お付き合いいただきありがとうございます、一葉です。
りかちゃん様からの妙番78787リクエストの続きをお届けです。
前のお話はこちら⇒クマくまった【前編 ・後編】 ・おまけ ・ふたたび
■ ドラマった ◇3 ■
最上さんが相手役に決まったと
ニマニマしながら俺の背中を叩いてきた社長から
からかい気味にそれを教えられた時から、このドラマの撮影を俺は秘かに楽しみにしていた。
秘かに・・・のつもりだったんだけど、社さんには見透かされていたな。
「 昨日のキョーコちゃん、すごかったな。何て言うか・・メイクで化けるのはいつもの事だけど、若妻って感じで初々しさが溢れていた 」
「 そうですね 」
「 ちょっとした仕草やセリフ回しもぎこちなさはまるでなくて 」
「 そうですね 」
「 本当にお前の妻みたいだった。びっくりするな、本当に。あの子の才能には 」
「 そうですね 」
「 けど俺、こうも思ったんだよな。もしかしたら経験済みだったのかなって 」
「 え? 」
「 不破と同居していたとき、キョーコちゃんはそういう風に振る舞っていたのかなって 」
「 ・・・っっ!! 」
なんで
そういう想像したくないことをあなたは平然と口にするのか。
「 あっ、出た、そのキュラキュラ笑顔!!お前いま、俺に思いっきり殺意を抱いただろ 」
「 抱いてませんよ 」
「 そうか。じゃあ現在進行形で殺意が湧き出ている最中なんだな、まだ 」
「 それは・・・どういうことでしょう? 」
「 そういうことだろ 」
そうかもしれない。
「 ともかくお前、気をつけろよ。キョーコちゃんはお前の妻役であって、お前の妻じゃないんだからな 」
判ってますよ、そんなこと。
だからこそ楽しみだったんだ。
なぜなら俺は知っているから。
あの子は役柄を憑依させるタイプの役者で
一度役が憑いてしまうと、撮影中はほぼずっと憑けたままだということを。
ダークムーンで散々それを見て来たから。
「 ・・・・・クス 」
「 あ!敦賀くん、おはようございます!! 」
「 おはようございます。今日もよろしくお願いします 」
「 おはよーっす 」
「 おはよー 」
「 蓮さま、来たー!!おはようございます♪ 」
「 おはようございます、マリアちゃん 」
「 蓮さま、蓮さま、かがんで、耳を貸して? 」
「 うん? 」
「 お姉さま、もう京子ママになっているのよ♪ 」
その小声の報告に、俺の口元が嬉しく緩む。
「 ・・・・うん、分かった 」
このドラマでの俺たちの役どころは夫婦で
最上さん扮する敦賀京子の役どころは、とにかく夫である俺のことが大好きで、夫である俺もまた、妻のことを深く愛しているという設定だ。
そんな夫婦の一日は、ハグで始まり、ハグで終わるのである。
「 キョーコママ!キョーコママ 」
マリアちゃんが駆け足で最上さんの元に向かってゆく。
俺が到着したことを聞いて、視線を跳ね上げた彼女の目線が俺の視線とかち合うと、最上さんは愛しい妻らしい微笑を浮かべながら俺に向かって駆け出した。
俺もまた、彼女に向かって歩みを進める。
「 蓮パパ! 」
「 キョーコママ、おはよう 」
両手を広げ
俺に抱き着いてきた君をしっかりと受け止める。
俺の腕の中で俺を見上げて、おはようと呟いて目を細めた彼女は、間違いなく俺の妻の顔だった。
「 おはよう、蓮パパ。今日はちょっと遅かったのね 」
「 さみしかった? 」
「 ちょっとだけ 」
なんて、こんな会話をするのがいま一番の俺の楽しみ。
でもキョーコママ。
本音を言うと俺、ちょっとだけ違うことも期待しているんだ。
出来ることならアイツの前で敦賀京子を憑依させ
キョーコママとして
存分に振る舞ってくれたらなって。
「 ・・・・・っっ?! 」
あれ?
いま、なんか。
「 気づいた、パパ。実はいたの。このドラマの主題歌を歌う歌手があそこに 」
「 え? 」
「 でもいま二人のやり取りを見て帰っちゃったみたい 」
「 ・・・そうなんだ 」
なんだ。あっけなさ過ぎてつまらないな。
「 面白かったのよ、さっき。最初私が現場に到着したとき、お姉さまはまだお姉さまのままだったんだけど、撮影が始まったらすぐ京子ママになってね。それでいくつかシーンを撮影したあと、機械の故障で休憩しようってことになって、不破尚がお姉さまをお茶に誘ったんだけど 」
『 おい、キョーコ。話があるからちょっとだけ顔をかせ 』
『 すみません。私、夫がいる身ですので異性と二人きりにはなりたくないんです。話があるならここでお願いします 』
『 ・・・・は? 』
「 っっって!!!すっごく面白い顔をしていたの!! 」
「 へー。俺も見たかったな、それ 」
マリアちゃんはいまお腹を抱えて笑っているけれど、きっとその時はハラハラしていたんだと思う。
そして不破の誘いを断った最上さんのそれを見て、とても安堵したのだろう。
『 あのね、蓮さま。私ね・・・・・ 』
このドラマの目的は、芝居を通して視聴者に家族の大切さを感じさせること。
娘役に是非、と監督から頭を下げられた日、マリアちゃんは監督からそう聞かされて、絶対出演したいと言ったのだそう。
『 私を救ってくれたお姉さまは、けれど家族愛というものに縁遠い人だと知っているから。せめてお芝居の中でだけでも、少しでも家族を感じてもらえたら、ちょっとでもお礼になるのかなって。
それは偽物だって、言う人もいるかもしれないけれど。それでも感じてもらえたらって 』
マリアちゃんが最上さんに甘えるのは、甘えたいからという理由以外の理由もあるんだな、と思った。
「 二人とも、私に内緒で何の話をしてるの? 」
「 うん?キョーコママのこと 」
「 ええー?私?何かあったかなー 」
「 さっきお茶に誘われたのに毅然とした態度で断ったんだって? 」
「 ああ、それ。当たり前でしょ 」
「 それが嬉しいなって話 」
芝居の中だけだけど
俺たち二人は仲良し夫婦。微笑ましいほど仲良し夫婦。
今はまだ、それでいいかな。
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■おまけ■
昨日、のっけからの寝室のシーンは、あのあとベッドに雪崩れ込んだ二人が夜の生活に移行するための前振りだった。
ただそれらしいシーンが撮れればOKだということだったので、最上さんがベッドに寝転がって、彼女の上に俺が来て、掛け布団を被って本番では光度を絞り、シルエット強めで撮影されたわけだけど。
「 はい、一発OKです! 」
そう言われてホッとした。
正直、クるものがあったから。
自分の動きで
あの子が上下に揺れ動くのを見下ろすのは
色々な意味で酷だった。
「 蓮、どうした?? 」
「 疲れました・・・ 」
1分にも満たないシーンだったんだけどね。
OKと言われた瞬間に
自分でも笑っちゃうぐらい赤面しちゃって
俺はその場でヘタれていた。
ベッドに背を預ける形で。
「 蓮パパ、だいじょうぶ? 」
背後から耳元でささやかれたあの子のセリフに、下半身が熱くなった。
大丈夫だったらヘタレてない!
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