昨年の慶應ビジネススクールでの「ファミリービジネス」講座の成果③ファミリービジネスの経営は泥臭い
私はもう20年以上も中堅ファミリービジネス10社くらいの顧問を続けているが、恐ろしいことにアメリカのビジネススクールでやったような「フレームワーク」などの「綺麗な」理論を使ったことがない。ほとんどが何の正解もないような日常の泥臭い問題の解決だ。
これも当然で、有名な「スリーサークルモデル」を考えると明白だが、一般企業は「ビジネス」と「オーナーシップ」の要素しかないが、ファミリービジネスだとこれに最大の紛争要因である「ファミリー」が加わる。ゆえに、ファミリービジネスの問題のほとんどが「ファミリー」に関わることになり、まさに泥臭い話になる。
今年の講座からは、慶應ビジネススクールに多い「ファミリービジネスの2代目、3代目」に絞って受講生募集をしたが、土曜日の講座にも関わらず20数名が集まった。実際にはそういう属性の学生はこの2倍はいるだろう。皆、家業で「泥臭い」問題をいくつも抱えている。深刻な家族もある。
その中で最大の案件は、実は「親子、兄弟、親族間の対立」だ。いわゆる一族の対立だが、この「解決」は非常に困難だ。ある意味では不可能と言ってもいい。そうはいってもやらなければ仕事ではないので、そこは工夫が要る。
私の経験では、親子間の対立や親族間の対立は「何とかなる」感じがしている。親子には親子の情があるし、親族間はそんなに関係が密ではないのでビジネスライクに解決できるという側面があるからだ。
実務的に最大のネックは「兄弟、姉妹の対立」だ。実は私もここでは成績が悪い。親子や親族の対立をほぼ解決しているとすれば、兄弟の対立はせいぜい3割くらいしか解決していない。それもとりあえず沈静化した程度だ。なぜ兄弟の対立の解決が難しいかは次回。
今年の慶應ビジネススクールの「ファミリービジネス」講座の成果②「いい人が採れない」問題
中堅ファミリービジネスにとって、問題はいろいろあるものの、最大のものは「いい人が採れない」問題だろう。これは、超有名な中堅ファミリービジネスオーナーからも聞いていて、あんな有名なところでもそうなのか、と驚いたことがある。
その原因は、まずもって待遇だろう。給与や福利厚生などは一般大企業に比べるべくもない。さらに、そのイメージの悪さもあろう。オーナー一族が利権を独り占めにして、社員は安月給というイメージだ。しかもいくら優秀な人が入ってもボンクラ息子の方が出世するというイメージもある。
これらは必ずしも正しくなく、ケースバイケースなのだが、組織というものはどこでも入るまでは分からないことが圧倒的に多いので、イメージが大きいのだ。ある中堅企業の後継者は、中小企業には入りたくて入ってくる人間はいないので、途中辞めていくのも覚悟で人材育成するしかない。むしろ、3流大学の人間を取って終身雇用で鍛える方が会社にとってメリットがある、と冷めたことを言っていた。
そういう戦略もあるだろうが、まずは企業側も正しい姿を広報する必要があろう。中堅ファミリービジネスにも、たいていは立派な創業理念や経営理念があり、それは大学生にも共感を得ることもあるだろう。そのあたりの広報が圧倒的に不十分な気がする。
もっとも、今はファミリービジネスのイメージが悪く、これを払拭するには10年単位の時間が必要だ。ではどうするか?
