2023年マイベストテン日本映画 | inosan009のごくらく映画館Ⅲ SINCE2019

inosan009のごくらく映画館Ⅲ SINCE2019

HPでの『ごくらく映画館』(2003)からYahooブログの『Ⅱ』を経て今回『Ⅲ』を開設しました。気ままな映画感想のブログです。よかったら覗いてみてください。

第1位 こんにちは、母さん
 何の捻りも衒いもなく直球勝負のベストワン。こんなまともなチョイスも照れ臭いが、外国映画の1位と同じく安心して観ていられる映画の代表選手のような一作だ。寅さん映画の主人公を吉永小百合に置き換えたらどうなるかという監督山田洋二遊び心満載の温もり溢れる逸品、映画のお手本のような作品だ。軽妙な大泉洋も嫌味なく、『キネマの神様』以来山田組に定着した感の永野芽郁が好感触、どう見ても下町のおかみさんには見えないがいくつになっても吉永小百合、やっぱりいい。山田洋二92歳、まだまだ頑張ってほしい。

第2位 銀平町シネマブルース
 外国映画5位の『エンパイア・オブ・ライト』にも負けじと劣らない城定監督の映画愛溢れる一作だ。助監督の自殺をきっかけに映画を撮れなくなった落ちぶれ映画監督に、『ROOKIES』で一躍注目も女性関係のスキャンダルで一転凋落した小出恵介を起用、もうそれだけでなんだか嬉しくなってくる。皮肉というか洒脱というか、醜聞を逆手に取った絶妙なキャスティングだ。映画は城定監督らしい人間味あふれる人情噺、泣けます。蛇足ながら城定監督には、この年本作と『恋のいばら』の他に『放課後アングラーライフ』なる作品があったと聞くが公開時全くのノーマーク、ほとんど情報もなかった。いったいいつどこで見れたんだろか、残念!。

第3位    ロストケア
 この年一番の問題作だろう。知的障がい者施設での集団殺人事件を扱った『月』も衝撃的だったが、本作では介護施設での連続殺人事件を通して認知症老人介護の問題を問い詰めていく。犯人と検事の丁々発止の取り調べを通じて見えてくるものは、介護する側の厳しい現実、在宅介護の限界、生殺与奪に正義はあるのか等々といった現代社会に課せられた様々な課題だ。犯人は「自分は人々を救った」のだという。激憤する検事はしかし、その問題に答えを出すことができない。そのジレンマが彼女を追い詰めてゆく。松山ケンイチと長澤まさみの迫真の演技が見るものに迫る。 

第4位    せかいのおきく
 坂本順治が全編モノクロ・スタンダードで描く江戸下町の人間模様、と書くとなんとも美しいがさすがにこの題材はカラーでは描けないだろう。長屋暮らしの武家娘と下肥を担いで廻る汚穢屋(今や死語)青年の恋物語だ。糞尿まみれのこの映画がかくも美しく見えるのは、そこに市井を生きる若者の純な『せかい』があるからだろう。一瞬カラーになるときの黒木華の着物姿が美しい。

第5位 BLUE GIANT
 普段アニメにはあまり興味がないしジャズにも疎い筆者だが、この映画にはしびれた。テナーサックスを通じて『世界一のジャズマンになる』夢に向かって邁進するサックス青年と、彼の演奏に惚れ込んでバンドを組む天才ピア二スト、それに加えド素人ながらドラムでバンドに参加するサックス青年の旧友。この3人の成長物語が圧倒的なジャズの音量に乗せて描かれる。その一途な姿とジャズにしびれる、音楽の勝利だ。

第6位    妖怪の孫
 昭和の妖怪といわれた岸信介元総理の孫、憲政史上最長の在任期間を務めた安倍晋三元総理。その長期政権の功罪を検証しようというドキュメンタリーである。凶弾に倒れ国葬が行われた今、その残した政策集団の政治資金問題が告発されつつある中、この映画の真価はなおさら大きなものと思えてくる。その没後もいまだに派閥が××派とその名で呼ばれている影響力の大きさも問われなければなるまい。『新聞記者』『パンケーキを毒見する』など権力への疑念に挑み続けてきたスターサンズの気骨ある一遍だ。余談だが、スターサンズは『宮本から君へ』への交付が内定していた芸文振助成金を不交付とした行政処分の取消し訴訟に最高裁まで争って勝訴した。拍手を贈りたい。

