日米関税交渉の意外に早い決着の背景ーやはり山田重雄駐米大使がいた
参議院選挙の与党大敗で日本中が騒々しい矢先に、突然の日米関税交渉の妥結の報が入った。誰もが8月1日以降も交渉が続くと思っていただけに、驚きを持って受け取られ、株価も暴騰した。しかし私は全く驚かず、山田駐米大使だったら当然にやってくれると4月から確信していた。
日米大臣折衝の時に、常に山田氏は大臣の右側に座って大臣にメモを渡していた。全て山田氏が仕切っているのを見て私は「これは大丈夫だ」と感じていた。但し、4月から見る見る痩せてきているのを見るのは、一友人として辛いものがあった。
ここにきて、ネットでも山田大使の働きに言及する記事が出てきた。トランプ大統領の意図を汲んで、様々な分野の企業トップと会って「投資機会」を探っていたようだ。約2年前にワシントンに着任してから、今日の事態を予想し全国の企業を回っていたというから「仕事師」は違うものだ。
大使としてアメリカに赴任する前、「死ぬまでお国のために働きたい」という魂の叫びにも似た言葉を聞いた時には、霞が関中の官僚に聞かせてあげたいと感じたものだ。今の官僚に果たして本気でこう考えて働いている人がどれだけいるか。官僚はよく「国益より省益・自分の利益」と言われるが、残念ながら私の知り合いでもそういう官僚は多い。
一件落着のようだが、この関税交渉はまだまだ尾を引きそうだ。契約文書は作らないので、どうしても両国で解釈の違いも生じるし、またゴタゴタしそうだ。山田大使にはゆっくり休んでほしいが、それができるのはせいぜい夏休みの1か月くらいかもしれない。
寄附金集めの基本は「ギブ・アンド・テイク」ーある元経団連幹部からの示唆
最近はクラウドファンディングなど、いろいろな寄附金集めの手法がある。かなりの「共感」を集める話だとこれでも集まることもある。しかし、善意に頼るのは持続可能性は低い。大学などの寄附金集めでは、大口への訪問がまだまだ主流だろう。
私も経団連にいたころは、バイオ分野の担当が長く、よく大学教授(医学部の方が多かった)からの研究費寄付要請の応対をした。不思議なことにどの先生も「自分のやっていることは世界一大事なことだから経団連は寄付すべき」ということを言われた。しかし、個別の大学や教授に寄附する慣例はないということでお帰り頂いた。
東大からエール大学に移った浜田宏一教授から、研究費の寄附集めの苦労話をよく聞いた。経団連に行ったらすぐに断られたそうだが、そもそも誰にでもそういう対応ですよ、と言ったら少し安心した顔をした。結局は自分の研究を多とする企業しか寄附はもらえなかった、ということだが、ある意味本質的な話だろう。
つまり、寄附でも何でも基本は「ギブ・アンド・テイク」の関係しか成り立たないということだ。多くの日本の教授は、「自分の研究は世界一だから(ほとんどの場合、この根拠はないが)世界中の人は自分に無償で寄付すべきだ」と考えているきらいがあるが、これは基本を分かっていない。何もギブしていないのだ。
日本にはそもそも寄附文化がなく、皆が経験値が低いこともある。特に国立大学の先生は、昔は税金から研究費が出ていたので、予算を削られた今どうしていいのか分からないのだろう。それにしても、普通の人間が、何もメリットがないのに自分に寄附してくれると思うのは、冷静に考えると異常だ。
昔、私のゼミの先生であった石川忠雄元慶大塾長は、慶應創立125周年で200億円集めたのが話題となった。先生に「なぜそんなことができたのですか」と聞いたら「昔の恩を返してもらったからだ」と言われた。まさに「ギブ・アンド・テイク」の関係で、さすがに本質を分かっていたのだ。
寄付集めの時には、常に「ギブ・アンド・テイク」の関係が成立しているかチェックする必要がある。そうでないと、世間知らずの大学教授と同じになってしまう。心したいことだ。
母校、甲府一高の囲碁部が全国大会に出場ー女子団体戦と個人戦
今思えば、40年以上前になるが、私が高校生の時、1年から囲碁の全国大会に出ていた。一年で個人戦全国4位になったので、残りの2年のうちには優勝できると思ったが(高校時代は伸びる時期なので)、何と2年、3年時と順位は落ちて行った。やはり勝負は時の運であろうか。
