対米交渉で山田重雄駐米大使に期待ー日本が先鞭を切れたのも彼のおかげ?
私は1990年から92年までアメリカ(ハーバード大学とエール大学)に留学したが、この時に知り合った人々が今、霞が関で事務次官クラスになっている。財務省の新川浩嗣事務次官もそうだが、私が一番期待しているのは山田重雄駐米大使だ。
トランプ大統領の意味不明な関税政策に日本も翻弄されているが、なぜか日本が対米交渉のトップバッターに立つことになり、あさってから日米閣僚交渉が始まる。意外に早くトランプ―石破電話会談が実現したと日本人の誰もが感じているのではないか。この陰には山田駐米大使がいると思われる。
彼とはアメリカ留学中に知り合ってから、何となく35年以上の付き合いだ。岸田首相のキーフ極秘訪問やゼレンスキーの広島サミットへの出席を実現したのも彼だ。その結果、岸田首相の信任が超厚くなり、事務次官を飛び越して1年半前に駐米大使となり、岸田首相の特命でトランプ対策をしていた。
石破首相がいうように、現在の状況はまさに「国難」でもある。赤沢担当大臣が日本の窓口では頼りないという意見が多いが、実務のトップを担っているのが山田駐米大使なのだから、赤沢大臣はその上にのっていればいい。結果は自ずと出るはずだ。
先日のアメリカ新駐日大使のお披露目パーティがワシントンの大使公邸で開かれテレビ放映されたが、一瞬だが山田駐米大使の姿も映っていた。さすがにこの状況下では痩せたように見えたが、それは仕方がない。毎日徹夜に近い状況だろう。
今週から始まる日米交渉は、一筋縄ではいかないだろうが、山田大使がいるので何とか乗り切れると私は楽観している。そうなった後も彼は「自分がやった」というようなことは一切言わないのが、一つの好きなところだ。
ようやく明るみになったテレビ局の問題点ー全ての業界の中でも異常
今年になってから急遽フジテレビが窮地に追い込まれている。しかし、これはいつかは表沙汰になる話だったように思う。私は経団連で90年代の終わりに広報部にいたが、その時に「財界記者クラブ」の中でのテレビ局の人々の異常な感覚には驚いたものだ。
記者クラブでも新聞の人は、常識人とはいわないがそんなに外れてはいない。仕事でも、取材しないといけないので役人のように上から目線ではできないからだ。ところがテレビ局の人はなぜか上から目線なのだ。その比は官僚どころではない。
なぜこういうことが起きるかを考えたのだが、一つはテレビは他の媒体に比べて影響力が大きく、「出させてくれ」という人が多いからだろう。皆がペコペコしてくるから自分が偉くなったと勘違いして横柄な態度をする人も出てくる。某テレビ局のディレクターに電話した時に、明らかに相手がパソコンを打ちながら電話していたのでさすがに怒鳴ったこともある。相手は何も感じていなかったが。
テレビ局の誰に聞いても、今でいうパワハラ、セクハラは日常茶飯事で、世の中の変化についていけなかったから、今回のようなある一つの事件をトリガーにパンドラの箱が開いたのだ。もちろん、誰もが分かっているようにフジテレビだけの問題ではなく、他の局も程度が違うだけで同じことをしていたことが、ネットなどで暴かれつつある。
しかし、素朴な疑問としてフジテレビなどテレビ局は上場しているところが多いので、「ガバナンスコード」を意識しているはずだ。しかし、それでも何の変化もなく今日まで来ていたというのは、ガバナンスコードの一つの欠陥を示すものだろう。
フジテレビが「ファミリービジネス」でなかったのは私にとっては幸運だったが、もし鹿内一族が健在だったらどうなっていただろうか?少なくとも「会社が潰れたら」多くの株を持っている一族が困るわけで、さすがにどこかで改革をしたはずだ。サラリーマン経営の恐い所で、会社が潰れても経営陣にさほど影響がないので無責任体質になってしまう。ゴーンさんと同様のことは多くのサラリーマン企業で起こりうる。まさにエージェンシー(代理人)コストだ。
昨年の慶應ビジネススクール「ファミリービジネス」講座の成果④なぜ兄弟対立の解決は困難か?
