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慶應連合三田会での伊藤公平塾長の話ー日本の大学は「なぜ」に答える余裕がない

10月16日の連合三田会では、河野太郎大臣の基調講演に続き、伊藤塾長が加わり対談風な話になったが、伊藤塾長はこの5月から海外の提携大学中心に大学学長と懇談をしてきたという。

 

その中で気付いたのは、日本の大学は学生からの「なぜ」に答える余裕がないのではないかということだそうだ。日本の教育システムを考えれば当然で、大学でも教科書があり、それを一応は終わらせることが必要だ。教科書を読んで、湧き出た疑問を議論するような授業はないのではないか。また教授もそういう授業はやったことがないのでやりたがらないだろう。

 

しかし、この「なぜ」を突き詰めていく議論、過程に意義があるという。もちろん、途中で「なぜ」が続くと教授も答えられなくなるのだが、この過程で多くの思考力や発想力、想像力が身に着くのではないか。アメリカの中、高は知識の詰め込みではなく、こういう授業をやっているようだ。もちろん大学でも同様だ。

 

日本の大学でも学部はきついかも知れないが、大学院だと自由度があるので、こういう「なぜなぜ」授業も可能ではないかと感じている。前回の慶應ビジネススクールの「ファミリービジネス」の講義でも終わりの方で若い受講生から「なぜ」の質問が出て、皆で議論した。ビジネススクールに来ている人はだいたいこういう議論が好きなので、時間をオーバーしてもやるだろう。

 

慶應でも伊藤塾長の下で、だんだんと「なぜ」に答える授業が増えてくるのだろうが、私の授業では、福沢先生の言われた慶應義塾の目的である時代の「先導者」の育成を目指して、一足早く「なぜ」に答える授業を始めてみようと思っている。

初めて慶應連合三田会に参加ー河野太郎氏がメインゲスト

さる10月16日(日)は、日吉で3年ぶりとなる対面での連合三田会があった(オンラインとのハイブリット開催)。オンラインもあったせいか、参加者はコロナ前の3分の一くらいだったそうだが、それでも大変な人数だった。慶應卒業後、早30数年が経つが連合三田会に出たのは初めてだ。

 

今回突然参加したのは、何よりも40年来の知り合いの菅沼安嬉子氏が連合三田会の会長として初めて対面で御挨拶されたからだ。普通はそうした場合は原稿を読み上げるのが常だが、この方は原稿なしで話す人だ。自分で何度か練習すると覚えられるというから相当な才能の持ち主だ。

 

半年ほど前、菅沼会長にお目にかかり、雑談の中で「今年の連合三田会でメインゲストは誰がいいと思う?」と聞かれた。私は間髪を入れず「河野太郎でしょう。伊藤塾長と対談させたらいいですよ」と申し上げた。河野太郎氏と伊藤公平塾長は旧知の仲なので、この線がいいと思ったのだが、その後、先月プログラムを見たところ本当にそうなっていたので驚愕したのだ。

 

もちろん、私の意見をそのまま採用したのではなく、いろいろな人から意見を聞き、また河野太郎氏がデジタル大臣になったことも大きかったのだろうが、何となくこの対談は聞かなくてはならない気がして日曜日に日吉まで行ったのだった。

 

また、9月から基本、毎週月曜日の夜に日吉の「慶應ビジネススクール」で講義をやっていて、日吉が身近に感じられていることもハードルを低くした。しばらく祝日などで講義がなかったが、また来週から始まるので、真剣に授業を聞きにきてくれる受講生のために、こちらの準備もぬかりなくやろう。

 

3年ぶりにスイスでファミリーオフィス国際会議に参加ーまだ少人数

先週は3年ぶりとなる対面でのファミリーオフィス国際会議がスイスで開催された。私はコロナ後は海外に行っていないこともあり参加したが、さすがに参加者は少なく、欧州の参加者ばかりで議論もあまり盛り上がらなかった。

 

ファミリーオフィスの会合は秘匿性が高いため、なかなかオンラインの開催は難しく、対面が主流となる。その場合でも、会合で出た議論は紹介はできても誰が言ったかは話してはいけないイギリス流の「チャッタムハウス・ルール」がある。

 

私はいつもの「世界初のファミリーオフィスは三井の「大元方」だった」と説明し、議論を起こそうとしたのだが、今回は参加者が少なかったこともあり活発な議論ができたとは言い難い。来年以降に期待だ。

 

会合の翌日は、スイスを電車で一周したが、ついに「マスク」をしている人に会うことはなかった。ちなみに会合でも皆マスクをしていなかったので、私も久々にマスクを外して話した。

 