時々、高校囲碁の記事を読んだりするのだが、昨年は女子団体戦で甲府南高校が全国準優勝していて驚いた。決勝は白百合女子高だったので(慶應囲碁部は白百合女子大囲碁部と一緒に活動している)、これは見に行くべきだったと後悔したものだが、今年は何と、その全国2位の甲府南を破って甲府一高が山梨代表になったようだ。
もしかしたら、全国で団体戦、または個人戦で入賞するかもしれない。そうなると多分、私以来だと思われ(そもそも山梨県は囲碁が盛んでもない)、これは快挙だ。こんな嬉しいことはない。
甲府一高はもともと幕府の藩校(今の大河ドラマの蔦重の時代)が起源で、名門校だったはずだが、最近は進学もよくなく、旧制一中で東大合格ゼロの常連校になっている。昔は甲子園にも何度か出たようだが、今は私立の時代なので県予選突破は難しいだろう。
ここは意外にも、「囲碁」で再び全国区になるという作戦もある。おそらく全校で期待もされているだろう。8月に全国大会があるので応援に行こうと考えている。囲碁の日本棋院という「場」にも最近行っていないので、久々に知り合いに会えるかも知れない。
ここ15年間の日本での「ファミリービジネス」の認知度は?ーまだまだ緒についたばかり
私が明治大学大学院ビジネススクールに「ファミリービジネス」の講座を持ち込んでから(担当は当時の青井倫一研究科長)15年が経とうとしている。それまでは日本には「部分的に」ファミリービジネス(同族企業)を扱う講座はあったが、そのものを扱った講座はこれが初めてだった。日本がいかにこの分野で遅れていたかだ。
欧米では1980年代には主な大学にはファミリービジネスの講座ができていた。こんな古典的と思われる経営形態(会社は基本一人の家族から始まる)が、「実は強い」ことに誰もが違和感を覚え、研究が始まったころだ。当時は(今もそうかもしれないが)日本では「ファミリービジネス(同族企業)」は古くて悪い経営形態だから、早くサラリーマン社長(専門経営者)の会社にすべきだ」というのが一般の見方で大学でもそう教えていた。
ハーバードの著名な経営学史の大家アルフレッド・チェンドラーも「所有と経営の分離」を唱え、株式を持たない人間が経営すべきというのが世界の主流だった。しかしそれでは、エンロンや日産のゴーンさんのような「無責任な経営者」が出て来て会社はダメになる、ということが実態的に分かってきた。
今では世界中で「ファミリービジネスは責任のある経営をしているから強いし尊敬できる」というのが主流だが、ほぼ日本と韓国のみが未だに「ファミリービジネスは古くてよくない経営形態」と思われ「下に」見られている。そのことで後継者はファミリービジネスを継ぐことを躊躇ったりする。由々しき事態だ。
日本にファミリービジネスという形態が少ないのなら大した問題ではないかもしれないが、大問題なのは「日本企業の98%までがファミリービジネスで雇用もGDPも3分の2がファミリービジネスから生まれ、しかも業績も全体とすればノン・ファミリービジネスよりもいい」という実態があるからだ。日本でファミリービジネスを否定することは「自分の強みを自ら捨てる」ことになる。失われた30年の一つの原因もここにある気がする。
まだまだ私の力不足で日本人の意識はほとんど変わっていないが、トヨタやサントリー、キヤノンなどの強さは誰でも知るところ。最近では「オーナー社長は責任があるからサラリーマン社長のようにいい加減ではないよね」という人は増えてきた。
大学も今ファミリービジネスを扱っているのは明治(32講座もある)、早稲田、慶應(小生のみだが)、東大(3年間やった)くらいで全国に拡がっていないが、少なくても各地の中核大学で「ファミリービジネス」の講座ができれば、「本当は強くて面白い」ファミリービジネスのことが広まってくるだろう。
少しづついい方向に変わってきたと思えるのは、最近ではいろいろな雑誌で「ファミリービジネスの強さ」を扱う企画がでてきたことだ。老舗やベンチャーが多いがもちろんトヨタやサントリーなどのオーナー系企業の強さを再確認する記事も多い。経産省も最近、ファミリービジネスの研究会を立ち上げた。
問題はこういう動きを「継続的に」していくことで、まだまだいろいろな方面で動かないと世の中変わらないなと実感している。
