今日は、とても大切なことをお伝えします。

長い記事ですが、ぜひ読んでみてください。

 

 

……僕はこれまで、コーチの仕事で本当に多くの方々からの相談を受け。

自分自身も、俳優活動の中で悩みながら進んできました。

 

もちろん、その悩みや相談の理由は多岐にわたるものではありますが。

同時に、ほとんどのことが、ある一つの「演劇に対しての思い違い」に根ざしていると感じています。

 

もしかすると。

この「思い違い」さえ理解できれば、俳優たちが抱えている多くの悩みを解く糸口になるかもしれません。

 

 

そして、その「思い違い」には、あることが起因していると感じています。

原因さえわかれば、必ず、解決の方法は見えてくるはずです。

 

 

 

まずは、イギリスの演出家ピーター・ブルックの、この言葉をご紹介します。

「演劇とは何か?」ということを、非常に端的に言い当てています。

 

 

 

日常生活においては「もしも」は虚構だ。

 演劇においては「もしも」は実験だ。

 

 日常生活においては「もしも」は逃避だ。

 演劇においては「もしも」は真実だ。

 

 

 

▲「Play is play.(演劇は遊びだ)」という有名な言葉を語ったのが、このピーター・ブルックさんです。

 

 

「もしも」という言葉は、日常生活においては、実際にはそこに存在していない現実を指すときに使います。

つまり「虚構」です。

 

日常生活での「もしも」は、嫌な現実から目を逸らすための「現実逃避」として使われたりもします。

 

その「もしも」の世界。

現実には存在しない虚構の世界を、演劇では創り上げていきますね。

演劇において、「もしも」は、舞台上やスクリーンの中、そして観客の心に「真実」を創り出す魔法の言葉です。

 

 

ここまでは、イメージしやすいと思います。

 

 

が、重要なのは。

演劇とは、「もしも」の先に何が起こるのかを知るための「実験」でもある、ということ。

 

今回、僕はどうしても、これを皆さんにお伝えしたいと思っています。

 

 

 

 

俳優は、「もしも」という虚構を真実へと変え、その先に待っている世界を、自らの心と身体を使って探究します。

 

その探究の結果は、予想通りのものになるかもしれないし、予想外のことが起こるかもしれない。

思いもよらなかった気持ちが押し寄せてくるかもしれない。

そうしたことを、俳優は、自分自身の身をもって実験する。

 

 

そして観客は、その「もしも」の先にある結論を待ちわびてワクワクし。

劇場に足を運んで、実験の検証結果を見届ける。

観客にとっても、演劇は「実験」なのです。


さらに、作り手側は、観客がどんな反応をするかを「実験」で検証しているとも言えますね。

 

演劇は、その創作活動から上演まで、すべてが一連の「実験」で成り立っているのです。

 

 

▲稽古場も、劇場も、その正体は「実験室」。

 

 

ところが。

演劇学校で、「先生にダメ出しをされないために頑張る」という生徒も。

生徒がうまくできなかったからといって叱りつける先生も。

そのどちらも、演劇が「実験」だということを、すっかり忘れてしまっています。

 

「実験」というのは、試験ではありません。

 

実験とは、正解が分からないから行うものです。

正解が分かっているのなら、はなから、実験などする必要はない。

 

はじめから正解がわかっていて、その答えを正しく出せなかった生徒を叱るものでも。

あらかじめわかっている正解を出せるかということにビクビクしたり、正解を出せなかったからと言ってひどく落ち込むためのものでもありません。

 

 

▲稽古場や教室は、「正解が出せなかったらどうしよう」と萎縮する場所ではありません。

のびのびと実験に夢中になる場所です。

 

 

これは、学校だけの話ではありません。

プロの世界だって、演劇は「実験」だということを忘れてしまっているケースは本当に多いです。

 

演劇の本来の目的は、必死にチケットを売ることでも、ファンを増やすことでもありません。

仕事が続く、続かないで一喜一憂するのでもありません。

 

有名人や人気者になることが、演劇そのものの目的でもありません。

プロデューサーの顔色を伺ったり、監督に気に入ってもらうのでもありません。

 

この思い違いから、俳優の活動が苦しくなってしまうということは、本当に多いです。

 

(※ただし、そこに商業的な目的が加わった時に、そうした別の課題が発生することはあります。「目的」を履き違えないでください。)

 

 

▲「興行」といった、商業的な目的があれば、もちろんそれに応じて別の「やるべき課題」が出てきます。

それと、今回の「演劇とは何か?」という問題、しっかり切り分けて考えてみてください。

 

 

今、もしあなたが演技について悩んでいるのだとしたら。

演劇は「実験」だということを考えてみてください。

 

 

あなたは、演劇を「実験」だと思えていますか?

