第1位 陪審員2番
何を血迷ったか日本ワーナー、この傑作を劇場公開せず配信だけで終らせてしまった。ゆえに公式なベストテンでは対象外となり、どこの映画祭でも選外となった模様だ。しかしここは私的なベストテン、誰に憚ることなく不動のベストワンとして本作を推したい。イーストウッド最後の作品かともいわれるこの映画、筆者がその最高傑作と信じてやまない『ミリオンダラー・ベイビー』をはじめ、映画史に輝く数々の名作を残してきたこの稀代の映画作家の真骨頂ともいえる一作。肩肘張らないその作風こそ映画界の宝、次作があるなら絶対に見逃せない。
第2位 フライト・リスク
概ね不評の目立つこの映画だが、まれにこれを高く評価する人がいる。そういう人こそ本物の映画ファンに違いない。映画界の異端児メル・ギブソンの反骨精神が生み出した快作だ。低迷するハリウッド映画界にあって、もうやけくそみたいな映画だが91分という簡潔な尺の中に映画の面白さが詰まっている。究極の悪役を禿ヅラで怪演する好漢マーク・ウォールバーグに主演男優賞を贈りたい。
第3位 名もなき者/A COMLETE UNKNOWN
ギター一本抱えてNYにやってきた無名の若者ボブ・ディラン、ピート・シガーとの出会いから今や伝説となった1965年のニューポート・フォークフェスでの『ライク・ア・ローリング・ストーン』の演奏まで、あれよあれよという間に時代の寵児となってゆくその前半生を駆け足で描くこの映画、本人の歌唱ではなくティモシー・シャラメが吹き替え無しで歌う数々のディランの名曲とともに、ディランを信奉する彼のファンにとっては感涙の一編となった。この年最も期待した映画の一つであり、その期待を裏切らない一作だ。
第4位 ハンサム・ガイズ
自称タフガイと自称セクシーガイを自認する中年強面のおっさん二人組が捲き起こすドタバタ・スプラッター・コメディなる触れ込みの本作、細かいことは忘れて大笑いしたいときにうってつけの映画だ。田舎の生活に憧れて買った古びた一軒家が何と悪霊の棲む呪われた屋敷だったという顛末、タランティーノの傑作『フロム・ダスク・ティル・ドーン』をも思わせる破天荒な面白さ。この年一番笑った映画だ。
第5位 プロセキューター
御年62歳のドニー・イェンが衰え知らずのカンフーアクションで魅せる一編。カンフー役者の矜持ともいえる意地を見せた痛快な映画だ。温和な佇まいのドニー・イェン、ジャッキー・チェンやブルース・リーなどのような華やかさこそないが、ホンモノのアクション俳優として健在だ。ラストの地下鉄車内での壮絶な格闘シーンは格闘映画の激アツ名場面として映画の歴史に残したい。
第6位 ひとつの机、ふたつの制服
台湾の進学校として有名な女子高校。そこには昼間部と夜間部があって同じ教室で同じ机を共有する生徒同士には姉妹のような繋がりが生まれるという習慣があるという。この映画はそんな関係の一組の女子の交流を見つめて、悩みながらも成長し、前へ向かって進んで行く二人の姿をあたたかく見守ってゆく。そんな二人の何気ない日々がとても大切なものに思えてくる、爽やかな青春映画の佳作である。
第7位 SPIRIT WORLD-スピリットワールド-
日本映画に入れるのか外国映画に入れるのか迷うが、どうやら外国映画の分類でいいようだ。日・仏・シンガポールの合作だが主演があの大女優カトリーヌ・ドヌーヴなら絶対にフランス映画だろう。日本公演の途上で急逝したシャンソン歌手と彼女のファンでかつてはGSにも在籍していた老人が黄泉の国で出会い日本の各地をさまようという不思議な物語だが、老いたりとはいえドヌーブの姿をスクリーンで見られるだけで嬉しくなる。その白眉は映画序盤のコンサートでの歌唱シーン、絶品である。普段TVのバラエティではお茶目な印象の堺正章が控えめな好演で、映画に深い味わいをもたらせたのも好感度高い。
第8位 TATAMI
監督も主演女優も日本ではほとんど未知、ジョージアの映画とういうのも初めて見る。東京国際映画祭での審査委員特別賞や最優秀女優賞がなかったらおそらく見ることもなかったろう。柔道の世界選手権に出場したイラン代表の女子選手、勝ち進むにつれてイスラエルの優勝候補との対戦が迫ってくるが、国家間の軋轢を避けたい国の都合で無理やり棄権するよう圧力がかかる。いまなお紛争が止まない中東諸国でのスポーツの在り方に一石を投じる作品だが、本来なら国家間の事情など関係ないはずのスポーツの世界においても避けきれない複雑な問題があって、そのことに振り回されまいとするスポーツマンの真摯な闘いが見る者の胸に迫ってくる。稀にしか見ることのない国から届いた、稀にみる秀作である。
第9位 殺し屋のプロット
マイケル・キートンとアル・パチーノの競演となればひと頃ならメジャーの大劇場でのロードショウ、となるところだが今やローカルな小さな劇場での公開とは。なんとも寂しい限りだがそれもご時世、いたし方ない。されど本作、初期の認知症を患い日々記憶の薄れてゆく殺し屋稼業の男の、その人生への落とし前の付け方を描いて、絶妙な味わいのある映画だ。ラスト、刑務所の施設の窓辺に佇む老ヒットマンの姿が、刑務所の花壇に水を撒く『運び屋』のイーストウッドの姿にどこか似て、二重写しのように見えてくるのもオールドファンの郷愁かと思えて泣けてくる、そんな映画だ。
第10位 リアル・ペイン〜心の旅〜
『ソーシャルネットワーク』での好演が印象深いジェシー・アイゼンバークが製作・脚本・監督・主演で4役の本作、まるで性格の違う従弟と二人、祖母の遺言に従ってポーランドへの旅に出る。ポーランド、すなわちアウシュビッツへの旅だ。旅の途上、気ままで人懐こく大らかすぎる従弟が周りの人々を巻き込んで、てんやわんやの騒動を引き起こしながらの旅。その旅の果てに彼らがたどり着くのは、祖母をはじめとする多くの人々が巻き添えになった『本当の痛み』への思い。いっけん気楽な話のなかに忘れることのない過去の出来事への痛切な想いを籠めた作品なのだと思う。
選後所感
次点は『ANORA アノーラ』『F1/エフワン』『セプテンバー5』『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』『ミッキー17』・・・と続く。良かった映画はまだまだあるがこれまた挙げればきりがない。『MaXXXineマキシーン』『ストレンジ・ダーリン』『バレリーナ』『愛はステロイド』『ヴィーナス』等々、女子が活躍する映画が目立ったのもこの年の特徴か、それとも時代の趨勢か。トムクルの『ミッション・インポッシブル/ファイナル・レコニング』は別格。変わらぬトム・クルーズの映画屋魂に頭が下がる。韓国映画では『ブロークン復讐者の夜』『勇敢な市民』が善戦。テンからは漏れたがこれも捨て難い。『ワン・バトル・アフター・アナザー』や『エディントンへようこそ』『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』等は面白くはあるがどうにも筆者の肌には合わない。『アバター』の新作は未見、年末の公開はテンに間に合わず残念だがとくに注視はしていないのでたぶんパス。というわけで、今年もたくさんいい映画に出会えますように、楽しみは尽きません。
2026.1