本日。
「台本読解塾 vol.2」を開催いたしました。
ご参加くださった皆様、ありがとうございました!!
前回の「台本読解塾」や、前々回の「声優のための台本読解講座」は、いわゆる「読解」という段階の中で話を進めさせていただいていましたが……。
今回の「vol.2」では、読解を元にした演技の構築や、作品の考察・分析といった、より深く、上級レベルの話題をテーマに、展開してみました。
その中で、1作品目に取り上げたのが、シェイクスピア作『マクベス』のワンシーン。
ダンカン王を殺すか否かを逡巡するマクベスに対し、夫人が発破をかけ、彼に王殺しを決断させるという、物語前半の有名な場面。
これ、一見すると、古典劇独特の難解な文章に見えるのですが。
きちんと読解の方法を用いて整理をしていくと、実は、描かれていること自体は、ものすごく単純。
「この計画(王殺し)、やめよう」というマクベスと、
「ダメよ、ダメダメ!! やると言ったからには、やるの!!」と詰め寄る夫人。
……という構図が、数ページに渡って延々書かれているだけなんです。
(そのあたり、古典劇はすっごく会話構造がシンプルなんです。前回の台本読解塾では『ロミオとジュリエット』を使って、その「古典劇の単純さ」をご説明しました👇)
▲こちらの動画でも、「古典劇は難しくない!」というお話をしていますよ!
ところが。
そうしたシンプルな場面も、よく読んで、さらに一皮剥いてみると、とてつもなく深く恐ろしい人間の心の闇が隠されている……!! という、単純な読解のその先まで踏み込んでいきました。
ヒントは、「私は赤ん坊を育てたことがあります」という、夫人のセリフ……。
ここ、『マクベス』を上演するにあたって、意外と見過ごされがちなんですけども。
よく読んでみると、唐突に、マクベスと夫人の間には「子供がいた…??」と思わせるこの記述が顔を出すんですね。
このように、台本に書かれている “状況” をしっかりとピックアップしていくことが、台本読解の基本手順。
そして、もしも「2人の間に子供がいた」としたならば、その子は、どこに行ってしまったのか……??
……物語の序盤。
ダンカン王は、忠義と武勲では誰にも負けることのないマクベスではなく。
まだまだ若くて未熟な「自分の息子」に王位を継がせる決断をする、という場面が描かれています。
すなわち。
ダンカン王によるスコットランドの政権は、「武勲や忠誠心よりも、血縁関係の濃さを尊ぶ」ということが、この作品の最初に描かれており。
それを知ったマクベスは、王殺しを決意した、とも読み取れる物語展開になっているんですね。
そうしたことを考察しながら、さらに “中世” という時代設定も踏まえて、台本をじっくり読み解いていくと……
「血縁」が何よりも重んじられていたダンカン王政権下。
マクベス夫妻に求められていたのは、後継となる「直系の息子」の存在であったのではなかろうか?? という憶測が立ってきます。
直系の男子をもうけることがステイタスであり、義務であり。
それが叶わない場合、彼らの社会的な立場は、周囲の目線は……
そんな時代において。
劇中、彼ら2人の間には、「今は」子供はいない。
しかし、過去には……??
このように分析を進め、想像を巡らせた後。
受講生の皆さんに、僕は、こんな質問を投げかけてみました。
「マクベス夫妻の間に『かつて、いたであろう』子供の『性別』は、男女どちらだったと思いますか??」
……答えは、一旦、読者のみなさまのご想像にお任せしたいのですが。
今回のクラスでは、受講生の皆さんが、全員一致で性別を断定したのでした。
その結果。
マクベス夫妻は、とんでもなく重い十字架を背負ってしまったのではないか、という考察・分析に、受講生の皆さんが向かって行ったのです。
……今回のクラスで実施した、こうした考察・分析は。
台本読解の基礎的なレベルから、さらに深く踏み込んだ内容です。
しかし、実際。
これに類似していると考えられるような事実は、今の世の中でも起こっているのです。
例えば、遺伝的、先天的な異常。
そうした理由で、この世に誕生しようとしている(あるいは、すでに誕生した)命の行く末を案じ、親によって、医師によって、決断が下される……。
そうしたことが、良いことだとか、悪いことだとか。
今ここでは、そんなことを議論する気はありません。
ただ。
人の世とは、社会とは。
その時代に「不適合」と見なされた時、辛い決断を下されることも、この世界の現実として今なお存在するのだ、ということに、目を背けてはいけないのかもしれません。
少なくとも、表現者たる、俳優は……。
『マクベス』は。
そんな、時代や社会の問題という現実が生み出した悲劇なのかもしれない……。
▲今年公開された、リドリー・スコット監督の映画「最後の決闘裁判」。
この映画でも、中世という時代背景のもと、後継ぎの問題が描かれていました。
今回、『マクベス』の台本から拾い上げたテーマも、この映画のそれと通じるものがありました。
演劇では。
人間の心の闇や、社会の問題が、物語という虚構の世界に置き換えられて語られます。
そうやって、問題提起をしたり、観客の心を癒やしたり。
そのレベルにまで表現を昇華させようとした時、台本の表面的な理解や浅い考察、カタチだけの演技では、不十分。
今回の『マクベス』のように、深い読み込みができなくては、そうした作品の本質には迫れません。
今回、「台本読解塾 vol.2」を受講してくださった皆さま。
たった1日のクラスでは、そうした作品の深淵なテーマに触れるまでの道のりが、非常に険しく感じられたかもしれません。
でも、それは当然です。
本来、こうした分析・考察は、ゆっくりゆっくり、作品と向き合いながら進めるものですからね。
ただ、知っておいていただきたかったのは。
作品には、これだけの深みがあり、メッセージがあるのだ、ということ。
そこに到達するためには、行き当たりばったりのやり方ではなく、きちんと体系立った演技法や読解術が必要だということ。
今回は、そうしたことも知っていただきたく。
やや難易度の高い道のりではありましたが、深く上級なレベルにまで話を進めてみました。
また来年も、引き続き。
台本読解塾は開催していきたいと思っています!!
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