お付き合いいただきありがとうございます、一葉です。
りかちゃん様からの妙番78787リクエストの続きをお届けです。
こちらのシリーズは38巻が出発点なのですが、現時点での時間軸はそこから数か月を経ています。ちなみにその間に発生しているはずの原作の内容は無視していますことをご承知おきください。
前のお話はこちら⇒クマくまった【前編 ・後編】 ・おまけ ・ふたたび
ドラマった【1 】
■ ドラマった ◇2 ■
その日は、もうすぐ夏休みがやってくる、という頃合いだった。
待ち合わせ場所であるラブミー部室に行くと、私の到着が待ちきれなかったのか既にマリアちゃんが部室にいて、マリアちゃんは私の顔を見るなり天使の笑顔で私を見上げた。
「 キョーコママ!私、今度キョーコママと一緒にドラマ出演することになっちゃった。 夏休みは蓮パパと三人で仲良く協力し合いましょうね♡ 」
「 え? 」
・・・というわけで、夏休みに入ってすぐですが、いま私は秋に放送予定のホームドラマの撮影現場に来ています。
そういえばお気づきでしょうか。テレビドラマにはシーズンによって傾向があるということを。
春は引っ越しや部署移動、就職、進学など出会いと別れが多い季節。だからそれに合わせて各局のドラマは恋愛要素が強めになる傾向があって
夏ごろになると新たな生活に慣れた頃だということで、そのタイミングでドラマは仕事メインのものに移行して、下剋上や成り上がりなどが多くみられる傾向になり
そして秋。職場に慣れ、人に慣れ、視聴者の皆様のほとんどが新生活に慣れた頃、ドラマの内容は心を癒すようなホームコメディや、さらにステップアップを促すような医療もの、警察物類が多くなる時期なのです。
※あくまでも一葉見解。
「 このドラマのメインは三人となり、主演は敦賀蓮さんと京子さん、そして娘役のマリアちゃんとなります 」
「「「 どうぞよろしくお願いします 」」」
「 役名ですが、娘役のマリアちゃんの強い要望により、皆様の名前をそのまま使用することになりました。つまり敦賀蓮さんが敦賀蓮役、京子さんが敦賀京子役、宝田マリアちゃんが敦賀マリア役です 」
はい、そうなのです。
蓮パパ、キョーコママじゃなきゃ嫌です、とマリアちゃんが言ったそれを、プロデューサーさんも監督さんもスポンサーさんも脚本家さんも、嫌な顔一つせずに二つ返事だったそう。
「 面白そうだね、それで良いよ!」
で、そうなりました。
「 じゃ、早速ドライ行きましょう。その間にスタッフはカメリハの準備してー 」
「「「「 ハーイ 」」」」
ドライ、というのは、カメラなしで行われる現場でのセリフ合わせのこと。
この時に立ち位置や言い回しなどの最終確認をして、続いて、カメリハ、リハーサル、本番へと移行することになっている。
従って、たとえば15分のシーンを撮影するのにかかる時間は少なくとも要4倍で、プラスNGを出したらその回数分だけ、撮影時間がかさむというわけ。
「 夫婦二人のベッドのシーンからね 」 ※ベッドシーンではない
「 えっ!?いきなりそこからやるんですか?! 」
「 はい、そこからですよ、京子さん。言ったでしょ。なるべくシナリオシーン順に撮るって。スタンバイしてー 」
「 ・・・はい 」
「 最上さん、こっち 」
「 う・・・・・よろ、しくおねがい、します 」
「 よろしくお願いします 」
深くお辞儀をしてからこっそり敦賀さんの顔を見た。
敦賀さんは話しかけて来たスタッフさんに笑顔で応じていた。
そんな素敵な笑顔でなに平然とした顔を・・・。
敦賀さん。私、知っているんですよ。
今まで多くのドラマに出演なさってきた敦賀さんは、けれど強く恋愛が絡むという要素に限ってはダークムーンが初めてだったってことを
だけど、ダークムーンは確かに恋愛要素が強めではあったけど、でもこういうシーンは皆無だったのだ。
敦賀さん。正直に言って下さい。
百瀬さんみたいな美少女ではなく、私が相手役なんて内心困っているんじゃないですか?
そうなんでしょう?内心、すっごく困っているんでしょう?本当は!!
「 ・・・・・なに? 」
「 いえ、別に 」
「 別に?撮影直前にそんな顔をしているくせに? 」
「 そんな顔ってどんな顔ですか 」
「 えー、ベッドシーン?そんなの、どう動けばいいのか分からなくて困ってます、っていう顔 」
バレてる!!
「 大丈夫だよ、最上さん 」
「 なにが大丈夫・・・ 」
「 確かに流れでベッドシーンに入るけど、いざとなったらセツカを参考に振る舞えば問題ない 」
なっ・・・!
バカなことを言わないでくださいよ!
セッちゃんは兄さんが病的に大好き、大好き、大好きで
もし兄さんとベッドシーンなんてことになろうものなら
誘われる前に自分から兄さんの首に抱きついて
あなたの首をベロベロ舐めまくって、噛みまくって、甘えまくってってなりますよ!!
でも今度の役はそうじゃない。
私は敦賀キョーコなんです!
