sWitch ◇16 | 有限実践組-skipbeat-

有限実践組-skipbeat-

こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


※出版社様、著作者様とは一切関係がありません。
※無断での転載、二次加工、二次利用は拒断致します。
※二次創作に嫌悪感がある方はご遠慮ください。

 ★ご訪問ありがとうございます。一葉です。

 こちらはだぼはぜ様 とのコラボ連載、のち一葉のみで連載作です。


 前話⇒【123456789101112131415


■ sWitch ◇16 ■





 蓮と社を見送ってから、キョーコはひとり、部屋で悶々としていた。


 希望通り渡米してきたというのに、日本にいた時よりむしろ心はざわついている。



 アメリカに行くことさえ出来れば一日中つきっきりで先生のお世話が出来る、とキョーコは信じて疑わなかった。

 そしてそう遠くない未来にきっと先生は目覚めてくれると。



 それまでの間に自分が出来ることは限られているけれど

 だからこそキョーコは精一杯お世話しようと心に決めていた。



 けれど、なぜそんなことが出来ると信じられたのか。


 宝田社長から話を聞いた時点で、クーの事故の件が厳密に伏せられていることは理解していたはずなのに。

 それを踏まえて少し深く考えれば、こうなるかもしれない事は想像できたはずなのに。



 クーの家族でもない自分が

 どうして一日中、先生のそばにいられると?



 身内でも何でもない自分が特別待遇される理由などどこにもないのに、どうしてそれが出来ると頭から信じることができていたのか。


 一晩経ってはっきりと思い知ることが出来たのは、自分は何もわかっていなかったんだな、ということだけだった。



 想像以上にクーの容体はひどかった。

 病院中からかき集めたのかと思えるほど多くの機械がつながっていて


 声をかけてもピクリとも反応しないその様はまるで蝋人形のようだった。



 そんな状態の先生のために、たとえ自分がしてあげられることがあったとしても、クーの事故の件は極秘扱いであるために昼間は近づく事さえ出来ず


 夜にやっと寄り添うことが出来たとしても、いられる時間には制限があって、何より保護者同伴という許可のもと、仕事を終えて疲れているだろう蓮に無理をさせてしまうことが心苦しい。




 つまり、そういうことだったのだろう、とキョーコは思った。



 社長さんが自分に保護者同伴の条件提示をした理由は、単に自分が未成年だからというだけではなくて、実際に何も分かっていない子供だったからなのだろう。



「 だって、それ以外に考えられないじゃない?私、本当に何もわかっていなかったんだもの 」



 それでもいま、蓮に迷惑をかけてまでやっと渡米できたというのに昼間は何も出来ないまま。

 先生に何もしてあげられないまま、ホテルの部屋で時間を持て余して過ごすしかないなんて。



 もし、自分が本当の家族だったら・・・。

 もし自分がクーの息子さんのクオンだったら

 きっとそばに居られたのだろう。



 そう考えて、キョーコの両目から大粒の涙がこぼれた。



 違う。

 そんなあり得ないことを考えたって意味はない。


 それに、先生の息子さんはきっといま先生のそばにいると思うのだ。



 15歳で時を止めてしまったという彼はきっと

 誰の目にも見えなくとも

 きっと先生の傍らで

 先生の事を見守っているに違いない。


 誰よりも力強くサポートしているに違いない。


 そしてそんな息子さんのために先生はいま頑張っているに違いないのだ。



 目覚めないというのはきっとそういうことなのだ。

 先生はいまクオンくんと一緒に戦っているに違いないのだ。





 ・・・・・・・でも、だとしたら

 私がここに居る意味はあるのかな?



 キョーコの目からボロボロぽろぽろ涙が溢れた。




 こんな

 敦賀さんや社さんに迷惑をかけてまで渡米する意味が本当にあったのだろうか。

 自分なんかいても居なくても良かったのではないだろうか。


 このまま先生のために出来ることなんて一つもないまま

 ちっとも役にたてないまま

 私は結局、日本に帰る事になるのではないだろうか?



 きっと社長さんはそんな未来の状況をとっくに見越していて、だからなかなか許可をくれなかったのかもしれない。





 次々と溢れて来る涙が

 キョーコの自信や信念や決心を一気に押し流していた。


 自分が起こした行動に意味を見出すことが出来ず

 自分がここに在ることに意義を見出すことすら出来ない。


 空回りする無力感だけが、まるで行き場のない雨の様に流れていた。それらが重くのしかかる心の澱になっている。

 今さら分かったところで意味などないと分かっているのに、キョーコはそれらを考えずにはいられなくなっていた。




 悪い方に囚われた思考が質の悪いコピー機よろしく虚しく繰り返されてゆく。


 キョーコがそれを嫌というほど味わっているさなか

 突然ホテルの電話が鳴りだした。



 あまりにびっくりして滝のように流れていた涙の元栓がギュッと締まった。

 キョーコは鳴り響く電話に視線を投げて眉間に深い皺を寄せた。



 海外でも使える携帯電話を自分はちゃんと持ってきている。

 そのことを蓮も社も知っていた。

 従って、二人のうちのどちらからであったとしても、部屋に電話がかかってくることなどまず考えにくかった。



 だとしたら・・・

 今この電話が鳴っている意味はなんだろう。




 考えて

 考えて、ふと、深夜に見た悪夢を思い出して

 キョーコは思いっきり頭を左右に振り回した。


 消去法で浮かんで来たその答えに心の底から震え上がる。



 まさか、まさかと思った。

 そんなまさか、先生が?



 電話が鳴っているのは気のせいではなかった。

 だからこそ余計に激しい拒絶反応が起きていた。


 受話器を取ろうと思っているのに、なかなかそっちに手が伸びようとしてくれなかった。



 まさか、そんなはずない!だって先生はいまクオンくんと一緒に頑張っているはずだもの!!



 そう考えた途端だった。

 キョーコの右手が受話器に届いた。


 持ち上げたそれを耳に押し当て、キョーコは喉を鳴らしてから慎重にハローと言葉を紡ぎ出した。



 もしかしたら、この電話は悪い報せなどではなくて、ひょっとしたら先生が目覚めたことを教えてくれるものかもしれない。

 ううん、きっとそうに違いない。


 突如差し込んできた一条の光を、なぜか信じることが出来ていた。



「 Hello,This is kyoko speaking. 」


「 Hello 」



 果たして

 キョーコの鼓膜を震わせたのは、優しげな女性の声だった。






 ⇒sWitch◇17 へ続く


すみません。ちょい短めでしたよね。

どこまで16話に入れるかで悩んでしまいまして、敢えてここで切りました。



⇒sWitch◇16・拍手

Please do not redistribute without my permission.無断転載禁止



◇有限実践組・主要リンク◇


有限実践組・総目次案内

有限実践組アメンバー申請要項


◇だぼはぜ様とのコラボ連載目次こちら◇

 ⇒コラボ連載及び蓮キョ以外連載・目次