★ご訪問ありがとうございます。一葉です。
こちらのお話は、「ひがなきままに」 を運営されております、だぼはぜ様と、有限実践組を運営しております私、一葉梨紗との原作沿いコラボ連載作です。
※以降、諸事情により一葉のみのお届けとなります。ごめんなさい。
前10話が既に4年前の日付になっていますが…。お付き合い頂けたら嬉しいです。
前話こちら⇒【sWitch/1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・9 ・10 】
■ sWitch ◇11 ■
機内で見た夢を思い出し、蓮は恐ろしい予感を打ち消そうとでもするように小さく頭を身震いさせた。
その微かな仕草にキョーコが気づくことはなく。
彼女は視線をクー・ヒズリに注いだまま、ただ懸命にクーに話しかけていた。
「 先生、聞いてくださいますか。実は私、渡米なんてダメだって社長さんから言われちゃっていたんです。何でですかって聞いたら、私が未成年だからだ・・・って。そんなのひどくないですか?だって今どき未成年だって海外旅行ぐらいしますよね。それなのに 」
キョーコの顔は引き攣っていた。
どうしようもなく声が震えていた。
久しぶりに会えた先生には笑顔で報告したいのに
彼女はまるで銅像のように身動き一つ見せない彼の姿に打ちのめされて
とめどなく溢れ落ちてくる涙を幾度となく服の袖で拭っていた。
「 でもダメだって・・・。なぜなら私のは旅行にならないからって。先生の件は極秘扱いになったから、保護者もしくは成人の付き添いがないと許可できないって。私、その時ほど自分を情けなく思ったことはなかったです。だって、私は先生にお会いしたいだけなのに、そんなことすら出来ないなんて 」
クーの顔色に生気は感じられなかった。
もしいま目の前にいる人物が実は精巧に作られた人形だと言われたら、納得してしまいそうなほどだった。
むしろ、そうであったなら。フェイクだと言われた方がどんなにか楽だったことだろう。
足に力が入らなくなってきて、キョーコはベッドのわきで床に両膝を立てた。
足が崩れるとはこういうことかと頭の隅で思っていた。
「 それで、結局、私ひとりではどうしようも出来なくて、敦賀さんに連れて来てもらっちゃったんです。だから私はいま、ここにいるんですよ・・・・・聞こえてますか、先生? 」
キョーコは横たわったままの手の平に、自分の震える手を添えた。
指にどれほどの力を籠めようと握り返される事のない反応にキョーコの涙が加速する。
「 先生!きっと、お忙しすぎて疲れちゃったんですよね?そういう事ってありますよね。それなら休んでいいと思う。でも、私にだけは教えてください。何時ごろに起きられる予定ですか?教えて下さったら私、その時間に起こしに伺いますから。それまでに沢山ご馳走を作っておきますから、どうかそれだけ教えてください・・・・・ 」
キョーコの言葉が
溢れゆく涙が
力が抜けた彼女の様が
その一つ一つの全てが痛々しく、蓮の胸に攻め入る。
恐らくいつもの彼ならば、静かに彼女に近寄って、泣きじゃくるキョーコの肩をそっと温めていてもおかしくなかった。
あるいは泣き続ける彼女の涙を優しく拭い、きっと彼は大丈夫だと信じよう、と。
そんな慰めの言葉をかけていてもおかしくなかった。
頭でそれは分かるのに。
蓮は病室の入り口から、二歩進んだ所で立ち止まったままだった。
彼女のそばに、父のそばに、今にも駆け寄りたい気持ちはあるのに、その次の一歩がどうしても出てこない。
「 ・・・・どうか、教えてください、せんせぃ・・・・っ 」
理由は分かっていた。
横たわったままの彼を蓮は見下ろしたくなかったのだ。
そしてそんな彼を見て心を乱したくもなかった。
なぜなら、その些細な機微にキョーコが気づくかもしれないから。
敦賀蓮として、彼らしく振る舞うことはもちろん出来るという自信がある。
どんなに動揺したとしても、決してそれを態度には出さない自信もあった。
けれど、どんなに蓮が蓮らしく振る舞おうとも、彼女は自分のそれを見抜いてしまうかもしれないのだ。
それだけは避けねばならない。
今はまだ明かすことなど、決して許されないのだから。
甲高く響く機械音と、震えるキョーコの涙声だけが奏でられる病室の入り口で、蓮はいつしか結ぶことも組むことも出来ずにただ脇に下げていたはずの両手で、握りこぶしを作っていた。
そこにありったけの力を籠めて。
そんな重苦しい時間がどれほど過ぎ去った頃だったか。
マネージャーの仕事を終え、社が二人を迎えに現れた。
社はまだだいぶ離れた廊下の先に居たが、足音が聞こえてきたことで自分の到着に気付いたのだろう蓮のそれに気付き、蓮に向かって小さく右手を上げた。
もう10時を回ろうとしていた。
病院内の照明はほぼ落とされ、隔離された病室までの道のりは足元を微かに照らす常夜灯のみ。
だから社は気づけなかった。薄暗い廊下の途中で彼女から声を掛けられるまで。
いま自分の目に見えている蓮と、姿を見ることは出来ないものの、恐らく病室にいるのだろうキョーコと、隔離された病室に今向かっている自分の他にもうひとり、誰かがそこにいることに。
だから声を掛けられた瞬間に社はこう考えていた。もしかしたら分岐した廊下の先にナースステーションでもあるのかも、と。
「 excuse me,what is your name? 」
しかし社のその予想は外れていた。
声の主はジュリエナだった。彼女は恐らく今日の仕事を終えて夫の様子を見に来た所だったのだろう。それだと分かるスタイルをしていた。
社はジュリエナと面識こそなかったが、もちろん顔は知っていた。
「 ここは許可なく立ち入っていい場所では・・・ 」
「 ええ、知っています。大丈夫です、安心してください。俺はマスコミではありませんので。初めまして、ミセス。俺は社倖一です。LMEの社長から連絡が来ていませんか?俺は敦賀蓮のマネージャーで・・ 」
「 え? 」
あの子がここに来ているの?
瞬間、顎を弾ませ病室を目視したジュリエナと蓮の視線がかち合った。
咄嗟に息をのんだ蓮は、その場で深く頭を下げた。それこそ日本人らしく。
ダメだ、母さん。頼むから。
あなたの息子はここにはいない。
俺は敦賀蓮なんだ。どうか、どうか・・・。
多分、それは正解だった。
今にもクオンの名を呼んで駆け寄りたい気持ちを何とか制し、ジュリエナは涙を堪えた。
⇒sWitch◇12 へ
excuse me,what is your name?は、どちら様ですか?の意。
who is youは、あんた誰?みたいな意味なのでジュリさんには相応しくないかなって。
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