第7位    遠いところ
 主人公の友達のキャバ嬢が吐き捨てるように言う。「沖縄じゃ中学出たら女はみんなキャバよ」。この言葉が沖縄の実情をどれだけ正しく伝えているのか、筆者には分からない。17歳のアオイは幼い子供を抱え生活のためキャバクラで日銭を稼いでいる。しかし当局の手が入り未成年のアオイは店で働けなくなり、八方塞がりの末風俗にまで落ちてゆく。「どこかへ行きたい」と呟くまだ若すぎる母。だからと言って何もしてあげられない自分や、自助・共助・公助と言って結局は何もしてくれないこの国への憤りがこみ上げて、胸が辛くなる。幼子を抱いて海へ入ってゆく彼女、その心の休まる場所があるのはあまりにも「遠いところ」なのかと。

第8位    リバー 流れないでよ
 タイムトラベル映画の傑作『サマータイムマシン・ブルース』や『ドロステのはてで僕ら』など、時折とんでもない傑作を生みだしてきた演劇集団ヨーロッパ企画がまたまた放つトンデモ企画。突然タイムリープに巻き込まれた京都貴船老舗旅館の面々。想定外の出来事に右往左往する人々のあれやこれやの騒動が目まぐるしく展開する。ネタバレ覚悟で言ってしまえば、これまたどこからか出現したタイムマシンの誤作動によるはた迷惑な出来事だったというオチまで、先の読めない面白さが続く。気楽に映画を楽しむ分にはうってつけの快作だ。
 
第9位    福田村事件
 大正12年に首都圏を襲った関東大震災の混乱のなか、意図的に流布された在日朝鮮人の暴動・放火・略奪説。「井戸に毒を捲いた」など根も葉もない噂が人々の不安と猜疑心を煽った。そんな中、都心から少し離れた福田村(現在の野田市)で起こった薬行商人一行への集団殺戮。讃岐出身の彼らの言葉の訛りで朝鮮人と間違われたことによる集団殺人だった。村長らは彼らが日本人であることをなんとか証明しようとするが、激高する村人や自警団には届かなかった。同様な事件は首都圏の関東各地で数多く発生し、殺された朝鮮人の数は数千人に上ったという。福田村の事件は誤解によるものではあったが、自警団に追い詰められた行商団の団長が「鮮人なら殺してもええんか」と叫んだその一言が、集団殺人の引き金になった。映画のプレスに「生存への不安や恐怖に煽られたとき集団心理は加速し群衆は暴走する」とある。世界のあちこちで自己防衛という大義を掲げて戦争が繰り返されている今こそ、噛みしめるべき言葉だと思う。

第10位    ゴジラ-1.0
 ゴジラ映画の革命だ。『ALWAYS三丁目の夕日』の第2作で、昭和30年代の東京にいきなりゴジラを出現させて度肝を抜いた山崎貴監督の、気合の入った本格的なゴジラ映画だ。そのVFXの技量は改めて言うまでもなく、本場ハリウッドをも超えている。シリーズ前作の『シン・ゴジラ』も完全に凌駕したと言える。本作最大の成功要因は、舞台を戦後の日本に設定したこと。もともとゴジラとは核実験の落とし子として誕生した原子爆弾への恐怖のメタファーだった。戦争で焼け野原となった東京の町をさらに追い打ちかけるように破壊しつくす原子怪獣、第1作への回帰である。ゴジラと戦う人間のドラマも、戦争の傷跡から立ち直ろうとする人々の物語として描いた点で秀逸である。ラストではその思わぬ展開に泣けてくる、ゴジラ映画で泣いたのは初めてだ。

選後所感
 こうして並べてみると、選外の『ほかげ』『月』『赦し』なども含めて重いテーマの作品が目立った年だったように思う。コロナが続いた暗雲な世相のせいだろうか。反面
『キリエのうた』『658km、陽子の旅』『コーポ・ア・コーポ』『高野豆腐店の春』『愛にイナズマ』『雑魚どもよ、大志を抱け!』『アナログ』『水は海に向かって流れる』『銀河鉄道の父』等々、様々な形で人生を応援する作品もあり、『リボルバー・リリー』『BAD LANDS』『最後まで行く』『唄う六人の女』『怪物の木こり』等々といった肩肘張らず映画を楽しめた作品も多かった。宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』も別格として記憶に残しておきたいと思う。この年もまた1年、映画を楽しめたことに感謝したい。


                        2024.1