私はここで昔、日本マクドナルドの藤田田さんから聞いた言葉を紹介した。曰く「三流の人材に一流の仕事をやらせるのが経営者の役割」というものだ。これについては誰も反論できないだろう。しかし、藤田田さんだから言えた一言でもある。当面は企業研修やOJTなどの充実で人材を鍛え上げるしかないような気もする。一流の仕事をしてもらうために。。。
今年の慶應ビジネススクールのファミリービジネス講座の成果①後継者の修行の方法
今年の慶應ビジネススクール(KBS)での「ファミリービジネス実践論」が先週で終了した。全18回で2単位だが、受講生は「ファミリービジネスの2代目、3代目の後継者」に絞って20名強だTた。KBSにはこういう属性の人はこの2倍くらいいるし、老舗の子弟もいるので、やはりファミリービジネスの後継者の割合は他に比べかなり高い。
2代目、3代目にこだわっているには当然理由があって、この世代が日本のファミリービジネスにおいて「弱い」からだ。これは日本のみならず、世界的にも同じだ。私の知り合いのドイツ人の教授が「3代目が弱いという諺は世界の27国にある」という研究をしているが、この数はどんどん増えているそうだ。
もちろん、創業した一代目である親は、2代目、3代目となるうちに会社がおかしくなる可能性を熟知しているので、2代目、3代目をKBSのようなところに出して勉強させる。慶應でもファミリービジネスに特化した講座はこの講座しかないので、私がその人々の受け皿にならねばならない状況だ。
今年一番問題になったのは、大学を卒業した後に「大手企業で修行するか、すぐに家業に入るか」だ。結論は永遠の課題というところだが、面白いのは中国からの留学生は「そんなことは問題でもなくて、家業にすぐに入って一日も早く仕事を覚えるべきだ」という。確かにその通りだが、日本では家業をすぐに継ぐと「都落ち」のように思われる傾向がある。
やはり、日本ではまだまだ大企業に就職する人の方が、家業を継ぐ人より優秀だ、と思われる傾向がある。この背景には私が常々言っている「日本ではファミリービジネスが下に見られ、イメージも悪い」ことと無縁ではない。欧米のようにファミリービジネスが正当に評価され尊敬されていれば、日本のように余計な回り道をしなくてすむ。これにより日本の競争力も削がれる可能性があるのが問題なのだ。
もっとも、銀行などに入って一見遠回りをしても、それがゆくゆく活きてくることもあるだろう。しかし、全くの時間の無駄のケースもあろう。自分の家業で求められる能力と、銀行などの大企業で求められる能力は違うことが多いからだ。
またそういうことを考えることに2代目、3代目は相当の時間と労力をかけている。さらに、就職の内定をもらうまでに面接やその準備などで、相当な時間を取られている。この時間を家業のことに費やしていればと思うと切ない。それが日本のファミリービジネスの競争力に影響もしているだろうから、早く、正しい理解、欧米のように尊敬される存在になることが急務だろう。
ファミリービジネス後継者に対する「実学」とはー本年の慶應ビジネススクールで思考錯誤
慶應ビジネススクール(KBS)は私のゼミの指導教授であった石川忠雄元塾長が1978年につくったもの。その趣旨は福澤諭吉が言っていた「実学」を体現する場をつくることだった。しかし、「何が実学か」は全くもって難解だ。
もちろん、福澤先生の時代の実学と今の実学は全く違うことは言うまでもないが、受講生それぞれにとっての実学も千差万別だ。その最大公約数的なところをとって授業をするしかない。
今年はファミリービジネスの後継者2代目、3代目に絞って受講生を募集した。多くが20代だ。日本でも海外でもファミリービジネスは初代は強いが、2代目、3代目で潰れてしまう例が多い。逆に4代目まで行くと(100年企業)なかなか潰れないというデータがある。ここまで続くといろいろなノウハウの蓄積ができるからだろう。
今年はファミリービジネスの理論的な座学はほどほどにして、私が今まで経験した中でファミリービジネスの後継者が必ず考えておかねばならないポイントを30くらいにまとめて議論してもらっている。少数の50代の方が議論をリードする形になるが、若者もいろいろと意見を言って、初の試みだが議論はできている。
この議論によってすぐに効果が出るものではないが、今の20代の若者が後を継ぐ10年後、20年後には、いま考えたことが役に立ってくるだろう。こういう「実学」もあると信じて、ここしばらくは試行錯誤を続けることになるだろう。
自民党総裁候補の半数近くがハーバード・ケネディスクールに留学―バブル期は日本人が多かった
今度の自民党総裁選は「11名」が名乗りを挙げている。その中で何と5名がハーバードケネディスクールに留学している(上川、茂木、斎藤、林、小林ー年齢順)。それぞれ、私もそうだが職場派遣の人が多いのが特徴で、斎藤健さんとは卒業同期で、林芳正さんも重なっている。
