久しぶりに、YouTubeの演技解説動画を作りました!!
動画でお伝えしていることは演技の「基礎」的な部分ですが、演技に関わる多くの方たちにこの内容が届き、少しでも参考になれば幸いです。
まずは、今回YouTubeにアップした動画。
ちょうど2分に短くまとめてありますので、サクッとご覧いただけます。
俳優は観客を意識すべき?【前編】
この動画では主に、俳優の身体の向きを「意識の向き」や「俳優と観客との関係」から解説しています。
俳優は、観客に直接的な関わりを持つことができない。
俳優が意識すべきは「観客」ではなく、「相手役」だけ。
しかし、相手役との密に繋がれば、観客側から俳優に関わりを持ってくれる。
結果的に、俳優は間接的に観客との関係を結ぶことができる。
そんな内容をお伝えしています。
さて。
今回の記事では、この話を「俳優」の視点からもう少し掘り下げてみようと思います。
観客と相手役からの、見え方の違い
たとえば、2人の会話のシーン。
お客さんに顔を見せようとして、俳優が「客席の方に向く」ということがあります。
「お尻を向けない」とか、「客席に身体を開く」というのも同じですね。
ちなみに。
「客席に身体を開く」というのは、顔は相手を見て会話しているけれど、身体を客席の方へ向けている(開いている)状態のことです。
ちょうど、こんな感じ👇
これ。
見ている分には、身体がこちらに向いているので、開放感があって見やすいですよね。
2人の顔の表情もよく見えます。
でも。
俳優の目線で相手を見てみると、事態はちょっと変わってきます。
どんな風に相手が見えているかっていうと……👇
こういう状態。
相手が自分に「正対(せいたい)」しておらず、身体がナナメに向いていますね。
つまり。
2人の関係が「ナナメ同士」として繋がれている状態なんです。
もちろん、この「ナナメ」の会話も世の中にはたくさんあります。
でも、たとえば2人の関係が濃密なものであったら?
ケンカをしたり、愛の告白をする時、相手がこちらに「ナナメ」に向いていたら?
どこか、相手のエネルギーを回避しているようで、全力でぶつかり合えない気がするんですね。
この向きでは、どうでしょう?👆
客席からお互いの表情は見えづらく、閉鎖的ではありますが。
同時に、2人の関係はとても濃密で、互いの真摯な気持ちが伝わってきますね。
これ、俳優同士ではどう見えているかというと……👇
うん。
真正面からこちらに向かってきてくれていますね。
とても真摯なイメージで、相手のエネルギーが100%こちらに届いています。
自然とこちらの心も相手に向かっていきますし、こちらに相手を受け入れるだけの決意がなければ、ちょっと身体を逸らしたくなるくらいに感じるかもしれません。
重要なのは「相手役」との関係
今回アップしたYouTubeの動画では、この「俳優同士のエネルギー交換の関係」についてお話ししています。
現代のリアリズム演技において、俳優がエネルギーを交換・交流すべきは、観客ではなく「相手役」なんですね。
たとえ、客席から俳優の表情が見えやすくても、身体が客席に開いていたら、それは同時に俳優同士が「真正面から向き合えていない」という「ナナメ同士」の関係になってしまっています。
俳優がやるべきは、観客と関わりを持つことではなく、100%で「相手役」との関わりに注意を向けることが重要です。
ここであらためて、2人が向き合っている写真を見比べてみましょう。
……いかがでしょうか?
人物の表情こそは、1枚目の方が見えやすいです。
でも、どこか2人がよそよそしくて、お互いに心を開いていないように見えますよね。
一方。
2人の関係が濃密に感じるのは、やっぱり2枚目ではないでしょうか。
俳優にとって大切な順序は、「客席からどう見えるか?」という "観客との関係" ではなく、「相手とどう関わり合っているか?」の "相手役との関係"。
そして、それがきちんと結ばれていれば、2人の関係はちゃんと観客にも伝わるものなのです。
「胸」が大きく関係している
さて。
ちょっとここで、もう一度、1人で写っている写真をご覧いただきましょう。
1枚目は、こちらにエネルギーが100%向かっています。
心を開いてくれているような、とても真摯な気持ちが伝わってきます。
もしこれがケンカの場合、相手が「100%でぶつかってきている」ように感じ、威圧感を抱くかもしれませんね。
いずれにしても、相手が100%でこちらに向かってきているのがよく分かります。
2枚目は、これはこれでカッコいいですが。
でも、どこかスカしているというか、ちょっと自分を「隠している」ようにも感じますね。
あるいは、こちらが向かっていっているのに、相手が「逃げている」、相手に「かわされている」ような印象も受けます。
こうした、相手とのエネルギーの対峙。
実は、「胸の向き」が大きく関与しています。
胸は、人間の身体のなかで最も面積が広い部分です(同時に、背中もそうですね)。
それがこちらに真正面から向かってきているか、ナナメに逸れているかで、エネルギー交換率は大きく変わってくるわけです。
愛の告白なら、胸同士を相手に向けて真摯に向き合う。
ガチンコのケンカなら、胸同士で威圧し合う。
どちらかが「ナナメ」になると、そのやり取りの本気度は変わってきますよね。
あるいは、謝罪の時もそう。
ちゃんと謝る気持ちがあるのなら、きちんと相手に向かって謝ること。
もしナナメに謝っていたら、「こいつ、悪いと思ってないな…」と相手は受け取ってしまうでしょう?