 

 

もし、訓練段階でつまずいて、演劇が実験だなんて思えなくなっているのだとしたら。

その訓練とは、実験をするための技術力を磨いている段階に過ぎないと思ってみましょう。

 

あるいは。

今あなたがやっている訓練もまた、「自分にとって何が足りないかを知るための実験」だと思えばいい。

だから、つまずいて当然なのです。

つまずくからこそ、次に何をすれば良いのかという答えが見つかる。

そうすれば、そのつまずきは実験の「成功」となるのです。

 

 

あるいは。

もしあなたが、すでに舞台で活躍している俳優や演出家だったら。

そのカンパニーが、作品創りという「実験」を通して何を試そうとしているのかを考えてみましょう。

 

その目的を互いに共有すれば、カンパニーはしっかりとまとまっていくはずです。

稽古でやるべきことが見えてくるはずです。

 

そしてもし、興行が失敗したり、舞台の出来に満足がいかなかったとしても。

それが今回の実験結果だと考えれば、前向きな「成功」と言えるのです。

 

 

▲トライ&エラーを重ね、試行錯誤し、成長していく。それが「実験」です。

 

 

実験だと思えば。

「失敗を恐れずに」という言葉の意味が分かってきます。

 

実験は、失敗を何度も何度も繰り返しながら、ひとつの答えに向かっていくものです。

それなのに、失敗を恐れて何もできないのであれば、その実験は本当に失敗に終わります。

実験そのものを拒絶してしまうことになるのですから。

 

 

 

……では、ここで考えてみましょう。

 

 

なぜ僕らはなかなか、演劇を「実験」だと思えないのか??

 

 

今回、僕がお伝えしたいのは。

よく指摘されている通り、「日本では、演劇が人々の生活に根付いていない」ということです。

 

 

もっと具体的に言えば、演劇が一般の教育にうまく導入されていないという問題です。

 

 

▲演劇が日本の教育にほとんど取り入れられていない。

その結果、演劇が日本の文化に根付かないという問題は、以前から指摘されています。

(ただし、最近はそれを試みようとする教育現場も徐々に増えてきていると聞いています)

 

 

ここで一旦、一般の教育における「演劇」について考えてみます。

 

 

演劇大国イギリスでは、日本とは異なり、一般の教育カリキュラ ムにも演劇が明確に位置付けられているそうです。

 

では、そうした「ドラマ教育」における「ドラマ」とは、いかなるものか?

 

 

ある資料をもとに、それを定義すると……

 

▶︎演劇の最終的な上演ではなく、その創作過程に重きを置いていること

▶︎ある目的に向かって、指導者が導いていく学習であること

▶︎児童生徒が参加することにより、あるテーマへの理解をより深める活動であること

 

だと言われています。

 

 

そして、そこから引き出される結果は、

 

▶︎ドラマは人間行動と人間関係にかかわるので、グループの社会性を高める。

▶︎ドラマは個人のことばを発達させる。なぜならばドラマは本当に話したいという必要性を生み出し、言葉を使う状況を提供するからである。

▶︎ドラマは子どもにコンセプトをとらえさせ、問題に直面し、それらを解決する。

▶︎子ども自身の経験をドラマにしていくので、彼らが考えていることから、すでに知っていることを見つけ出す。

▶︎ドラマを通して、特定の科目領域を探求したり、解明したりすることができる。

 

ということが考えられます。

 

 

「ドラマ教育」を受けている国や人々にとって、演劇とは、そうした意味を持つものになっている。

こうした「演劇とは何か?」という考え方を学んでいるか否かは、その後の演劇教育やプロとして活動する上での信念そのものに影響を与えているはずです。

 

 

……これは確かに、一般教育の中での話ではあります。

「たかが、学校の教育だ。そんなことは関係ないのでは?」と思うかもしれません。

 

しかし、学校で学んだことというのは、とても影響力があるものです。

 

例えば、皆さんは。

大人になって音楽の活動なんてまったくしていない人でも、「♩」や「♪」の名前を知っていますよね。

「ト音記号」を知っていますよね。

楽譜に引いてある線の本数が何本か、知っていますよね。

 

ベートーベンやバッハといったら、多くの方がその顔を知っていますよね。

 

なぜなら、我が国には「音楽」の授業があり、初等教育でそれを学んでいるからです。

これだけ、学校教育の影響とは絶大なものだと言えるでしょう。

 

 

▲音楽の授業で学んだことは、音楽家を目指す人でなくても覚えています。

もともと興味がある、ないに関わらず、初等教育で受けた内容は、その人の中に深く沈着しているものなのです。

 

 

ここで、日本の教育現場を考えてみましょう。

 

日本の教育でも、演劇は全く取り入れられていないわけではないです。

「ドラマ」の授業はなくても、学芸会や観劇会は経験したことがあるでしょう。

 

 

では……

学芸会でどれだけの人が、海外の「ドラマ教育」のように、自分自身の言葉を大切にしたり、ロールプレイのような即興劇を試したりしましたか?