また近頃話題の「海外の物価の高さ」だが、スイスでも御多分に漏れず、驚いた現実があった。首都ベルンでラーメン屋があったので入ろうとしたが、値段を見て1スイスフラン150円弱で計算すると、何と4000円だ。翌日帰国する状況だったので、さすがに入ることはなかったが、スーパーへ行ってもコーラが600円だし、知らない間に世界は大きく動いていたと実感した。

 

よかったのは、成田で事前にMYSOSのアプリを入れていたせいか、以前と変わらずスムーズに出てこれたことだ。これからは機会があったら再び海外に出て、日本でも江戸時代からファミリーオフィスがあり、今のところ文献で確認されている中では世界一古いという、「日本発ファミリーオフィス論」を紹介していきたい。

 

 

慶應ビジネススクールでのファミリビジネス講座始まるー二世が多い

昨日から慶應大学大学院ビジネススクール(KBS)での「ファミリービジネス概論」という講座が始まった。日本で一番ファミリービジネス関係者が多いはずのKBSで、ファミリービジネスの講座ができるまで、なぜか時間がかかってしまった。この分野に関心のある教授がいなかったこともある。

 

第1回は参加者30数名から、なぜこの講座に参加したかと、この講座に期待することを伺った。KBSはかつては全日制で2年間仕事をやめねばならなかったが、現在はEMBAという社会人用のコース(職務経験15年以上)が加わり、いろいろなバックグランドの方が参加している。

 

この講座の受講生は、明治ビジネススクールでの経験から、金融機関や士業(公認会計士や税理士)が多いと思ったが、そういう方はほとんどおらず、①勤務先がファミリービジネス、②家業がファミリービジネスのどちらかで、特に全日制の方々に二世が多いのに驚いた。家業を継ぐべきか継がざるべきかの悩みは大きい。星野佳路さんの悩みのようだ。

 

福沢先生が慶應義塾をつくった目的は「実学」を教えることだった。それを慶應の中で一番体現しているのがビジネススクールだ。この分野では日本のルーツ校でもある。1978年にKBSを作ったのが私のゼミの指導教授である石川忠雄塾長だったこともあり、「役に立つ講座」を目指したい。

 

 

誰もが困る後継者問題②ーいい世襲とわるい世襲の違いは?

日本のマスコミはなぜか「世襲」という言葉に嫌悪感を持つ。マスコミは世間の風を読むので、つまり日本全体が「世襲」にアレルギーを持っているということだ。これは日本人独特の嫉妬心にも関係するが、当然、世襲にも「いい世襲と悪い世襲」がある。

 

マスコミは「いい世襲」を取り上げることがなく、報道されるのは全て「わるい世襲」ばかりだ。これでは一般人も「世襲は全てわるい」と感じてしまうが、冷静に考えると世の中の半数以上の世襲は「いい世襲」だ。そうでないと日本には長寿企業など存在しない。日本は世界一の長寿企業大国でもある。

 

世襲で最悪なのは、最初は世襲批判もあるので息子に継がせないと公言しながら、晩年になって突如「親心」を出し継がせる例だ。これでは継いだ息子の方も、準備もしておらず悲惨な結末を生むことが多い。ダイエーがいい例で大塚家具など、マスコミを騒がしたのはほとんどこの例だ。親の代で創業し、事業承継に慣れていない事情もあるだろう。

 

他方、最初から継ぐべき人が決まっていて、幼いころからそういう教育を受けてきた人は最初は「世襲批判」を受けるが実績で批判をなくすことが多い。トヨタがその例で、ほとんどの長寿企業はこの例だ。たまには大王製紙のギャンブラー息子のような例もあるが、これは子弟の金銭教育を怠ったためだ。

 

日本の伝統芸能の能や歌舞伎はまさに「世襲」だ。同様に、変化の少ない経営環境にある老舗もほとんどが世襲だ。その方がうまくいくと経験的に分かっているからだろう。他方、変化の激しいIT業界などは世襲では対応できないだろう。

 

こうしてみると、「世襲がいい業界とわるい業界」があることにも気づく。政界だって世襲批判は強いが、自民党の上層部で活躍している人のほとんどが2世議員というのも不思議ではある。世襲が成功するかどうかは「業界」と「親の教育」だと考えているが、まだまだ日本では全体として世襲が幅を利かせそうだ。

 

 

 

日本電産の永守さんも困る後継者問題①ーファミリービジネスの最大の難題

昨日から日本電産のゴタゴタがニュースになっているが、問題はよくある後継者問題だ。

ファミリービジネスでは必ず起こる問題で、私自身もファミリービジネスの経営に関わっている中で、社長が一番気にしているのが後継者問題だ。日本電産の場合は子息に継がせるという問題ではないが、多くは世襲問題だ。これには日本独特の「世襲批判」がからむ。