なぜローマ教皇に下馬評にも挙がっていなかったアメリカ人がなったかー中村元バチカン大使に聞く
ローマ教皇選挙(コンクラーベ)は日本人には分からない世界だ。ちょうど今年は「コンクラーベ」という映画が上映されていることもあって、人々の関心は高かった。下馬評ではアジア初の教皇が誕生するか、などと言われていたが、前回同様、意外な人が教皇になった。
経団連の20年先輩だが、経団連の事務総長から副会長になり、その後安倍政権の内閣官房参与からバチカン大使になった中村芳夫氏と最近懇意だ。私が六本木ヒルズにあるハリウッド大学院大学の特任教授に4月になったが、中村さんもやはり同大学の特任教授ということで、そういう面では同僚になるからだ。
中村氏がバチカン大使になったのは、安倍さんから大変なミッションを言い渡されたからだ。中村は経団連副会長をしたので大きな国の大使になってもおかしくないが、安倍さんは「ローマ教皇を40年ぶりに日本に連れてくる」ことを中村に命じた。
このミッションは相当な仕事師でないと無理だ。中村氏に聞くと途中ダメかなと思うことは何度もあったそうだが、見事2019年秋にフランシスコ教皇は来日した。被爆地にも行った。ヨハネ・パウロ2世以来、38年ぶりのローマ教皇の来日となった。
中村氏に聞くと、今回アメリカ人がローマ教皇になったのは、「英語」を喋るという要素が大きいとのことだ。確かに有力候補のフィリピンの司教も英語を喋る人だ。
通常、ローマ教皇は「ローマ」なのでイタリア語を話しているそうだ。しかし、イタリア語が分かる人は少ないのでそれを英語に訳してもらわないと分からない。常に教皇に通訳が付くわけでもないので、言葉の問題は実はかなり重要だろう。
また中村から詳しい話を聞く機会はあるが、どうもクリスチャンでない身ではキリスト教の話は分からない。欧米の教会や宗教画を見る機会は多いが、これもキリスト教のことが分かっていないので、多くの貴重な意味を見逃していることが多いのだろう。
ハーバード大学の恩師ジョゼフ・ナイ教授の死を悼むーソフトパワーの極意を教わる
今月はジョゼフ・ナイ教授の死という悲しい知らせがあった。数日何も手に付かないほどのショックを受けた。ナイ教授にはハーバード大学で1992年に「1対1の個人指導」をして頂いたり(アメリカには正規の授業でこういうものがある)、2002年にハーバードに客員研究員でお招き頂いたり、大変お世話になった。
もちろん「ソフトパワー」の命名者なので、1992年にはソフトパワーについて様々な面からご教示頂いた。フィールドワークとして、ボストンやニューヨークの街角で「日本のものがどれだけ探せるか」をやってみた。これが多ければ日本のソフトパワーもまずまずということらしい。
実際には日本のものといっても、目立ったものは扇子や浮世絵、スーパーでのカップヌードルや醤油などだが、それが多くなればアメリカ人の日本に対するイメージが変わってきて、今まさにやっているような日米交渉も有利に働くという理論だ。
翻って日本国内をみると、身の回りはアメリカのものばかりだ。ナイ教授のいうように「ジーンズとTシャツを世界中の人が着ることがアメリカのソフトパワーだ」ということになる。コカ・コーラは世界中に広まっており、これもアメリカのソフトパワーなら日本はとうてい太刀打ちができない。
2002年にハーバードに行った時には、私はナイ教授に「実際にはソフトパワーだけで世界は動いておらず、アメリカの強さの源泉はハードパワー(経済力や軍事力)に裏打ちされたソフトパワーではないか」という問題提起をした。そのことも一つの契機になり、ナイ教授は2005年ころにソフトパワーとハードパワーをミックスした「スマートパワー」という新しい概念を発表した。
いずれにせよ、「アメリカは強い」ということだが、今のトランプ政権はアメリカのソフトパワーをかなり減じているのは間違いない。それでもナイ教授は、「21世紀は中国やインドの時代になるという人もいるが、それらの国にはソフトパワーがないので、今世紀の後半まではアメリカの世紀が続く」と予想されていた。
ナイ教授の卓見を心に刻みながら、ご冥福を祈る。
トランプのハーバードに対する措置に断固抗議ーしかしどこまで本気か?
