慶應高校の107年ぶりの甲子園優勝に驚きー野球校化には異論もある? | 日本ファミリーオフィス協会

慶應高校の107年ぶりの甲子園優勝に驚きー野球校化には異論もある?

私が大学に在籍していた1980年代は、慶應の運動部は総じて弱かった。これは運動特待生制度がなかったからだ。野球の早慶戦でも、甲子園のヒーローを揃えた早稲田に大敗するのが常だった。しかし、「それでいい」というのが大勢であったように思う。野球部の知り合いも「PLを入れて勝ってもしょうがない」と言っていた。

 

1970年代には「慶應の江川事件」というものがあった。なぜか江川卓が慶應を受験したのだ。さすがに点数は足りなかったが江川一人のために「教授会」が開かれたそうだ。江川は数十年に一人の逸材であったため「取りたい」という教授もいたが、それをやったら慶應でなくなるという意見が大勢だったようで、江川は不合格になった。私は中学生だったが、世間でも大騒ぎで賛否両論あった。

 

時は移り、2000年代になると慶應高校(塾高)では野球の特別枠を設け年間10人程度の野球エリートを入れるようになったという。もちろん、そうしないと激戦の神奈川予選で勝てるはずもない。但し、慶應の「伝統」もあるため中学での成績のいい若者だけを入れているそうだ。妥協の産物とはいえ、OBの間ではいろいろな意見もあろう。

 

私のゼミの石川忠雄先生は、1970年代から90年代まで塾長を務め、体育会にも力を入れていたが、ある時「運動特待生」について聞いたことがある。先生は江川を落とした張本人でもあったが、基本は「運動だけで合格させるようなところは大学とはいえない」ということだった。先生の理想は、1986年に慶應ラクビー部が特待生なしで日本一になった、あの姿だ。

 

これこそが「陸の王者」の姿だろうが、強豪校はどこも運動エリートを特待生で入れている今の学生スポーツでは、特待生なしで「陸の王者」の復活は不可能だろう。しかし、特待生がいないので運動部が弱いことをむしろ「誇り」と感じる少数派もいて、またその人たちも優勝すれば嬉しいという感情もあり、この問題には正解はないような気もする。

 

個人的には昨年から慶應ビジネススクール(日吉にある)で講座を始めたため、日吉が賑わうのは大いに嬉しい。