私は経団連から派遣で、1年目はエール大の経済学大学院に行き、そこは1年で修士を取り、2年目はハーバードのケネディスクールと東アジア科大学院に合格し、政治家になるつもりはなかったので、東アジア科大学院に行った。
当時はバブル期だったので、日本人が非常に多く、ビジネススクール、ロースクール、ケネディスクールにはそれぞれ1学年15名程度の日本人がいた。ロースクールには今の日銀副総裁である内田氏がいたようだが、面識はない。
ケネディスクールというのは、私のようにできない学生には救世主のようなところで(アメリカの役人が多く来ていたが、アメリカの役人は民間よりレベルが低かったため)成績が甘かった。そこで私はケネディスクールの授業を多く履修していた。結構、簡単にAが取れた記憶がある(私の慶應ビジネススクールでの「ファミリービジネス実践論」講座のようだ)。
他方、ビジネススクールの当時の花形であったマイケル・ポーター教授の授業にも出たかったので、これは「聴講生」として受講した。こういう「戦略」は実は今は経済産業大臣となっている斎藤健さんから教わった面もある。林芳正さん(現官房長官)からは「バンドを組まないか」と誘われたが、私はボーカルしかできないので断念した思い出がある。
今はハーバードにはほとんど日本人がいないようだ。理由は、昔はやっていた「職場派遣」がなくなっていることと、そもそもアメリカの大学が日本人を取らなくなっていることだ。日本の国力の低下はこういうところにも影響しており、福沢諭吉が咸臨丸でアメリカに行ったころと時代が完全に逆行しているのは、日本の行く末を考えた時に恐ろしい。
ドイツの「アディダスとプーマを生んだ町」に行き、アディ・ダスラーの孫から話を聞くー兄弟喧嘩の顛末
先月はドイツで世界の主なファミリーオフィスの代表が集まる少人数会合があったので、それに参加。その後に以前から行きたかったアディダスとプーマの本社があるバイエルンのヘルツオーゲン・アウラッハという小さな街に行った。
わずか人口1万人の街に世界的な大企業であるアディダスとプーマの本社があるのは異様だが、この両社はダスラー家の兄弟げんかから生まれたことは日本ではあまり知られていない(ちなみにドイツではほぼ全ての人が知っている有名な話)。
私は20年ほど前にアディダス(弟の会社)とプーマ(兄の会社)の話を知ったが、その後、ファミリービジネスの事業承継が起きたときに頻繁に起こる「兄弟げんか」について、なかなかうまく対処できないことが悩みだった。おそらく世界一大きな兄弟げんかであるアディダスとプーマの実例から何か参考になることはないか、興味はあった。
今回はまったく偶然だが、ダスラー兄弟の生家(小さい家だった)で写真を撮っていたところ、中から弟のアディ・ダスラーのお孫さんが出て来て、雑談風にお話を聞くことができた。もっとも、現在はこの2社は創業家が経営から全く離れており、むしろ関係良好で、アディダスの社長はプーマから来ている現実もある。両社の広報に問い合わせをしたが、ダスラー兄弟の兄弟喧嘩に関しては一切ノーコメントだった。
詳細は、今年の慶應ビジネススクールあるいは東大で復活するファミリービジネス講座で話すので、ここでは省略するが、ともかく「兄弟げんかの修復は容易ではない」ことは分かった。親子の喧嘩もよくあるが、これは「親子の情」があるので実は何とかなるケースが多い。ところが兄弟だと「兄弟は他人の始まり」なので、第3者が入ってもどうにもならないことの方が多い。
仕事以外でも、知り合いの兄弟が親が亡くなった「瞬間に」喧嘩を始めたケースを、私は少なくとも数件は知っている。実数はこの数倍から数十倍はあるだろう。日本人は家族紛争を口外しない人が圧倒的に多いからだ。
結局は、親がいなくなると兄弟はけんかをするものだと割り切り、事前に対策をするしかないのかも知れない。それもなかなか困難だが。
時代は「婿養子」から「跡取り娘」へー「跡取り娘」の協会も設立
世の中はアメリカ大統領選を見るまでもなく「女性の時代」だ。パリオリンピックでも日本選手団の中でも女性の方が元気があった。企業経営でも同じだろう。
数年前までは経営学の世界でも「婿養子の強さ」が話題となり、私も同調はしていたが、何か違和感があったのも事実だ。
私の中で見直しのきっかけは、2022年に慶應ビジネススクール(KBS)の講座でお招きした、ロート製薬の山田会長の一言「相山君は婿養子がいいと言っているが、あれはセクハラではないか」という衝撃の発言だった。
要は婿養子はさすがに今の時代にマッチしていないという山田会長のご指摘であるが、その年は受講生の中に婿養子数名と跡取り娘候補数名がいた。たまたま文明堂の婿養子の社長に外部講師として来ていただき、その時あるいはその後に皆で議論ができた。
跡取り娘候補の人々は、経営までできるいい婿養子はなかなかいないという実感を持っており、確かにその通りだと思うが、それなら「自分でやったらどうだ」と私は言った。世の中、いつまでも社長は男である必要はなく、今はむしろ女性社長の方が注目されるし有利ではないかというのが背景にある。
