2023年マイベストテン外国映画 | inosan009のごくらく映画館Ⅲ SINCE2019

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HPでの『ごくらく映画館』(2003)からYahooブログの『Ⅱ』を経て今回『Ⅲ』を開設しました。気ままな映画感想のブログです。よかったら覗いてみてください。

第1位 フェイブルマンズ
 安心して観ていられる映画があるとすればまさに本作のことであろう。アクション映画でもなければ冒険映画でもスリラーやミステリー、それに社会派問題作でもファンタジーでもない。そうした様々なジャンルで傑作を作り続けてきたスピルバーグのほっと一息といえそうな、あえて言えばファミリー映画といえそうな、これは肩の力の抜けた悠揚自適な自伝のような作品だ。ジョン・フォードに面会し映画の極意を薫陶され、意気揚々と未来に向かって歩いてゆくラストの高揚感。スピルバーグの出発点がここにある。  

第2位    対峙
 セラピストの計らいによって面会することになった、銃乱射事件の被害者と加害者双方の両親。映画は、ひとつの丸テーブルをはさんで対峙する4人の会話を、ひりひりするような緊張感をもって追っていく。そこから見えてくるものは何か。ただただ息子を愛し、ただただ普通に育ててきたのに、片方は銃を乱射の果てに自殺し、片方は理不尽にもその犠牲となった。被害者の父母は何故そんなことになったのかを問い詰め、加害者の父母は返す言葉もなく痛恨の思いを訴える。「社会からは袋叩きにされている」と吐露する彼らもまた被害者なのかもしれない。話し合う中で芽生えてくる互いを思いやる気持ち。別れ際、加害少年の母を抱きしめる被害少年の母、涙が止まらない。

第3位 トリとロキタ
 ともに難民のトリとロキタは密入国の途上で知り合った偽りの姉と弟だ。保護施設に引き取られた弟にはビザが発給されたが、密入国が疑われた姉はビザが取得できない。そのため正業に就くことができず、麻薬密売組織の手先となることくらいしか生きるすべがない。そんな過酷な運命の二人がどうやって生きていけばいいのか。『息子のまなざし』『ある子供』『サンドラの週末』『午後8時の訪問者』等々、社会の片隅で必死に生き抜こうとする人々を見つめ続けてきたダルデンヌ兄弟の彼らを見つめる眼差しは、どこまでも冷徹だ。学校を出て家政婦になりたいというささやかな夢さえ無残に打ち砕かれてゆく。弱者に冷酷な社会。作者のその冷徹な目が静かに訴えかけてくる。こんな社会でいいのかと。

第4位    ティル
 1955年の夏、黒人少年エメット・ティルが白人女性に口笛を吹いたことに端を発した拉致・暴行・殺人事件。その事件をもとにボブ・ディランが1962年に唄った"The Death of Emmett Till"。彼のセカンド・アルバムに収録されるはずだったその曲はレコード会社との折衝の末、発表が見送られたという、その経緯はあまりにも有名な話だ。後の公民権運動にも大きな影響を与えたというその事件の顛末と少年の母の勇気ある行動が本作の主題である。今も根深く残るアメリカの黒人差別。語り継がれることにこそ意義がある、映画の真価が問われる作品なのだと思う。

第5位    エンパイア・オブ・ライト
 2001年のジム・キャリー主演『マジェスティック』にこんな台詞があった。「どんなにつらいことがあってもここにいる間だけはみんな忘れることができる」。『ここ』とは映画館のことだ。本作を見て真っ先に浮かんだのがこの言葉だった。名作『ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』などを手掛けたフランク・ダラボンによる名セリフだ。本作のサム・メンデスにその影響があったかどうかは定かでないが、映画(と映画館)を愛する心情に変わりはないと思う。本作に胸打たれる映画ファンたる私らも同様、その映画愛が胸にしみる。

