sWitch ◇15 | 有限実践組-skipbeat-

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 こちらはだぼはぜ様 とのコラボ連載、のち一葉のみで連載作です。


 前話⇒【sWitch/1234567891011121314


■ sWitch ◇15 ■





 翌朝、キョーコは予定時間より少し遅れて、ホテル内レストランに向かった。

 あれからほんの少しだけだが、うとうと出来た時間があったことで起床が遅れてしまったのだ。


 蓮と社の姿を見つけ、キョーコは足早に近づいた。

 それに気づいた社が右手を軽く宙に浮かせた。



「 キョーコちゃん、おはよう 」


「 おはようございます。すみません、ちょっと遅れてしまいました 」


「 全然。俺たちもさっき来たところだし。キョーコちゃんはなに食べる? 」


「 あ、えっと、その前に私、社さんにご相談したいことが・・・ 」



 あるんですが、とキョーコは続けようとしたのだが、キョーコが話しかけたタイミングで社の携帯に着信が入った。


 素早く手袋を装着した社がキョーコと入れ替わりで席を立ち、キョーコに一言断って、社はテーブルからそっと離れた。



「 いいよ。この電話の後で聞くね 」


「 はい、よろしくお願いします 」


「 最上さん、おはよう 」


「 おはようございます、敦賀さん、すみません 」



 おはようの後の謝罪は、挨拶が遅れたことに対してだろうと思われた。


 かしこまった様子を浮かべて社に視線を投げながら、ちょこんと座っているキョーコの両目がやけに赤い気がする。



 昨日、寝られなかったんだな、と蓮は思った。




 間違いなく、この子はグアムで俺を心配してくれたように

 本当に父のことを案じてくれているんだと思った。


 対してその息子は平然とした顔で睡眠を得て

 こうして朝食も食べているというのに。



「 おまたせ。キョーコちゃん、朝食、頼んだ? 」


「 あ、まだ、です 」


「 ここ、色んなメニューがあるから選ぶだけでも楽しいと思うよ。シリアル、パンケーキ、オートミール、オムレツ、スクランブルエッグ、ワッフル、ビスケットにエッグベネディクト 」


「 エッグベネディクト! 」


「 他にもブレックファストブリトーや、そうそう、エッグスラットもあるって 」


「 え、すごいですね 」


「 ね。俺もそう思った 」



 エッグスラットというのは、エッグベネディクトに続くアメリカ朝食で話題のメニューである。


 ハーブなどで味付けしたふわふわのマッシュポテトをガラス瓶に詰め、その上に生卵を落としてからガラス瓶ごと湯煎にかけ、卵が半熟状態が完成品で、トロリとする黄身をソースのようにマッシュポテトに絡めて頂くものだという。



 特にセレブの間でいま話題になっているらしいという話を、昨日、LA行きの機内の中で二人はしたばかりだった。



「 でもお二人ともエッグベネディクトを召し上がっているんですね? 」


「 そ。ちょっと足りないかな、と思って。量的に 」


「 なるほど、確かに 」



 納得したキョーコは、うーんと考えるふりをした。


 確かに瓶に詰められたポテトではハードに動き回る人では足りないだろう。

 でもいまの自分なら・・・。



「 じゃ、私エッグスラットにしてみます 」


「 了解 」



 了解したのは社だったが、蓮が注文してくれた。



「 それで話って? 」


「 あの、お二人が外出されている間の件なんですけど、私は部屋の中でじっとしていようと思っているんです。先生の迷惑になるのは嫌ですから。でも、あの、お昼の時間だけ、外に出てもいいでしょうか?と思いまして。あの、どうしてかというと、レストランで一人ご飯をするのがイヤだな~と思いまして・・・。ですので、あの、コンビニで軽く何かを買って来て、それで部屋で一人で・・・と、思ったの、ですけど・・・ 」



 キョーコの言葉が徐々に鈍っていったのは、まるで観察するかのように社がキョーコをじっと見つめていたからだ。


 自分の意図など完全に見透かされている気がして、キョーコの背中に冷たい汗が伝っていた。



「 そう。キョーコちゃんの気持ちは分かった 」


「 ありが・・・ 」


「 でも却下。今日のキョーコちゃんはお部屋で勉学に励むこと。一人レストランがイヤなら、部屋で食べられるように手配しておくから 」



 そう言って社からにっこりと微笑まれてしまったキョーコは、よろしくお願いします、以外の言葉を見つけることが出来なかった。



 朝食を終え、3人はそれぞれ部屋に戻った。

 社にああ言われてしまった以上、おそらくキョーコは部屋でじっとしていることになるだろう。


 すぐに出かけられるよう、事前に準備を整えていた蓮は、すぐに荷物を手にすると社の部屋に向かった。



「 なんだ、早いな、蓮 」


「 もう準備は出来ていましたので 」


「 そっか。それで?俺が迎えに行く前に俺の所に来たのは、俺に何か言いたいことがあるからか 」


「 見透かされていますね。その通りです 」


「 ってことは、お前の言いたい事っていうのはキョーコちゃんのことかな 」


「 やっぱり、判っていて言ったんですね?部屋でじっとしていろ、なんて。そもそも、最上さんが外に出た所であの子が彼の所に見舞いに来ているなんて誰も想像したりしないですよ。しかもどちらにせよ昼間は病棟に入る事さえ出来ないのに、一日部屋で勉強していろ、なんて。そんなの手につくはずが無いことぐらい社さんだって想像がつくでしょうに、どうしてああ言ったんですか。最上さんが可哀想じゃないですか 」