そんな中で先日、ある勉強会で「跡取り娘協会」というものが設立させたことを知り、その代表(とはいっても以前、東大で「ファミリービジネス講座」をやっていたときに来られていた方だったが)とお話ができた。もちろん「ムコの会」というのもあるのだが、これからは「跡取り娘」の方が伸びるのではないかと予想している。
昨年も「跡取り娘候補」の受講生がおり、今年も、今の少子化なら間違いなく複数いそうだが、また議論してみようと思う。今までの結論は、KBSに来ているような跡取り娘は「自分で社長をやる」ことを基本に、もしいい婿養子と結婚できたら任せるなり、手伝ってもらうなりすればいいのでは、ということだが、果たして今年はどういう議論になりますか。
今年の慶應ビジネススクール「ファミリービジネス実践論」の受講生は27名ー全員、後継者候補
時の経つのは早いもので、9月からの慶應ビジネススクール(KBS)の講座の受講生が教務から知らされた。本年は「ファミリービジネスの後継者候補」に絞ったが、土曜日の午後にも関わらず27名の参加者がいるようだ。慶應ビジネススクールではいかにファミリービジネスの後継者候補が多いかを物語る数字だ。
もちろん、時間割の関係でこの講座を履修できなかったファミリービジネス後継者も、この倍はいると思われるので、全体で250名のKBSの在学生のうちファミリービジネスの後継者は相当な割合に上る。これはビジネススクールの高額な授業料が一因と思われるが、同時にファミリービジネスのオーナーは後継者である次世代の教育に苦心している表れでもある。
今年は3年目の講義なので、私も「原点に返って」福澤先生の「実学」精神に則り講座名も「ファミリービジネス実践論」とした。またKBSは、そもそも私の指導教授であった石川忠雄塾長が、慶應での実学の拠点にするために1978年に設立した学科でもある。ハーバードビジネススクール流の「ケーススタディ」を中心にした授業が基本だが、私はその「ケースの中味」にこだわりたい。
単純にハーバードで昔使っていたケースの翻訳を使うのではなく、「日本企業」のファミリービジネスのケースを使う、全くオリジナルのものだ。これは全く確立されていないケースなので非常に恐い面もあるが、その方が受講生の「将来のファミリービジネス経営」には役立つと思われる。
過去2年間で私も受講生の方々から多くを学ばせて頂いた。その最たるものは「今や婿養子経営は古い」という事実だ。少子化の影響で子供は女性だけというファミリービジネスオーナーも増えているので、後継者教育は複雑化している。従来はその場合は「婿養子だ」となっていたが、今は全く違うと思う。現場を知らない学者は未だに「婿養子経営のメリット」などを説明しているが(私もコロナ前はそう言っていた)、ここは今年から完全に否定するつもりである。
KBS(慶應ビジネススクール)はかつてKBS(慶應ブライダルスクール)と呼ばれていた?
先週、ある慶應ビジネススクールの教授と打合せしていたら、たまたま婿養子の話になり、私からは「自分はかつて婿養子を推奨していたが、今は一人娘だったら自分で経営をやれ。女性経営者の時代だ、と言っている」と申し上げた。教授からはかつては慶應ビジネススクールは慶應「ブライダル」スクールと呼ばれる程、校内結婚が多かったという話があった。
私は2019年まで明治大学のビジネススクールで「ファミリービジネス論」の講師をしていたが、明治から慶應に来て驚いたのは慶應における「女子率の高さ」だ。私の勝手な予測だが、このことは「ブライダルスクール」と呼ばれたこととも関係しているはずだ。
その証拠といっては変だが、私の講座でも過去2年間に「婿養子を探しにきた」という雰囲気の女性が複数いた。明言している女性もいた。しかし、何といってもビジネススクールは人数が少ないのでここで適切な相手が見つかる可能性は低い。実際にはここで知り合った人の「紹介」で結婚した人が多いという。
まあ「直接」でも「間接」でもここの関係で結婚したことには変わりはない。ビジネススクールの授業料は他学部に比べて相当高いが、ここでいい相手が見つかれば2年間で数百万の授業料も安いものである。
私の知る限り、他のビジネススクールでこんな話は聞いたことがないので、慶應ビジネススクールの大きな「強み」と言えなくもない。特に世の若い女性たちはそのあたりの「嗅覚」が男の何倍も優れているので、他の大学を卒業してKBSに来るのだろう。そこにいる男に幻滅しても、彼らに「いい男を紹介」してもらえばいいのだ。
私のKBSでの「ファミリービジネス実践論」は、今年から福澤先生の言われた「実学」にこだわり、受講生にとって本当に実になる授業をするつもりである。皆、ファミリービジネスの後継者候補なので、それぞれのニーズもいろいろだが、少子高齢化で「ブライダル」のニーズも切実な人、家族も多い。そういう面も含めて包括的にニーズを満たし、「本当によかった」と受講生に思ってもらえる講座をしてみたい。