第6位    コンパートメントNo.6 
 古代人が残したという岩盤彫刻を見るため北極圏へ向かう寝台列車の旅。根は優しいがちょっとツンデレな彼女。そんな彼女のコンパートメントに偶然乗り合わせた出稼ぎ労務者風の無骨な男。一人旅の女性と見知らぬ男、狭いコンパートメントには当然のように不穏な空気感が漂う。だが長い旅を通じて徐々に打解けてゆく二人。ぶっきらぼうなラブストーリーといえば当っているだろうか。不器用で孤独な魂が純な心に癒されてゆく、そっけない中にも味わい深い映画だ。

第7位    ガンズ・アンド・キラーズ
 いまどき珍しい本格西部劇。妻を殺された男とその娘の復讐談。ありきたりといえばありきたりな定番の西部劇だが、J・ウエインのかの名作『勇気ある追跡』を思わせる初老のガンマンと少女の旅、という設定がまず嬉しい。『炎の少女チャーリー』でラジー賞ノミネートの実績を持つ12歳のライアン・キーラ・アームストロング、主演のニコラス・ケイジをも食ってしまったその佇まいがいい。概ね酷評の目立つ作品だが、95分という短い尺に詰めこまれた西部劇の真髄、その心意気が嬉しい一本だ。

第8位    ヒンターラント
 全編斜めに傾いた背景の中で繰り広げられる犯罪ミステリー。長い間の捕虜収容所生活から解放され祖国に帰還した元刑事の兵士。ブルーバックで作りこまれた歪んだ世界観が支配する異様な緊張感が、まるで戦争のトラウマから抜け出せない主人公の不安定な心の内を表しているかのように見える。物語はあの『セブン』を思わせるような、怨念に満ちた復讐殺人劇。凝った絵作りがその異常感を際立たせる。中盤の一瞬と映画の終盤、田舎に疎開した妻が暮らす山合いの村の風景が、安定した実写の画面になるその瞬間に、戦争のトラウマを乗り越えて前に向かって進もうとする主人公の希望と安堵が滲み出る。映画に命が宿る瞬間だ。

第9位    モナ・リザ アンドザブラッドムーン
 視線で人を操ることができるというぶっ飛んだスーパーヒロインの登場。デ・パルマの『キャリー』をはじめとして超能力少女が暴れまわる映画は数あるが、キモはその力をどう使うかにかかっており、タランティーノ調と評される本作では見事にそれが嵌っている。ホラーではなく痛快女子成長談の一席。ピュアでクールな彼女の個性にも引き込まれ、いつの間にか彼女を応援している自分がいる。その彼女を追い詰める黒人巡査の登場がまた得難いキャラとなって映画を牽引。次があるならぜひ続きが見たくなる。これは面白い。

第10位 キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
 前記9位と似たようなタイトルで紛らわしいが内容は全く違う。上映時間3時間超を一気に見せてしまうスコセッシ渾身の力技。内容がやや重いのが難点だがそこはスコセッシ、ディカプリオに財産目当てでインディアン女性と結婚するグータラ男を演じさせ、デ・ニーロには表向き奇特な慈善家を装いながら裏では利権をあさる悪徳事業家を演らせて、そのどちらにも共感を持たさせずに映画をもたせてしまうのはさすがとしか言いようがない。ラストで事の顛末を解説するTVショーのMCを監督本人登場で進行するのはご愛嬌。見ごたえ満点の必見作だ。


選後所感
 次点以下は『ウーマン・トーキング私たちの選択』『ノック終末の訪問者』『極限境界線-救出までの18日間-』『アシスタント』『オクス駅お化け』『ザ・ホエール』『理想郷』.etcと続く。コロナやハリウッドのストライキなどで揺れたこの1年だったが、そんな中でも光るものがあった10本。次点以下も含めてどれも捨て難い。選外だが『インディ・ジョーンズ』と『MI』シリーズの新作には映画の楽しさを満喫した。ソクーロフの『独裁者たちのとき』は別格。強いて入れるならベスト・ワンでもいい。カウリスマキの『枯れ葉』とディズニーの『ウィッシュ』は未見。ワーストワンは通称『エブエブ』、アカデミー賞には申しわけないが私には響かなかった。

                        2024.1