の例を見てみるとわかる通り、セリフは「相手を〜させる」という意識を持つと、相手に影響を与える、いわゆる「相手に届くセリフ」になります。

 

「こんな風に言おう」と、自分の中でセリフの音や言い方を考えるのではなく、「相手をどうさせよう」という、相手にかかる能動的な動詞で考えると上手くいきます。

 

 

これは、声優の方にも非常に役立つことです。

 

声優の場合、自分のキャラクター(性格や年齢など)を意識して喋ることが多いかもしれませんが、それだと「こんな風に言おう」ということばかりに注意が向いて、相手に向かうセリフではなくなってしまいます。

そうすると、聞いていても非常に不自然な、いわゆる「ひと昔前の ”声優っぽい” セリフ」に聞こえてしまうんですよね。

 

相手に対しての「意図」「課題」を明確にする。

そうすると、セリフが自然で生き生きしてきますよ。

 

 

ぜひ、参考にしてみてください😊

 

 

 

 

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