これは、ある映画のラストシーン。
A「どうするの?」
B「降参なんか……」
A「……あんたも捕まりたくないでしょ?」
B「だから?」
A「このまま行って。」
B「このまま?」
A「行って!」
B「本気なの?」
A「出して。」
……文字だけを見ると、なんのこっちゃさっぱり分かりません。
じゃ、状況を少し明らかにしてみましょう。
AとBは、車の中。
殺人容疑がかけられた二人の車を、遠くから警察が狙っています。
……ちょっとだけ、様子が掴めてきましたね。
では、さらに状況を明らかにしてみましょう。
二人の車は、今、グランドキャニオンの崖っぷちに向かって停車しています。
背後は警察に取り囲まれ、おかしな動きをしたら射殺しようとライフルで狙っています。
二人の、女。
名前は、テルマとルイーズ。
テルマ(ジーナ・デイヴィス)とルイーズ(スーザン・サランドン)は。
男に束縛されっぱなし、働きっぱなしで退屈続きの日常から逃れて、一時の開放感を味わうために、女二人でドライブの旅に出ました。
しかし。
旅の途中で立ち寄ったバーで、男に強姦されそうになるテルマ。
それを見つけたルイーズは、護身用に携行してきたピストルを男に向け……そして、思わず引き金を引いて射殺してしまう。
その瞬間、二人の楽しい思い出になるはずだった旅行は、一転して逃避行と化してしまうのです。
その上。
逃避行の最中に出会った若い男に良いように弄ばれ、所持金まで奪われる……。
映画「テルマ&ルイーズ」のラストシーンは、文字通り “崖っぷち” で、追い詰められた女たちに運命の選択と決断を迫ります。
▲旅の途中でテルマに近づき、遊んだ挙句に財産を持ち逃げする最低なおニイちゃんを演じていたのが、当時無名だったブラッド・ピット!!
<以降、映画のネタバレを含みます>
テルマ「このまま行って。」
ルイーズ「このまま?」
テルマ「行って!」
ルイーズ「本気なの?」
一見すると、なんの変哲もないこのセリフが。
状況を明らかにすることで、これ以上ないほどのドラマチックな会話に生まれ変わる。
テルマ「……出して。」
その一言に、運転席のルイーズは。
断崖絶壁に向かって、アクセルを力一杯踏み込むのです。
▲男に流され続け、自分の手で人生を選択してこなかったテルマ。
彼女は最後に、二人の人生を最高の形で締めくくろうと決断する。
自分の人生の選択と決断をついに手繰り寄せたテルマの姿は、本当に感動的です。
さぁ。
もう一度、先ほどのセリフを見てみましょう。
テルマ 「どうするの?」
ルイーズ「降参なんか……」
テルマ 「……あんたも捕まりたくないでしょ?」
ルイーズ「だから?」
テルマ 「このまま行って。」
ルイーズ「このまま?」
テルマ 「行って!」
ルイーズ「本気なの?」
テルマ 「出して。」
そして女たちは。
車もろとも、谷底へと羽ばたいてゆく。
これが、二人の最期の言葉。
……先ほど、このセリフを読んだ時。
こんなにもドラマチックな言葉だったと、想像できたでしょうか?
同時に。
台本の文字面だけをただ読むだけでは何にも伝わらないということが、よくお分かりいただけたと思います。
実際に「テルマ&ルイーズ」のラストシーンを見てみると。
二人の女優さんが、たったこれだけのセリフとは思えないような、感動的な演技を披露してくれています。
▲映画「テルマ&ルイーズ」のラストシーン。
俳優という仕事は。
たったこれだけの言葉に、人生の喜びや悲しみ、感動のすべてを投影させる。
それが、どれだけスゴいワザなのか……
それを実感するために。
試しに、映画やテレビドラマの「セリフの文字起こし」をやってみてください。
完成品のシーンを先に見ていると、
「あれ? もっとスゴいこと話してたように感じてたのに、文字にするとたったこれだけなのか……」
と、改めてびっくりさせられますよ!!
(これ、演技の勉強に、超オススメですよ!!)
そのワザの、スゴさ。
例えば、ダンスや歌は、その技術力の高さが客観的に見ても比較的よく分かると思います。
やっぱりちゃんと学ばないと上手くならないんだな、と実感しやすいんですね。
ところが、演技の場合。
あまりに自然だったりして、客観的に技術力の高さを感じにくいんですね。
その結果、演技をちゃんと学ばずに俳優活動に飛び込もうとする人がとてもたくさんいらっしゃるように感じています。
当たり前のことですが。
人を感動させる技術には、それ相応の訓練が必要です。
……11/20(土) に実施の「台本読解塾」の募集は、
本日、11/16(水)23時59分に一旦締め切らせていただきます。
募集は締め切りとなりました。ご応募、ありがとうございました!!
(その前に定員になりましたら、締め切らせていただきます。現在、昼・夜ともに残り1席ずつとなっております!)
演技の訓練を、楽器演奏に例えると。
俳優自身の “楽器”(反応しやすい心や身体)のトレーニングと、台本を紐解いてゆく “譜読み” のトレーニングの両方をバランスよく鍛えていく必要があります。
今回の「台本読解塾」は、“譜読み” 側のトレーニング。
使い続けていないとどうしても感覚が鈍ってしまう “楽器” 側の技術力とは違い。
台本読解という “譜読み” の技術力は、一度つかんでしまえば一生モノになります。
この機会に、ぜひトレーニングを積んでみてくださいね!!
▼受講されるみなさまに、台本読解の方法をまとめたガイドブックをお送りします!!
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台本は、部屋と同じ。整理をすれば、必要なインテリアが自然と想像できてくる!