昨年の慶應ビジネススクールの講座はタイトルを「ファミリービジネス実践論」とし、受講生もファミリービジネスの2代目、3代目に絞った。もちろん、福沢先生の建学の精神である「実学」を意識してだ。だから極力、実践では役に立たない理論を少なくし、泥臭い実践論の議論をした。
具体的には「ファミリービジネスの2代目、3代目が考えておくべき30のテーマ」を配り、これについて時間制限なしで議論した。もちろん受講生は新卒から50代まで様々なバックグランドがあるので、どうしても50代のおじさんがよく発言することになる。
しかし、若手も私も気付かないような意見を出してくれて、私を含めたおじさんにも勉強になるといういい循環にもなった。問題は30のテーマのうち、どこが一番受講生の共感を得たかだが、やはりファミリービジネスの最難関ともいえる兄弟の対立だった。皆、言葉には出さないがそれぞれ心配があるような感じだった。
もっとも、中国からの留学生は「一人っ子政策」のたまものなので、カヤの外だったが、日本人は一人っ子はほぼいなかったので深刻だ。彼ら、彼女らはおじいさんの時代から家業を見ているので、兄弟の対立を肌で知っている。
実はこのブログでも書いたが、私も兄弟の対立をどう解決するかの「ヒント」を得るために、昨年の7月に「世界一の兄弟げんか」が起きたADIDASとPUMAの本社のあるドイツの田舎町に行って、アディ・ダスラー(アディダスの創業者)のお孫さんに話を聞いた。
結果は書いたように「特効薬はなく、時間による解決しかない」というすごいものだったが、それだけ兄弟で対立が起きると解決は難しいことが浮き彫りにもなった。いい経験でもあった。兄弟という「横」の関係だと構造的に対立しやすく、それを元に戻ろうとする力はない。むしろ対立を激化する力しか発生しないというのがお孫さんのダスラーさんの印象に残った一言だった。
となると、結論は「事前に対立の芽を摘んでおく」ことしかない。昨年の受講生は(中国人を除いて)早速、その対策に入っているようだ。
昨年の慶應ビジネススクールでの「ファミリービジネス」講座の成果③ファミリービジネスの経営は泥臭い
私はもう20年以上も中堅ファミリービジネス10社くらいの顧問を続けているが、恐ろしいことにアメリカのビジネススクールでやったような「フレームワーク」などの「綺麗な」理論を使ったことがない。ほとんどが何の正解もないような日常の泥臭い問題の解決だ。
これも当然で、有名な「スリーサークルモデル」を考えると明白だが、一般企業は「ビジネス」と「オーナーシップ」の要素しかないが、ファミリービジネスだとこれに最大の紛争要因である「ファミリー」が加わる。ゆえに、ファミリービジネスの問題のほとんどが「ファミリー」に関わることになり、まさに泥臭い話になる。
今年の講座からは、慶應ビジネススクールに多い「ファミリービジネスの2代目、3代目」に絞って受講生募集をしたが、土曜日の講座にも関わらず20数名が集まった。実際にはそういう属性の学生はこの2倍はいるだろう。皆、家業で「泥臭い」問題をいくつも抱えている。深刻な家族もある。
その中で最大の案件は、実は「親子、兄弟、親族間の対立」だ。いわゆる一族の対立だが、この「解決」は非常に困難だ。ある意味では不可能と言ってもいい。そうはいってもやらなければ仕事ではないので、そこは工夫が要る。
私の経験では、親子間の対立や親族間の対立は「何とかなる」感じがしている。親子には親子の情があるし、親族間はそんなに関係が密ではないのでビジネスライクに解決できるという側面があるからだ。
実務的に最大のネックは「兄弟、姉妹の対立」だ。実は私もここでは成績が悪い。親子や親族の対立をほぼ解決しているとすれば、兄弟の対立はせいぜい3割くらいしか解決していない。それもとりあえず沈静化した程度だ。なぜ兄弟の対立の解決が難しいかは次回。
今年の慶應ビジネススクールの「ファミリービジネス」講座の成果②「いい人が採れない」問題
中堅ファミリービジネスにとって、問題はいろいろあるものの、最大のものは「いい人が採れない」問題だろう。これは、超有名な中堅ファミリービジネスオーナーからも聞いていて、あんな有名なところでもそうなのか、と驚いたことがある。
その原因は、まずもって待遇だろう。給与や福利厚生などは一般大企業に比べるべくもない。さらに、そのイメージの悪さもあろう。オーナー一族が利権を独り占めにして、社員は安月給というイメージだ。しかもいくら優秀な人が入ってもボンクラ息子の方が出世するというイメージもある。
これらは必ずしも正しくなく、ケースバイケースなのだが、組織というものはどこでも入るまでは分からないことが圧倒的に多いので、イメージが大きいのだ。ある中堅企業の後継者は、中小企業には入りたくて入ってくる人間はいないので、途中辞めていくのも覚悟で人材育成するしかない。むしろ、3流大学の人間を取って終身雇用で鍛える方が会社にとってメリットがある、と冷めたことを言っていた。
そういう戦略もあるだろうが、まずは企業側も正しい姿を広報する必要があろう。中堅ファミリービジネスにも、たいていは立派な創業理念や経営理念があり、それは大学生にも共感を得ることもあるだろう。そのあたりの広報が圧倒的に不十分な気がする。
もっとも、今はファミリービジネスのイメージが悪く、これを払拭するには10年単位の時間が必要だ。ではどうするか?