じゃなくて、京子よ、京子。
私の名前は敦賀京子。
「 ・・・きゅん 」
敦賀京子の役どころは、とにかく夫である敦賀さんのことが大好きで
好きで、好きで、大好きで・・・
それで夫である敦賀さんも、妻の京子が大好きっていう役なの。
そんな二人は仲良し夫婦。微笑ましいほど仲良し夫婦。
・・・・・って!!
考えるだけで爆発しちゃいそうなんですけど。
あー、頭がクラクラする・・・。
「 考えない。俺のことを大好きって、そう思ってくれているだけでいいから 」
「 はい・・・ 」
だけでいい。
だけでいいって。
それしかないですけど、私の中には。
夫である敦賀蓮さんを、とにかく愛している妻の役。
確かに
それでいいなら私にだって出来るかも。
「 ドライ、スタート 」
「 京子ママ。おいで? 」
これはドライだから
セリフ以外に確認することと言えば、立ち位置ぐらいで
今はベッドに入る必要も
服をはだける必要もないのだけど・・・
「 俺がいない間、いつも家を守ってくれてありがとうね 」
「 うん 」
ベッドに腰かけた敦賀さんからそっと手を差し伸べられて
ふわりと腕を握られて
まるで妻を慈しむように優しいまなざしを向けられたら
重力に引かれるように私は敦賀さんの隣に腰かけてしまった。
「 今日のマリアはどうだった? 」
「 ふふ、全力で頑張っていたみたい。パパに褒めてもらうんだって言って、宿題も自分からやっていたのよ 」
二人の寝室として用意されていたスタジオセットの中には、かなり大きな姿見もあった。
そこには17歳の最上キョーコではなく、メイクのおかげで少しだけ大人びた、今より少し大人の顔の京子の姿が映っていた。
それが今の私。私の役は敦賀京子。
変化する。変化してゆく、自分の気持ちが。
間違いなく、そのとき私はキョーコから京子に変わっていた。
「 それは知ってる。マリアのほうから宿題やったよ、褒めてーって俺に甘えて来たから 」
「 それで褒めたの? 」
「 褒めたよ 」
「 褒めたんだ 」
「 褒めるだろう、ふつう 」
「 そうよね。私は? 」
「 ん? 」
「 私のことも褒めて、蓮パパ。だって今日も私、掃除もご飯も頑張ったんだから 」
「 そうだよね、褒める。いつもありがとうキョーコママ。ご飯、美味しかったよ。俺、いつも思うんだよな。君と結婚して良かったなって 」
「 ふふ、本当に?私も蓮パパ、褒める!蓮パパ、いつもお仕事頑張ってくれてありがとう! 」
「 どういたしまして 」
「 私もいつも思うの。蓮パパと結婚出来て良かったって。蓮パパ、大好き 」
「 京子ママ。そ・・・んな可愛い顔で言われちゃったら、我慢できなくなっちゃうだろー 」
そのまま二人でベッドに倒れ
互いの顔を見つめながら笑い合い、自然と二人でハグし合った。
本当に大好きよ、蓮パパ・・・・・。
「 ドライOK!! 」
「 はっ?! 」
「 このままカメリハ行きますかー? 」
スタッフさんの声が響いて、セットの外から私たちを見ていた監督さんが手で大きな〇を作った。
それを目の当たりにした私から京子魂が一気に抜けた。
「 はうぅぅぅっっ 」
なんて恥ずかしいの、この撮影!
敦賀さんを見つめて大好き・・・なんて
自分の本心を当たり前のように心の中で呟かせるなんて!
ああぁぁぁ、心底恥ずかしいっ!!!
あまりに恥ずかしくなってしまって、顔から火を噴きそうになってしまった私はそのままじっとしていることが出来なくて、両手で顔を隠して、思いっきり身悶えた。
もんのすごい勢いで。
「 ふおおおおおおぉぉぉぉぉ・・・っっっ!! 」
正直に言うと、ジタバタなんてカワイイものじゃなかった。
かつてセツカだった時にモーレツなチカン行為を働いてしまったあの時の私の様に。
いいえ、あんなハプニングでもない限り絶対に見られなかったであろう敦賀さんの生肌を見逃してしまったあのときより凄まじく。
私はスタジオセットの床の上を所狭しと転がりまくった。
「 キョーコママ?!いきなりどうしちゃったの!? 」
「 ・・・あぁぁ、マリアちゃん。ううん、なんでもないの。ちょっと、急に転がりたくなっただけだから 」
「 なるか? 」
「 あの子はなったんだろう 」
赤い顔でふぅっと息を吐きながら、ちょっとだけ不安になった。
だって今年の夏休みはこのドラマ撮影でほぼ埋まってしまう予定なのだ。
その間、敦賀さんへの私の気持ちがだだ漏れになったらどうしよう。
いえ、それどころか
シーン撮影のたびに照れすぎちゃって、自爆してしまうかもしれないわ。
この夏を無事に乗り越えることが出来るかどうか、我ながら自信ないかも、と思った。
⇒ドラマった3 へ
キョーコちゃんゴロゴローは、合点承知の助のやつw
え?シチュが違う?そこは指定されていませんでしたのでー。
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