 

そもそも世襲批判というのは、親が能力のない息子に継がせることが問題なのであって、政治家では当然批判されるべき話だ。特に日本ではタレント議員が横行するなど誰でも政治家になれるし、それでもやっていけるというのが問題なのだ。しかし、企業では能力のない息子が後継者になると「会社が潰れる」ので、やってはいけないのが大きな違いだ。

 

なぜか日本ではこの二つがごちゃまぜになっていて、何でも世襲は批判される傾向にある。しかし、企業はもちろん政治家でさえ能力のある息子が継げば何の問題もない。事実、トヨタの豊田章男さんも2009年に社長に就任した時には、お決まりの「世襲批判」を受けたが、その後のトヨタの好調ぶりを見て今では批判もなくなり「創業家の凄み」さえ言われるようになった。

 

政治家の問題点は、企業における業績のような評価基準がないことだ。だから能力のない人でも「何となくやってしまう」ことになる。企業の場合は能力のない息子が継ぐと会社が潰れるので、これが大きな自浄作用になるのだ。だから、昔から老舗は息子の能力がないと「婿養子」を取ったり、いろいろな知恵があるのだ。

 

しかし、問題はそう単純ではない。「理」ではそうだが人間には「情」も絡む。息子に能力がないことがわかっても継がせたいのが親心で、これはどうしようもない。そこで現実には能力のない二世がトップとなり問題になることがある。これをマスコミが必要以上に面白おかしく報道し、ファミリービジネスのイメージが悪化することになる。

 

 

昨日の日経新聞の柳沢幸雄前開成校長の話ー5月に北鎌倉女子学園で詳細を聞く

昨日、日経に柳沢さんのインタビュー記事が出ていた。とはいっても字数の関係で背景がよくわからない内容になっており、要は「1000人の令和版遣唐使を出せ」ということだが、その背景はこんなことだ。

 

そもそも、柳沢さんとはハーバードに行った30年以上前に「ハーバードで地球温暖化の研究をしている日本人がいる」と聞いて会ったのが最初だ。その後、アメリカにいた2年間お世話になって、東大に移った後も時々お会いしていた。息子が大学に入った報告もあり、5月の連休明けに、柳沢さんの現在の職場である北鎌倉女子学園に行き、たまたまこの話を聞いた。

 

背景は柳沢さんが東大の蓮見総長の時代に、総長の補佐として大学改革にあたっていた時代に遡る。もちろん、ハーバードでの教職の経験を買われて東大改革に携わったのだ。ところができたことは「60歳定年を65歳に伸ばした」ことだけだったという。私は「それだけでもすごい」と言ったのだが、何と東大の60歳定年制は大正時代に定められたものだそうだ。

 

東大に限らず大学改革は至難の業だ。秋学期制を導入しようとした東大浜田総長もひどい目にあった。大学の教授は、その仕事柄いろいろな理屈をつけて改革に抵抗してくるので(ある大学のオーナーに言わせると大学教授は「屁理屈を考える天才」だそうだ)、現状維持になってしまうことが多い。

 

柳沢さんはその経験から「大学は供給側(大学自身)が自ら変わることはなく、需要側(学生側)の圧力からしか変わらない」という名言を吐露した。需要側を変えていくには現状の留学生数では話にならず、1000人規模の留学生を出すことで、その少なくとも半数は帰国して大学に戻ってくる。彼らは世界標準の学びを日本に持ってくるので日本の大学も教授も変わらざるを得なくなる。これしか日本の大学を変える方策はないという。

 

なかなか柳沢さんらしいシャープなアイデアだが、奨学金の手当の問題や、そもそも今の日本でそれほど多くの優秀な学生が留学を望んでいるかという問題もある。がしかし、これほどのドラスティックなことをしない限り「日本の大学は変われませんよ、世界から取り残されますよ」というのが柳沢さんのメッセージであり、私も全面的に賛同する。

 

今年の慶應ビジネススクール「ファミリービジネス概論」は35名でスタートー来年はもっと増えそう

9月12日から慶應ビジネススクール(KBS)で初めての「ファミリービジネス」講座が始まるが、事務の方から受講生の人数を知らせてきた。今年はコロナの影響で「単科受講」という外部の方の受講ができないので、私の明治ビジネススクールでの経験から30名程度だろうと考えていたが、やはり35名ということだった。

 

来年にはさすがにコロナも終結し、「単科受講」が復活するだろうから人数は増えるだろう。そうなると議論ができるか心配ではある。成績は授業点でつけるので発言しないと点数にならない。アメリカのビジネススクールの授業のようだ。

 