それから、自分に自信がない時や、話を聞きたくない時なども、相手に「ナナメ」で接したくなるものです。
相手のエネルギーを、胸で100%受け止めるだけの自信や思いがないために、それを受け流そうとして自然と「ナナメ」の姿勢を取ろうとしてしまうのです。
これ、同じようなこととして、「腕組み」があります。
演技の中で「腕を組まないで」と言われたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
これも、ちょっと写真で見比べて見てみましょう。
……いかがでしょうか?
腕組みをしている人と、していない人。
どことなく、こちらが受ける印象が違いませんか?
1枚目の「腕組みをしていない人」は、ありのままオープンにこちらに身体を開いてくれている感じ。
一方、2枚目の「腕組みをしている人」は、きちんとこちらに向いてくれていますし、表情こそ笑顔ですが、どことなくエネルギーが100%こちらに向かっていない気がします。
演技において、腕組みは「プロテクト」と言って、自分自身を「守る・防御する」効果を生み出します。
2枚目の方の印象は、相手から「自分を守っている」ようにも見えませんか?
腕を組むことで、胸の前が遮蔽されます。
その結果、相手との密なコミュニケーションを断ち切り、自分自身を守ったり、ホンネが伝わることを防ぐのです。
相手のことをあまり信用していなかったり、自分を守りたいと思う関係だったり。
あるいは、ホンネを探られたくない話題の時、人は自然と腕組みをしたりします。
こうした理由から、相手との親密なコミュニケーションが必要な演技の際に「腕組みをやめて」という指示が出たりするわけですね。
あとは、俳優自身が緊張してしまっている場合に、その緊張を隠すために腕組みをするときもあります。
緊張していると、腕を自然にさせておくことが難しくなりますよね。
こうした理由で、気付かぬうちに腕を組んで演技をしようとしてしまうケースがあるので、気をつけましょう。
身体の向きには、役としての「理由」がある
親密な関係でも、お互いに胸を向けて正対していない時もあります。
それは、周囲の環境や状況がそうさせているんですね。
たとえば、公園のベンチで話している時。
ベンチに座っているという状況下では、相手と肩を並べて話しているのが自然な状態です👇
それでも、大事なことを伝えたり、ケンカをするなど、相手との濃密なエネルギー交換が必要になると、座りながらでも相手の方に身体(胸)を向けることはありますね👇
こうしたことは、食卓やレストランのようなシーンでも同じですね。
その環境に適した姿勢で、相手との交流が行われます。
環境や状況に応じて、姿勢が制約を受けているわけです。
それからもう一つは、相手役のほかに、別の「対象」がある場合。👇
お互いでひとつのメモを見たり、遠くの景色に注意を向けたり。
2人のシーンでも、こうしてもう一つ「対象」を追加することで、客席に表情を見せることができるようになったりもします。
当然、対象が増えたことによって相手との関係は薄れます。
が、ここで注目していただきたいのは、相手と正対するにせよ、身体の向きを逸らすにせよ、役としての生理的な「理由(動機)」がある、ということです。
役は必ず、劇空間の中の「対象」に注意を傾けています。
ここでも決してあってはならないのは「観客を意識して、身体を開く」ということです。
「役の人生に、観客は存在していない」というのが、現代のリアリズム演技の考え方ですから、観客のためだけに身体の向きを変えるのはNGなんですね。
常に俳優は、劇空間の中にだけ生き続ける。
これが何よりも大切なことなのです。
ちなみに、これについてはリアリズム演劇における「第四の壁」という概念に基づいており、過去記事でもお伝えしています👇
俳優は観客を意識すべき?【後編】
もう一本、今回ご紹介したYouTube動画の【後編】として、こんな内容もアップしています。
役を演じるとは、劇空間の中に存在する対象にだけ注意を向けること。
それは分かっていても、やっぱり「観客への意識」が入ってしまったり、相手に100%向かえずに客席に向かって身体を開いてしまう。
どうしても「見せる演技」になってしまうということ、よくありますね。
それに実際、演出家や講師から「もっと観客を意識して」とか「顔が見えない」という指示が出るケースもあります。
その結果、演じる時にどうしても観客を意識するクセがついてしまっている……。
なぜ、そうしたことが起こってしまうのでしょう??
この問題が起こる原因について、今回ご紹介した動画の【後編】で、僕なりの考察をしています。
ぜひ、こちらもご覧になってみてくださいね!!👇
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