私はここで昔、日本マクドナルドの藤田田さんから聞いた言葉を紹介した。曰く「三流の人材に一流の仕事をやらせるのが経営者の役割」というものだ。これについては誰も反論できないだろう。しかし、藤田田さんだから言えた一言でもある。当面は企業研修やOJTなどの充実で人材を鍛え上げるしかないような気もする。一流の仕事をしてもらうために。。。
今年の慶應ビジネススクールのファミリービジネス講座の成果①後継者の修行の方法
今年の慶應ビジネススクール(KBS)での「ファミリービジネス実践論」が先週で終了した。全18回で2単位だが、受講生は「ファミリービジネスの2代目、3代目の後継者」に絞って20名強だTた。KBSにはこういう属性の人はこの2倍くらいいるし、老舗の子弟もいるので、やはりファミリービジネスの後継者の割合は他に比べかなり高い。
2代目、3代目にこだわっているには当然理由があって、この世代が日本のファミリービジネスにおいて「弱い」からだ。これは日本のみならず、世界的にも同じだ。私の知り合いのドイツ人の教授が「3代目が弱いという諺は世界の27国にある」という研究をしているが、この数はどんどん増えているそうだ。
もちろん、創業した一代目である親は、2代目、3代目となるうちに会社がおかしくなる可能性を熟知しているので、2代目、3代目をKBSのようなところに出して勉強させる。慶應でもファミリービジネスに特化した講座はこの講座しかないので、私がその人々の受け皿にならねばならない状況だ。
今年一番問題になったのは、大学を卒業した後に「大手企業で修行するか、すぐに家業に入るか」だ。結論は永遠の課題というところだが、面白いのは中国からの留学生は「そんなことは問題でもなくて、家業にすぐに入って一日も早く仕事を覚えるべきだ」という。確かにその通りだが、日本では家業をすぐに継ぐと「都落ち」のように思われる傾向がある。
やはり、日本ではまだまだ大企業に就職する人の方が、家業を継ぐ人より優秀だ、と思われる傾向がある。この背景には私が常々言っている「日本ではファミリービジネスが下に見られ、イメージも悪い」ことと無縁ではない。欧米のようにファミリービジネスが正当に評価され尊敬されていれば、日本のように余計な回り道をしなくてすむ。これにより日本の競争力も削がれる可能性があるのが問題なのだ。
もっとも、銀行などに入って一見遠回りをしても、それがゆくゆく活きてくることもあるだろう。しかし、全くの時間の無駄のケースもあろう。自分の家業で求められる能力と、銀行などの大企業で求められる能力は違うことが多いからだ。
またそういうことを考えることに2代目、3代目は相当の時間と労力をかけている。さらに、就職の内定をもらうまでに面接やその準備などで、相当な時間を取られている。この時間を家業のことに費やしていればと思うと切ない。それが日本のファミリービジネスの競争力に影響もしているだろうから、早く、正しい理解、欧米のように尊敬される存在になることが急務だろう。
ファミリービジネス後継者に対する「実学」とはー本年の慶應ビジネススクールで思考錯誤
慶應ビジネススクール(KBS)は私のゼミの指導教授であった石川忠雄元塾長が1978年につくったもの。その趣旨は福澤諭吉が言っていた「実学」を体現する場をつくることだった。しかし、「何が実学か」は全くもって難解だ。
もちろん、福澤先生の時代の実学と今の実学は全く違うことは言うまでもないが、受講生それぞれにとっての実学も千差万別だ。その最大公約数的なところをとって授業をするしかない。
今年はファミリービジネスの後継者2代目、3代目に絞って受講生を募集した。多くが20代だ。日本でも海外でもファミリービジネスは初代は強いが、2代目、3代目で潰れてしまう例が多い。逆に4代目まで行くと(100年企業)なかなか潰れないというデータがある。ここまで続くといろいろなノウハウの蓄積ができるからだろう。
今年はファミリービジネスの理論的な座学はほどほどにして、私が今まで経験した中でファミリービジネスの後継者が必ず考えておかねばならないポイントを30くらいにまとめて議論してもらっている。少数の50代の方が議論をリードする形になるが、若者もいろいろと意見を言って、初の試みだが議論はできている。
この議論によってすぐに効果が出るものではないが、今の20代の若者が後を継ぐ10年後、20年後には、いま考えたことが役に立ってくるだろう。こういう「実学」もあると信じて、ここしばらくは試行錯誤を続けることになるだろう。