授業点重視ということと関係あるのか、分からないが、既に「〇月〇日は欠席です」などというメールが入っている。まあこうしてくれると出欠を取る必要がないので助かることはある。また聴講の希望もメールで来る。仕事の関係でこの講座に全て出れないので履修はできないが、出れる時には受講したいということだ。アメリカでもこういうことはよくあった。

 

KBSは初めてだが、いずれにせよ福沢先生の「実学」を今の慶應で最も体現しているのはKBSであることは間違いない。私のゼミの指導教授の石川忠雄先生が1977年に慶應塾長になり、最初に行ったのがKBSの創設である。もちろん「実学」を体現するためだ。

 

石川先生は亡くなる直前にもKBSのことに心を砕いていた(それとSFCも。要は自分がつくった二つの組織のことを心配されていた)。学生時代から就職、留学、また独立後も大変お世話になった石川先生の想いを少しでも実現させるため、「実学」にこだわった授業をしてみたい。

 

 

慶應連合三田会会長の菅沼安嬉子医師と久々に会うーご主人が高校の先輩

昨年驚いたことは、伊藤公平さんが慶應の塾長になったことだが、一昨年に驚いたことはやはり旧知の菅沼安嬉子医師が連合三田会の会長になったことだろう。雑誌で拝見し、一瞬目を疑った。どうしても連合三田会の会長というと、長年やっておられたセイコーの服部礼次郎さんのイメージがあり、財界の大物がなるという刷り込みがあった。

 

なぜ私が菅沼先生と知り合いになったか、それは大学3年の4月に風邪を引き、三田の近くの「菅沼三田診療所」という小さな内科医にたまたま入ったところ、そこの院長が甲府一高の24年先輩だったからだ。本当に偶然だ。その奥様が菅沼安嬉子医師だった。

 

その後は風邪とか下痢とかの時に年に1,2回伺っていたが、甲府一高の同窓会でもご主人に声をかけてもらっていた。その同期にはオウム事件の時に警視総監をされた井上幸彦氏がおり、お二人にご指導頂いていた。

 

ご主人の方は残念ながら3年前に亡くなり、非常に悲しい思いをしたが、安嬉子先生の方は意気軒高で、2年前に連合三田会会長という重責を担うことになった。その直後にコロナが発生し、毎年10月開催の日吉での連合三田会はリモートになっていたが、今年は半分対面で開催できるそうだ。

 

安嬉子先生は昔から鬼の記憶力の人で、連合三田会会長としていろいろな場で挨拶をされる時に「原稿なし」で話される。そうなると伊藤公平塾長の方も原稿を見ながらというわけにもいかず、最近は「原稿なし」になっているそうだ。思わぬところで伊藤塾長の負担が増えているようだ。

 

安嬉子先生が会長をされている間は連合三田会の会合にはなるべく参加することになる。同様に、伊藤塾長の間は慶應ビジネススクールを初め微力ながらご協力をさせて頂く。

 

 

 

 

慶應ビジネススクールの「ファミリービジネス概論」は9月12日開始

今年から慶應ビジネススクール(KBS)で「ファミリービジネス概論」という講座を始めるが、全日程が決まった。今年は残念ながら、コロナの関係で「単科受講」ができないので、KBSに在籍している人しか受講できないが、来年からは誰でも受講できる予定だ。

 

本年は残念ながら、星野リゾートの星野佳路さんが社業集中のため来られない。2018年、2019年と東大で「ファミリービジネス講座」をした時には2年連続で来て頂いたが、今はアフターコロナのビッグチャンスなので社業に専念して頂きたい。来年からは来てくれるだろう。

 

外部講師は2名となったが、いずれもユニークな論客だ。一人はロート製薬の山田会長で元KBSのOB会会長だ。灘から東大物理に行かれロート製薬に入ったが、30代になってKBSで学び直しをされた。ロート製薬3代目で、ユニークなファミリービジネス経営の話は聞き洩らせない。特別講演になったので、KBSの人は誰でも受講できる。11月14日だ。

 

もう一人は文明堂の宮崎社長。私が「週刊エコノミスト」で同族企業の連載をしていた時にご登場いただいた方だ。その当時は「大野」姓だったが、創業家の宮崎姓に変え、正式に婿養子となった。「カンブリア宮殿」にも登場されたのでご存じの方も多いだろう。婿養子経営の強さ、あるいはファミリービジネスの強みと弱みなどを語って頂く予定だ。

 

他の講義は私と、元KBS校長の奥村昭博先生(ファミリービジネス学会会長)とで、ファミリービジネスの基本的な論点を解説する。初年度でまだコロナの余韻が残っているので、今年は完璧は期しがたいが、来年は「単科」の方と星野さんが来られるだろうから、相当充実したものになると期待しているところである。