トランプ大統領がついに大学の自治にまで踏み込んでいる。空前絶後のことであり、本気だったら大統領罷免にも値するような暴挙だ。私はかつてハーバード大学日本同窓会の副会長(実は庶務係)をしていたことがあるので、この問題について一言、言わねばならない。
まずトランプはもちろんハーバード大卒ではなく、ペンシルバニア大卒だが、トランプ本人あるいはその息子がハーバードに落ちたからその腹いせにこういうことをしているという見方は、完全に問題の矮小化だ。トランプのこの脅しは大学も政治が支配できるという意思表示だろう。
もっとも、関税問題でも朝令暮改を繰り返しているトランプだから、この問題もまたヘナヘナになる可能性は高い。こんなことを本当にやればアメリカの競争力を落とすくらいのことは誰でも分かる。それほどアメリカの大学の競争力は強い。世界中の天才や政府要人の子弟がハーバードに集まっている。
特に今回問題になっている「留学生」には、途上国のトップの子弟が多い。私がいた学生寮はわずか100名しかいなかったが、インドのガンジーの孫(母親は当時インド首相)や中国主席の子弟、スーダンの大統領の子弟がいた。普通にキッチンやトイレで会って、夜も部屋に行って二人で雑談をすることもあった。
こういう「留学生」を排除したら、それこそアメリカの大損失だ。トランプはともかくバンス副大統領はエール大ロースクールをトップに近い成績で卒業した切れ者と聞く。取り巻きがいつまでもこんなことを続けさせるとは考えにくい。
しばらく様子を見ていれば何らかの緩和措置が出てくるだろうが、アメリカの強さ、アメリカ経済の競争力の高さの源泉は大学にある。東大は既にハーバード留学生の受け入れを表明しているのも当然だ。逆に東大を初め日本の大学の競争力が高まれば、日本経済も復活の兆しが見えるのではなかろうか。
対米交渉で山田重雄駐米大使に期待ー日本が先鞭を切れたのも彼のおかげ?
私は1990年から92年までアメリカ(ハーバード大学とエール大学)に留学したが、この時に知り合った人々が今、霞が関で事務次官クラスになっている。財務省の新川浩嗣事務次官もそうだが、私が一番期待しているのは山田重雄駐米大使だ。
トランプ大統領の意味不明な関税政策に日本も翻弄されているが、なぜか日本が対米交渉のトップバッターに立つことになり、あさってから日米閣僚交渉が始まる。意外に早くトランプ―石破電話会談が実現したと日本人の誰もが感じているのではないか。この陰には山田駐米大使がいると思われる。
彼とはアメリカ留学中に知り合ってから、何となく35年以上の付き合いだ。岸田首相のキーフ極秘訪問やゼレンスキーの広島サミットへの出席を実現したのも彼だ。その結果、岸田首相の信任が超厚くなり、事務次官を飛び越して1年半前に駐米大使となり、岸田首相の特命でトランプ対策をしていた。
石破首相がいうように、現在の状況はまさに「国難」でもある。赤沢担当大臣が日本の窓口では頼りないという意見が多いが、実務のトップを担っているのが山田駐米大使なのだから、赤沢大臣はその上にのっていればいい。結果は自ずと出るはずだ。
先日のアメリカ新駐日大使のお披露目パーティがワシントンの大使公邸で開かれテレビ放映されたが、一瞬だが山田駐米大使の姿も映っていた。さすがにこの状況下では痩せたように見えたが、それは仕方がない。毎日徹夜に近い状況だろう。
今週から始まる日米交渉は、一筋縄ではいかないだろうが、山田大使がいるので何とか乗り切れると私は楽観している。そうなった後も彼は「自分がやった」というようなことは一切言わないのが、一つの好きなところだ。
ようやく明るみになったテレビ局の問題点ー全ての業界の中でも異常
今年になってから急遽フジテレビが窮地に追い込まれている。しかし、これはいつかは表沙汰になる話だったように思う。私は経団連で90年代の終わりに広報部にいたが、その時に「財界記者クラブ」の中でのテレビ局の人々の異常な感覚には驚いたものだ。