学芸会の台本や、観劇会で見た舞台で語られているテーマについて、探究したり、解明したりしましたか?

 

どれだけの人が、そうした「実験」を楽しみましたか?

 

 

学芸会では、どんなことを稽古しましたか?

先生にダメ出しされないように、友達よりも上手に演じられるように、家で何度も何度もセリフをガチガチに練習していませんでしたか?

稽古の時には、それをいかに上手に再現することばかり考えていなかったでしょうか?

 

 

……こうやって思い出してみると。

「失敗が怖い」という大人になってからの演劇の考え方は、学芸会の時、つまり初等教育の段階ですでに僕ら日本人に刷り込まれていたように感じます。

 

 

あるいは、中学校での英語の時間。

演劇要素があるロールプレイでの英会話よりも文法ばかりを学んでいました。

 

道徳の時間でも、ほとんど、ロールプレイで何かを実験したりしなかった。

 

 

僕ら日本人が、「実験」という意味での演劇にどれだけ触れてこなかったかが、よく分かります。

むしろ、演劇は「間違えてはいけないもの」「上手にやるもの」という意味ばかりを教育されてしまっているように感じます。

 

 

▲学芸会って、間違えないように、上手にやれるように、練習する……。

演劇とは本来、そんなふうに心を「正解」という檻の中に閉じ込めてしまうものではありません。

 

 

俳優たちが、稽古場で「失敗」を恐れ。

それが何らかの「実験」であると思えない。
 

ただただ、間違えないよう、上手にできるよう一生懸命に練習して、それを稽古場や本番で再現する。

そんなことばかり考えているうちに、演劇を楽しむことも、何らかのテーマに向かって、みんなで勇気を持って立ち向かうことも、怖くなってしまう。

 

あるいは、日本の俳優がおしなべて即興が苦手なのも、こうした教育からの影響かもしれないと感じます。

 

 

 

演劇は、実験です。

カンパニーとは、研究室で一つの実験をする仲間たちです。

 

隣の人よりも演技が上手い、下手なんていうことを競う場ではありません。

 

 

ただし。

俳優は、自分自身の心と身体を実験に使います。

言ってみれば、自分自身が実験の試薬となるのです。

 

 

その時。

試薬が濁っていたら、実験結果は正確に導き出せません。

試薬をピュアにするために、俳優は訓練を積むのです。

 

 

演技が上手くいかないからといって、他人と比較したり、自己否定感に打ちひしがれるのは、まったく的外れなことなのです。

 

 

▲演劇においては『もしも』は、実験だ。

演劇は、遊びであり、実験です。

それを忘れないでください。

俳優訓練は、その遊び、実験を、もっと楽しむためのものです。

楽しくなければ、一度立ち止まって、考えてみてください。

 

 

12/19(月) 20時より、3ヶ月ワークショップ・レギュラークラスの受講お申込み開始です。

「演劇とは何か?」を、学びにいらしてください!!

 

詳細・お申込みはこちら👇

 

 

<オススメ記事>

右 台本読解が苦手な理由…役の想像、解釈はNG!? 重要なのは「事実確認」です!!

右 役になりきる必要なんて、ない!?…演技における「リアリティー」の捉え方について。

右 「役になりきる」のは精神的に危険か? 実例から「演技」と「憑依」の境界線について考えてみよう。

右 台本読解の極意! 広がった風呂敷を畳み、たった1つの「貫通行動」をキャッチせよ!!

右 演技は、シューティング・ゲームだ!! 台本読解して役をシンプルにすればこそ、夢中で敵と戦える。

 

 演技ワークショップ “EQ-LAB”

地球 開催予定/開催中のクラス

<基礎講座>

鉛筆 随時受付中!


スマホ LINE公式アカウント

演技のお役立ち情報、ワークショップのお知らせを直接お届け!!

 

 YouTube

▼演技講座を配信中【演技向上チャンネル】

 

▼人気ミュージカル作品を徹底解説【ミュージカル探偵社】