自民党総裁候補の半数近くがハーバード・ケネディスクールに留学―バブル期は日本人が多かった
今度の自民党総裁選は「11名」が名乗りを挙げている。その中で何と5名がハーバードケネディスクールに留学している(上川、茂木、斎藤、林、小林ー年齢順)。それぞれ、私もそうだが職場派遣の人が多いのが特徴で、斎藤健さんとは卒業同期で、林芳正さんも重なっている。
私は経団連から派遣で、1年目はエール大の経済学大学院に行き、そこは1年で修士を取り、2年目はハーバードのケネディスクールと東アジア科大学院に合格し、政治家になるつもりはなかったので、東アジア科大学院に行った。
当時はバブル期だったので、日本人が非常に多く、ビジネススクール、ロースクール、ケネディスクールにはそれぞれ1学年15名程度の日本人がいた。ロースクールには今の日銀副総裁である内田氏がいたようだが、面識はない。
ケネディスクールというのは、私のようにできない学生には救世主のようなところで(アメリカの役人が多く来ていたが、アメリカの役人は民間よりレベルが低かったため)成績が甘かった。そこで私はケネディスクールの授業を多く履修していた。結構、簡単にAが取れた記憶がある(私の慶應ビジネススクールでの「ファミリービジネス実践論」講座のようだ)。
他方、ビジネススクールの当時の花形であったマイケル・ポーター教授の授業にも出たかったので、これは「聴講生」として受講した。こういう「戦略」は実は今は経済産業大臣となっている斎藤健さんから教わった面もある。林芳正さん(現官房長官)からは「バンドを組まないか」と誘われたが、私はボーカルしかできないので断念した思い出がある。
今はハーバードにはほとんど日本人がいないようだ。理由は、昔はやっていた「職場派遣」がなくなっていることと、そもそもアメリカの大学が日本人を取らなくなっていることだ。日本の国力の低下はこういうところにも影響しており、福沢諭吉が咸臨丸でアメリカに行ったころと時代が完全に逆行しているのは、日本の行く末を考えた時に恐ろしい。
ドイツの「アディダスとプーマを生んだ町」に行き、アディ・ダスラーの孫から話を聞くー兄弟喧嘩の顛末
先月はドイツで世界の主なファミリーオフィスの代表が集まる少人数会合があったので、それに参加。その後に以前から行きたかったアディダスとプーマの本社があるバイエルンのヘルツオーゲン・アウラッハという小さな街に行った。
わずか人口1万人の街に世界的な大企業であるアディダスとプーマの本社があるのは異様だが、この両社はダスラー家の兄弟げんかから生まれたことは日本ではあまり知られていない(ちなみにドイツではほぼ全ての人が知っている有名な話)。
私は20年ほど前にアディダス(弟の会社)とプーマ(兄の会社)の話を知ったが、その後、ファミリービジネスの事業承継が起きたときに頻繁に起こる「兄弟げんか」について、なかなかうまく対処できないことが悩みだった。おそらく世界一大きな兄弟げんかであるアディダスとプーマの実例から何か参考になることはないか、興味はあった。
今回はまったく偶然だが、ダスラー兄弟の生家(小さい家だった)で写真を撮っていたところ、中から弟のアディ・ダスラーのお孫さんが出て来て、雑談風にお話を聞くことができた。もっとも、現在はこの2社は創業家が経営から全く離れており、むしろ関係良好で、アディダスの社長はプーマから来ている現実もある。両社の広報に問い合わせをしたが、ダスラー兄弟の兄弟喧嘩に関しては一切ノーコメントだった。
詳細は、今年の慶應ビジネススクールあるいは東大で復活するファミリービジネス講座で話すので、ここでは省略するが、ともかく「兄弟げんかの修復は容易ではない」ことは分かった。親子の喧嘩もよくあるが、これは「親子の情」があるので実は何とかなるケースが多い。ところが兄弟だと「兄弟は他人の始まり」なので、第3者が入ってもどうにもならないことの方が多い。
仕事以外でも、知り合いの兄弟が親が亡くなった「瞬間に」喧嘩を始めたケースを、私は少なくとも数件は知っている。実数はこの数倍から数十倍はあるだろう。日本人は家族紛争を口外しない人が圧倒的に多いからだ。
結局は、親がいなくなると兄弟はけんかをするものだと割り切り、事前に対策をするしかないのかも知れない。それもなかなか困難だが。