「 意外。お前がそう言ってくるとは思わなかった 」


「 どうしてですか 」


「 だってお前、キョーコちゃんがクーの所に行くのをあまり快く思っていないだろ。昨日、キョーコちゃんに言っていたし。病室は隔離されているから細心の注意が必要だ、とか、お見舞いは成人の付き添いが許可の条件、だとか 」


「 違います。後者は社さんが言ったんですよ 」


「 俺のそれにお前は速攻同意していただろ。社長からそう言われているって。そんなの、俺たちが黙っていれば判らないことなのに 」


「 ・・・っっ 」


「 だから意外だと思ったんだ。俺も最初からいまお前が言った通りのことを考えていたから 」


「 ・・・だったら、なぜ 」


「 それは、キョーコちゃんが俺にお伺いを立てて来たから 」


「 え 」


「 つまり、キョーコちゃんはそう考えているってことだろ。蓮や俺が自分に付いて来てくれた、ではなく、自分が俺たちに付いてきた、と、キョーコちゃんは自分の立ち位置をそう解釈しているんだ。それはとてもキョーコちゃんらしいと思うし、自然な流れだとも思う。だからこそ俺に行動許可を求めて来たんだろ 」


「 そうでしょうね 」


「 だから俺はそれに答えただけだよ。もちろんそれとは別の思惑も働いた結果だけど。蓮、お前も見ただろう、あの子の目。両目とも真っ赤だったじゃないか。きっと全然寝ていないんだと思うんだ。それに、食欲だってなさそうだった。さっき、無理して食べていたのが丸わかりだったからな。想像以上に大きな瓶で出て来たことは俺たちもさすがに驚いたけど 」


「 そうですね 」


「 そんな状態で、俺たちの付き添いなしでキョーコちゃんが一人で街をふらつくなんてして欲しくないだろ。俺の判断ではあったけど、お前だってそうだろう? 」


「 ・・・・そう、ですね。しかも一人でコンビニへ、でしたからね 」


「 だろ。勉強なんて手につかないだろうってことぐらい俺でも判ってる。だったら部屋で寝ていてくれたらなって思ったんだよ。少しの時間でもいいから 」


「 そう・・ですね 」


「 ところで蓮。さっき連絡があって、今日のスケジュールに一部変更が発生した 」


「 だと思いました。具体的には何が変わるんですか 」


「 実は午前中に予定していた・・・・・ 」



 社の態度に変わりはない。

 つまり、彼は何も知らないということだろう。たぶん。


 なのに・・・。




『 だってお前、キョーコちゃんがクーの所に行くのをあまり快く思っていないだろ・・・ 』




 社の発言にドキッとした。


 どうしてそんなに鋭いのか。

 まるで何もかもを知っているかのように思える。



 社の言葉通り、蓮個人としては、キョーコがクーの所に行くのを推奨する気にはなれなかった。



 キョーコ越しに、父が横になっている姿を見るのはいたたまれないし

 そんな父の姿を見て、心底気落ちしているあの子を見るのもつらいから。



 それに、なにも思い浮かばないのだ。



 温厚紳士、敦賀蓮として

 キョーコをどう慰めればいいのか

 どう励ましたらいいのか

 それが一つも思いつかない。




 昨夜、あの子がそれを求めている事に気付いていながら、早々にあの子を振り切り、ホテルの部屋のドアを閉めてしまった。


 そのとき、演技者失格だな、と思った。



 俺はいま、敦賀蓮を演じ切れていないのだ。




 こんな自分が、己で掲げたこの夢を叶えることが出来たとして

 それを俺は素直に喜ぶことが出来るだろうか。


 そんな未来を迎えるとき、もし父がこの世に居なくても・・・?




 蓮の心に迷いが生じていた。

 何が正解なのか見えなくなっていた。


 社長から話を聞いたときは、あれほど強い信念が疼いていたというのに。



 でも、だからこそ今は前に進まなきゃと思った。



 なぜならこの努力が実を結びさえすれば、久遠に戻ることが出来るのだから。




「 時間になる。行くぞ 」


「 行きましょう 」



 いま自分がやるべきことは

 一日も早くアメリカに認められることなのだ。



 改めて蓮はその志を掲げた。






 ⇒sWitch◇16 へ続く


このお話の連載がスタートしたのが2015年4月。

その月に私は片親だった母をガンで亡くしました。


母のことをきっかけにこのお話を思いついたのです。だから何だ、って話ですけどww

ずいぶん時間をかけてしまいましたが、ちゃんと完結させてみせます。



⇒sWitch◇15・拍手

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