sWitch ◇10 | 有限実践組-skipbeat-

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■ sWitch ◇10 ■





 なるべく目撃されないように、との配慮から、蓮とキョーコが病院の敷地に足を踏み入れたのは夜9時を過ぎてから。

 変装していた二人は初めて訪れた病院にも拘らず、周囲には一切の関心を示さず、教えられた通りにただひたすら足を進めた。



 時間が時間なだけに、病院は静まり返っていた。

 クーの病室は完全に隔離されていて、一般入室はおろか、誰かが偶然病室前を通り過ぎる…なんてことすらあり得ない場所に存在していた。


 この件は極秘事項だと言ったローリィの言葉が甦り、本当に現実なのだと改めて思った。



 紳士らしく、レディーファーストの姿勢で蓮がドアノブに手を伸ばす。

 促されて先に入室したキョーコは、けれど一歩を進んだそこで立ち止まった。



 病室に活気などは微塵も無かった。目に見えない重苦しい空気だけが漂っていた。

 彼の命を支えているであろう鼓膜に届く甲高い機械音だけが、耳障りなほどはっきりと響いている。



 祈りを捧げたい気持ちは今もって変わることなくキョーコの胸中を支配していた。



「 ……っ… 」



 なんと言おうとしたのか。

 自分の胸に両手を押し付け、立ち止まったキョーコはベッドに横たわっているクーをまっすぐ見つめている。


 もしかしたら信じられない…と否定したい気持ちと、目の当たりにしてしまった現実に打ちのめされ、上手く言葉が出てこないのかもしれない、と蓮は思った。



「 ………せ、んせ?………っ……先……? 」



 常に明るい笑顔を持って、誰からも愛され慕われているクー・ヒズリ。


 陽の光が誰よりも似合うだろう彼の人は、けれど今はただ瞼を固く閉じたまま。


 カーテンで閉め切られた電灯の下で、無駄に広い病室の中で、ただ一人惰眠をむさぼっているようにも見えた。



 定期的に空気を肺に送り込んでいるその装置さえ見えなければ……。




「 ……せんせ…? 」



 病室に足を踏み入れはしたものの、二人は中々クーに近づくことが出来なかった。



 ジュリエナの姿はどこにもなく、クー・ヒズリ以外の存在は皆無。



 溺れてゆきそうになる視界の中、キョーコは懸命に目を凝らした。

 佇む蓮を置き去りに、ようやく一歩、また一歩と頼りなく近づいてゆく。


 変わらず聞こえる機械音。



 それさえなければ正真正銘、静寂さが横たわった病室で、キョーコの問い掛けに答えるべきはずの唇はピクリとも動く気配を見せなかった。



「 ……いつでも来ていいよ…って、仰って下さったでしょう?だから、来ちゃいましたよ? 」


 かろうじて留めていた涙がこらえきれずにキョーコの目から溢れると、点滴の管が繋がっているクーの左腕にその一滴がぽたりと落ちる。


 それを見て、蓮は息苦しさを覚えた。





 予定通りのLA行きに乗機した蓮は、疲れているという意識など無かったはずなのに、指定席に腰を落ち着けた途端に誘われるように瞼を閉じた。



 その間の自分はたぶん、とても浅い眠りの中で長い事まどろんでいたと思う。

 にも拘らず、自分はあり得ない光景を見ていた。




 いつの間にか、家に居た。

 日本のマンションではない。両親と暮らしていたあの家だ。


 ずっと慣れ親しんだ、けれど随分懐かしく感じるあの家。



 その光景はまるで、TV画面を見ているかのようだった。


 かつての自分が。

 久遠の姿をした自分が見えた。そのときふと電話のベルが鳴った。


 家の中には誰の気配も無くて

 でもそれはいつものことだった。


 父も母も共に仕事を持っていて、有難いことに二人はとても忙しい人達だったのだ。



 久遠は重い腰を上げ、なぜか躊躇いがちに音の方に手を伸ばした。

 ゆっくりと持ち上がる受話器。



 聞こえてきたのは誰の声だっただろう。そんな細かい事まで覚えてはいないけれど。



 受話器から聞こえて来た問い掛けに、彼はありのままを答えていた。




「 Yes? 」


「 ハロー。お父さんはいるかな? 」


「 父?……残念ですが、つい先日、父は他界しました。だからもう、会えませんよ 」



 ハッと息を飲んだ。

 本当にそうだっただろうか?


 大きな疑惑を飲み込んだまま、無情にも蓮はそこで夢から醒めた。




「 …っ!!びっくり、凄くいいタイミング。いま起こそうと思っていた所よ、蓮ちゃん 」


「 ……っ……っっ… 」



 さすがに何も言えなかった。

 自分の呼吸が乱れていた。


 なぜあんな夢を見たのだろう。


 自分の両手が微かに震えているのが分かった。



 ロサンゼルス空港に到着したのは、目覚めてから30分後のことだった。






 ⇒sWitch◇11


ここで堂々とバトンタッチ!

※だぼはぜさんは執筆スケジュールの都合がどうしてもつかず、残念ながらコラボ・リタイアとなりました。

お話は一葉が責任を持って完結まで書き上げますのでどうぞご了承ください。



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