記者クラブでも新聞の人は、常識人とはいわないがそんなに外れてはいない。仕事でも、取材しないといけないので役人のように上から目線ではできないからだ。ところがテレビ局の人はなぜか上から目線なのだ。その比は官僚どころではない。
なぜこういうことが起きるかを考えたのだが、一つはテレビは他の媒体に比べて影響力が大きく、「出させてくれ」という人が多いからだろう。皆がペコペコしてくるから自分が偉くなったと勘違いして横柄な態度をする人も出てくる。某テレビ局のディレクターに電話した時に、明らかに相手がパソコンを打ちながら電話していたのでさすがに怒鳴ったこともある。相手は何も感じていなかったが。
テレビ局の誰に聞いても、今でいうパワハラ、セクハラは日常茶飯事で、世の中の変化についていけなかったから、今回のようなある一つの事件をトリガーにパンドラの箱が開いたのだ。もちろん、誰もが分かっているようにフジテレビだけの問題ではなく、他の局も程度が違うだけで同じことをしていたことが、ネットなどで暴かれつつある。
しかし、素朴な疑問としてフジテレビなどテレビ局は上場しているところが多いので、「ガバナンスコード」を意識しているはずだ。しかし、それでも何の変化もなく今日まで来ていたというのは、ガバナンスコードの一つの欠陥を示すものだろう。
フジテレビが「ファミリービジネス」でなかったのは私にとっては幸運だったが、もし鹿内一族が健在だったらどうなっていただろうか?少なくとも「会社が潰れたら」多くの株を持っている一族が困るわけで、さすがにどこかで改革をしたはずだ。サラリーマン経営の恐い所で、会社が潰れても経営陣にさほど影響がないので無責任体質になってしまう。ゴーンさんと同様のことは多くのサラリーマン企業で起こりうる。まさにエージェンシー(代理人)コストだ。
昨年の慶應ビジネススクール「ファミリービジネス」講座の成果④なぜ兄弟対立の解決は困難か?
昨年の慶應ビジネススクールの講座はタイトルを「ファミリービジネス実践論」とし、受講生もファミリービジネスの2代目、3代目に絞った。もちろん、福沢先生の建学の精神である「実学」を意識してだ。だから極力、実践では役に立たない理論を少なくし、泥臭い実践論の議論をした。
具体的には「ファミリービジネスの2代目、3代目が考えておくべき30のテーマ」を配り、これについて時間制限なしで議論した。もちろん受講生は新卒から50代まで様々なバックグランドがあるので、どうしても50代のおじさんがよく発言することになる。
しかし、若手も私も気付かないような意見を出してくれて、私を含めたおじさんにも勉強になるといういい循環にもなった。問題は30のテーマのうち、どこが一番受講生の共感を得たかだが、やはりファミリービジネスの最難関ともいえる兄弟の対立だった。皆、言葉には出さないがそれぞれ心配があるような感じだった。
もっとも、中国からの留学生は「一人っ子政策」のたまものなので、カヤの外だったが、日本人は一人っ子はほぼいなかったので深刻だ。彼ら、彼女らはおじいさんの時代から家業を見ているので、兄弟の対立を肌で知っている。
実はこのブログでも書いたが、私も兄弟の対立をどう解決するかの「ヒント」を得るために、昨年の7月に「世界一の兄弟げんか」が起きたADIDASとPUMAの本社のあるドイツの田舎町に行って、アディ・ダスラー(アディダスの創業者)のお孫さんに話を聞いた。
結果は書いたように「特効薬はなく、時間による解決しかない」というすごいものだったが、それだけ兄弟で対立が起きると解決は難しいことが浮き彫りにもなった。いい経験でもあった。兄弟という「横」の関係だと構造的に対立しやすく、それを元に戻ろうとする力はない。むしろ対立を激化する力しか発生しないというのがお孫さんのダスラーさんの印象に残った一言だった。
となると、結論は「事前に対立の芽を摘んでおく」ことしかない。昨年の受講生は(中国人を除いて)早速、その対策に入っているようだ。