こんにちは、池上校講師の木村美那子です。
前回のアラベスクの記事を書く際に、たくさんのアラベスク模様やグロッタ(地下洞窟、墓所)の壁画を改めて見て、また自身のレッスンでもより細かくチェックをしたのですが、アラベスクは考えれば考えるほど難しいものだと痛感しました。
それはアラベスク模様をずっと見続けると目が回ってしまうような体験ですし、グロッタに描かれた動植物の様子に不思議な(時に不気味だったり、不可解な)気持ちになる体験と似ているかもしれません。
今回はそのアラベスクの「4つのポジション」についてご紹介します。
一般的に言われている説明は次のようなものです。
◆第1アラベスク◆
客席から遠い方の脚を軸足として、軸足と同じ側のアームスを前に、もう一方のアームスは横に伸ばして脚をあげる。
◆第2アラベスク◆
客席から遠い方の脚を軸足として、軸足と反対側のアームスを前に、もう一方のアームスは横に伸ばして脚をあげる。
◆第3アラベスク◆
客席に近い方の脚を軸足として、軸足と反対側のアームスを前に、もう一方のアームスを横に伸ばして脚をあげる。
◆第4アラベスク◆
客席に近い方の脚を軸足として、軸足と同じ側のアームスを前に、もう一方のアームスを横に伸ばして脚をあげる。
実際に文章を読みながら、自分の身体でアラベスクに挑戦した人はこんなことに気付いたかもしれません。
「客席に対しての軸足の左右を考えなければ、前になるアームスとあげる脚の関係は、第1アラベスクと第4アラベスクが同じで、第2アラベスクと第3アラベスクが同じではないかな??」
そこまで考えついた人は素晴らしい!
人間の手足の本数は限られていますから、細かく考えても脚の組み合わせは(方向を変えたとしても)4種類、アームスもいわゆる「アラベスクポジション」といわれるものは基本的に(方向を変えたとしても)4種類ずつしかないので、重複したように思われるものがあります。
次の写真を見て見ましょう。
第1アラベスクと第4アラベスクを同じ向きで比べたもの、第2アラベスクと第3アラベスクを比べたものです。
アームスや脚の左右は同じでも、「何かが違う…」と感じた人もいるかもしれませんね。
上半身の傾きや、ひねり具合、アームスの伸ばす様子がそれぞれ異なり、そこから表される「ニュアンス」や「雰囲気」が少しずつ変わっています。
音楽でも長調と短調で、最終的に耳に届くメロディの雰囲気が変わり、同じ短調でもニ短調とロ短調では印象が変わると思います。
また同じハ長調からの自然短音で構成されたイ短調と、和声短音で構成されたイ短調では「聴きやすさ」とでも言うか「好み」というか…の印象が変わって来ます。
そう言えば、音楽にも「アラベスク」と呼ばれるジャンルがありますね!
シューマンたちの時代から始まったとされるアラベスクは、幻想的、装飾的な音楽で、またアラベスク模様のような繰り返しがあったり、奏者の手が唐草模様のように滑らかに交差するものです。
木村の大好きなドビュッシーのアラベスクも有名な曲なので、ぜひ聴いてみてくださいね。
見つめれば見つめるほど、単なる脚あげではない、奥深く繊細なニュアンスを持つアラベスク…この複雑さや答えになかなかたどり着けない性質こそが「アラベスクがアラベスクと呼ばれる理由」なのではないかとも感じます。(木村)