タクシー絡みのネット記事等を見ていると、タクシー業界の高齢化と人手不足に関わる記事を見る。しかし、読んでいて正直なところ首を傾げたくなるような内容のものも散見されたりして。
過去の記憶を掘り起こして、いくつか挙げてみるといたそうか。
〇タクシーが完全歩合だというのは間違いで基本給は存在する。
……全体の何%かは不明だが、確かに歩合の他に激安ながら(嘘偽りなく本当の意味での)基本給を設定している会社がある。が、これは全体的(全国的)に見て非常に少数派のケースと考えて間違いないだろう。また、ある記事では基本給が20万円弱くらいの会社が多いといった風に読む者をミスリードさせかねない書き方のものもあったが、これは三大都市圏のようなタクシーのみならず、全産業の平均賃金が元々高い地域限定の話ではなかろうか。
地方都市などではそんな話は滅多に無いだろうし、仮に基本給があっても、精々12万円前後が良いところでは。ちなみに47都道府県でタクシードライバーの平均年収が三百万を超えている県も少ない。(確か全都道府県で20県に満たない。最高が東京の400万円オーバー)
〇一見したところ一勤務の拘束時間が長いように見えるが休みが多く、実質的にには自由な時間が多い。
……これも誤解を生む表現ですな。実際は長時間拘束な上に労働時間帯が不規則になりがちな事からくる独特の体力消耗の問題があり、休日や仕事と仕事の間に設けられる休息期間(24時間に満たない短い休日)には、ただグッタリして過ごしている人も多いと思う。また、「うちは一般的なサラリーマンとは違い、特殊な法体系の中で動いている業種だから」と言い張り、乗務員に有給休暇を一切与えていない会社も少なからず存在している。(ちなみに上記の理由は嘘っぱちで完璧な法律違反)
追記:現在の政府は「働き方改革」で「どんな業種でも例外なく年に5日は有給休暇を与える様に」という方針を打ち出している。これに際して「有給など与えていたらウチの会社は潰れてしまう」という相談が特に地方の社長さんから業界団体に寄せられる事があるそうだ。これは要するに「業界団体が時の政府に陳情等をして、タクシー業界だけは「働き方改革」の埒外に置いてもらえるように、どうにか交渉して欲しい」という事であろうが、タクシー協会等は原則的にこれに関して否定的なスタンスの様だ。
というのも、安倍内閣が「働き方改革」を提唱した際に、運輸関連の業界団体も首相の元を訪れて色々と交渉をした結果、「2024年3月までは労働環境の本格的な改善に関して時間的猶予を与える」という言質をなんとか引き出す事が出来て現在に至っているのだ。これ以上の交渉はもはや不可能だろうし、何よりこれまでになく過重労働に対する世間の目が厳しくなっている昨今、更なる業界のイメージダウンは避けたいところだろう。「ブラック業界の味方をする怪しげな団体」などと世間からレッテルを貼られたら最悪だ。
〇一日20時間前後の勤務である。
……これも概ね平均賃金やGDPが高く、人口密度の高い都会の会社の話ではなかろうか。一日20時間前後の拘束で働かせるタイプの会社は法律の縛りもあり、一ケ月13日前後の勤務になる。しかし地方の多くの会社は一日12~16時間(同じ拘束時間で延々と働くタイプと、複数種の拘束時間のミックス状態で働くケースがある)くらいで、月に18日~23日くらいの勤務が多いのではないか。
それで合計すると、実は都会の会社よりも月の総拘束時間が大幅に長くなる事例も多々あると思われる。前者の一日当たり20時間前後拘束するタイプでは、労使合意があっても月に270時間までしか拘束できないが、後者のような一日当たりの拘束時間を短めに設定し、尚且つ小刻みに働かせる方式だと労使合意が有れば月に最大322時間まで拘束できる。特に地方の会社はこうやって売り上げの不足分をカバーしようとするのだ。
さて、ジャーナリストやアナリスト、それからコンサル屋が書くタクシー論が微妙に『ズレた内容』になるのは仕方がない。だって部外者で細かい事は知らないだろうし、取材、調査したところで経営者や幹部、または『会社のお気に入りの優等生ドライバー』は業界の恥部を巧みに隠した耳当たりの良い話しかしないだろう。
で、そんな状況で簡単な聞き取りを行い、大まかなデータを基にタクシー業界の現状と処方箋を語る事が多いと思う。そして結論は概ね「キツイと言えばキツイけど、世間で言われている程にブラックな仕事でもありません。それは誤解のようですよ」といった内容で、業界の陰の部分をキチンと論じる事の無い、単なる灯記事となって終わる事が多い。そう、実際は何の効果も無いプラセボ効果頼みの処方箋ね。